第十三箱 ヤスリがけは早すぎると逆効果
フェイデラ王を狙う暗殺者の気配に気づいたクォンタム、ヴァイ、王女キレカの三人は王城の中へ。
暗殺者たちを発見し、その中の一人ヤマトとクォンタムの戦いが始まった。
〇
ウェイは必死に走っていた。
ヤマトが作り出してくれた闘争のチャンスを無駄にするわけにはいかなかった。
はぐれた他の二人を探しながら王城の出口へ向かう。
三階、二階にはいなかった残りは一階。
「くそ、いない!」
もうステルスは解けているはずだ。
だがどこにも見えない。
隅々まで探しているわけではないがステルスが解けた時点て異常に気付くはず。
あいつらなら大声で俺たちを呼んでもおかしくないのにそれもしていない。
「何か妙だ…」
結局見つけられぬままに最初に入った中庭の出入り口まで戻ってきてしまった。
もう見捨てるしかないと中庭へでたウェイの眼にある光景が映った。
それは探していた仲間たちが縛り上げられて重ねられている姿、そしてその上に足を組んで座っている王女キレカの姿であった。
「お前が暗殺者たちの頭目だな。ウェイというそうだな」
「チッ…役立たずがしゃべりやがったな」
「いや、私が強要したわけではない。こいつらが自分たちに手を出せばウェイとヤマトが黙ってないぞというものでな。コローシの事もいろいろ教えてくれたよ。最後の方は正義だのなんだとの意味の分からんことを言っていたがな」
(んっとに救い難いアホ共が!!)
「コローシの件は後でいいとしてまずはお前だ」
「悪いがなぁ。女にやられるほど落ちぶれちゃいないぜ!」
「ほう、なら見せてみろ」
そう言ってキレカは腰の魔剣スカーレットを抜いた。
それを見たウェイはすぐさま闇スキルで姿を暗ます。
「確か高度な闇スキルは存在すらも隠蔽できるというがお前は姿と音を消せるのが関の山というところか」
ウェイは姿を隠しながら彼女の背後に回り、短剣を取り出して彼女との間合いを図る。
顔を見られた王女を見逃せば指名手配されいつかは捕まる。ここで殺すしかない。
刃物を構えて彼女の心臓に狙いを付け、走り出そうとした時だった。
バッと。
いきなりキレカが服を脱いで下着姿になったではないか!
「さぁどうした!私は鎧一つ来ていないぞ。持っているのは下着と剣のみ。それでも私から逃げるか!」
(なめやがって…。だが落ち着け、あの魔剣の能力が分からない限りはいきなり仕掛けるのは危険。煽ってきている以上俺の攻撃をしのいでカウンター狙いだ。だったらスキルも魔剣も使わせずに一瞬、一撃で仕留める!)
素早く心臓を狙った渾身の一撃、その刃は彼女の背中に命中した。
しかしなんということか、その刃は皮膚にかすり傷しか負わせていなかった。
「!?」
驚いたのもつかの間、付けたその傷から赤い針のようなものが飛び出してきた!
それは的確に彼の眼を貫いた。
「ぐあああっ!?」
あまりの痛みにスキルが解かれ、地面をのたうち回るウェイ。
その彼を見下しながらキレカは自分のスキルについて説明を始めた。
「私のスキルは『隠サヌ者』と言ってな。簡単に言えば肌を晒すほど強くなるのだ。下着姿ともなればそうそう刃も通さぬほどにな。そして我が祖母より受け継ぎし魔剣スカーレットの力は『血ヲ統ベル者』。
己が血を武器として意のままに操り、その血は一度他者の体に入ればその者の血を侵食する」
「し、侵食!?」
「もうすでに貴様の血も私の手中だ」
彼女は左手で握りこぶしを作り、掌を上に向ける。
そしてゆっくりと開き始める。
それと連動して彼の体のいたる所がボコボコと膨らんで蠢き始めた。
「い、いやだああ!?頼む助けてくれぇ!!コローシのことなら全て話す!証拠もある!」
「ほう、証拠とな」
「ああ。俺は声や音を出し入れできる魔装具を持ってる!コローシとの会話がその魔装具に入ってるんだ。それがあればあいつをすぐ捕まえられるだろう?その魔装具は俺にしか動かせない!だから助けてくれぇ!」
おそらくコローシに裏切られた時の保険として持っていたのだろう。
「ふざけるな…」
キレカはドスの利いた声を出し、ウェイをにらみつける。
「貴様今まで殺してきた人間たちの命乞いなど聞いた事などなかろう。いや、貴様のスキルなら命乞いなどする間もなく殺されているか。自分は殺すが殺されるのはごめん。貴様が人を殺すことを生業としている以上それは通らん」
「そ、そんな」
キレカの左手が完全に開かれた。
『彼岸花』
ウェイの体は彼の悲鳴すら押しつぶすほどに膨れ上がり、はじけ飛んだ。
まさに赤い彼岸花が花開いたように。
「おっと中庭を汚してはまずいな」
彼女は魔剣スカーレットを地面に突き立てる。
すると侵食し飛び散った血液がスカーレットへ集まり吸収された。
中庭は一瞬前の惨劇などなかったかのようにキレイになった。
その中心にはカラカラに乾いたウェイの骨が積まれていた。
「さてと」
キレカはウェイの遺品の中から先ほど話に出た魔装具を取り出した。
オルゴールの箱の形をした魔装具だ
「スカーレットよ。先ほど侵食した血を私の掌に集めろ」
そう言うとスカーレットが赤く光る。
その光は柄を通して右手を伝わり、魔装具を持っている左手へとたどり着く。
すると左手に持っていた魔装具が動き出すではないか。
彼女は侵食した魔装具使用者の血液を体内に取り込んで操ることで魔装具に持ち主だと勘違いさせて一時的に使うことができるのだ。
魔装具のフタが開いて声が流れ出す。言っていた通りの内容だった。
「これでよしと」
キレカが一息ついた瞬間だった。
白の外からすさまじい光が!
「なんだ!?まさか外で戦っているのか?急いで向かわねば!」
キレカは地面に転がしていた残り二人を首をはねて血をスカーレットに処理させるとクォンタムを手伝いに向かう。
〇
ヤマトと闘っているクォンタムは防戦を強いられていた。
光の速度でヒットアンドアウェイをしていくるヤマト。
シャバルほどの体の周りに纏わりついていくることはないが
一直線に突っ込んで離れて方向転換してまた突っ込んでくる。
「かわせないことはないが。こっちに突っ込んでくる時の目くらましのフラッシュがうっとおしい!」
フラッシュで一々ヤマトの正確な位置を見失う。
「フルブースターじゃあ追いつけない。でもこの機体じゃないと空中戦ができない。闇スキルで何とかならないか?」
「光のエレメントは闇を照らし出す。闇スキルで姿を隠してもあの光で見つけ出されてしまいます」
「クソっ」
「しかし、逆もまた然り」
「逆?」
「眩き光は深き闇の中ではただ己が居場所を教えるだけ」
「…つまり?」
「この周囲を彼がかき消せない程の闇で覆えば…」
「ここら一体をって…」
その時、彼の脳裏にアニメ『機械闘士クォンタム』の中のワンシーンがうかぶ。
(確かシアルさんが勝手に作ってたストック武器に)
「『六連装ミサイルポッド』二つ!弾頭は『レーザーかく乱弾』」
王城内に落としてきたコンテナからレーザーかく乱弾頭を積んだミサイルポッドがクォンタムへ転送される。
「よっし、この距離でもコンテナが反応してくれた!発射!!」
ミサイルは四方八方に飛んで爆発、周囲に妙な煙をまき散らす。
「コンピュータ!軌道演算!」
『了解』
「なんだ?目くらましのつもりか!」
ヤマトは意に介さず煙の中にいるクォンタムへと突進する。
「落ちろ!!」
『演算完了、コチラマデノルートヲモニターニ表示シマス』
「ここか」
クォンタムはレーザーセイバーをの刃をルート上に置く。
すると次の瞬間…。
バシュッとレーザーセイバーが当たる音がする。
「ぐああっ!?」
同時に背後で悲鳴が聞こえる。
振り返るとヤマトが右肩から血を噴き出している。
痛みで光の鎧が不安定に歪み始める。
クォンタムはその隙を見逃さない。背後から彼の心臓をセイバーで貫いた。
「が・・・っ」
「手間がかかったな」
(あ、あの煙にの中に入った時、鎧が全くいう事を聞いてくれなかった…。まるで魅入られたように奴の光の剣へと突っ込んでしまった。僕の光の鎧を破った奴なんて今までいなかったのに…。化け物め)
ヤマトの生命反応が亡くなったのを確認するとレーザーセイバーを消してヤマトの死体を抱えた
「さて王女様は…」
王女様を探すと先ほどヤマトに突っ込まれて壊してしまった窓ガラスからひょっこりと顔を出していらっしゃった。
「終わったかクォンタム!」
「王女様!」
クォンタムはすぐに王女の下へと駆け付けた。
そのままヤマトの死体を引き渡す。
「これで族は全てか」
「おそらく。敵対反応はもうありませんし」
「暗殺者は全滅、裏切り者の証拠も得た。だがまだわからぬ点がある」
「何がですか?」
「結界に守られているとはいえ城の中にはいつも警備の兵たちがそれなりに配備されている。だが今日は城の中に兵が一人もいなかった」
「うーん。兵士たちがさぼったってことは」
「絶対にない!」
「ってことは誰かに命令されて警備から外されたと」
「そんなことができるのは一人しかおらん。考えたくはなかったが」
「どうします?」
「まずはお父様に報告だ。そしてこいつらの雇い主を吊るし上げる!」
〇
次の日の朝。
フェイデラ王とミーラ王妃が謁見の間の席についていた。
王の隣にはキレカとクォンタムが立っており、キレカの手にはウェイから奪った魔装具が。
録音された会話が大音量で再生中であった。
そして彼らの前には跪いて首を垂れるコローシの姿があった。
(お、おのれええええ!腕利きの殺し屋という話を聞いて雇ったというのにまさかあの小娘ごとき全滅させられるとは!!)
コローシが彼らを雇ったのが間違いだったかと言えばそうではない。
実際ヤマトがクォンタムと闘っていなければ違う結果になっていただろう。
今回はそう、タイミングが悪かったとしか言いようがないのだ。
「ここまで証拠がそろっていれば言い訳もあるまい。コローシよ」
「く、くくくく」
「何が可笑しい?」
「王よ。なぜ私がこのような行為に走ったかわかりますか?」
「お主が私の方針を良く思っていないのは前々から知っていたが…」
「そう!貴方のその平和ボケして腐りきった頭!それに私は耐えられなかった!私が仕えたのは勇猛果敢でどんな敵にも臆せず立ち向かうそんなあなただった!!私が愛したのはそんなあなただったのに!!!!」
コローシは血がにじみ出るほど拳を握り締めていた。
「ふっ…。もうあなたのそんな姿を見なくて済むという意味では同じことか…」
そう言うとコローシは兵士たちに謁見の間から連れ出された。
「さて、もう一人か…」
コローシと入れ替わりに入ってきたのはフリージア将軍であった。
「フリージア…」
「弁明などは一切ございません。ただ己が欲望に突き動かされた。それだけです」
「フリージアよ。お前が心のうちに隠しておるものを私は知っているぞ。お前が傭兵だった頃からな」
「!?」
「どうだフリージア、一つ私と剣の勝負をしないか?もし勝てば今回の事を不問にしてやろう。負ければそのままお前の命をもらい受ける」
「なっ!?」
突然提案されたフリージアの罪を賭けた王との決闘。
フェイデラ王の真意はいかに?
つづく。




