第十箱 楽しみにしてたプラモを親父に組み立てられていた時の虚無感はヤバい。
ザバンジル村でのシャバルとの再戦は予想外の援軍によりクォンタムたちの勝利に終わった。
空へと吹き飛ばされたシャバルは遠く離れた森の中へ落ちた。
右手を失い、全身焼け焦げ、マーベックが見たら無様とあざ笑うだろう。
それでもなお彼は生きていた。いや、彼の付けている左腕が無理やりにでも彼を生かそうとしていたのだ。
そんな彼の前にある人物が現れた。
「シャバル?おい!シャバルじゃないか!一体どうしたんだ!?」
シャバルの下へ駆け寄ったのはマールガンであった。
彼の部隊がちょうどシャバルの落ちたところのすぐ近くで拠点づくりをしていたのだ。
彼は持ち前の回復スキルで素早くシャバルの傷を止血し、消毒した。
「これで化膿しないはずだ。体が火傷だらけだったけど幸か不幸か右腕の切断面が焼かれて血が止まっていてくれて助かった」
「おい!誰かシャバルを連れて本国へ戻ってくれ。今製作中の拠点では十分な治療ができない。あ、くれぐれも他の将軍たちにはばれないよう内密に…」
「マ…ルガン」
「シャバル!目が覚めたのか?
「余計な、気を、回すな」
「これも作戦を遅らせないためさ。君がこんなことになってるのを知ったらマーベックなんか仕事ほっぽり出して嫌味を言いに来るし、ズルードも君のお見舞いにきて離れようとしないはずだ。断じて君の為なんかじゃないよ」
「ふ、そうか」
力なく笑うシャバルにマールガンは眉をひそめる。
「そんなに強いのか?君がおっている白い鎧というのは」
「ああ、名はクォンタムと言っていた。しかも奴には似たよう仲間が…ごふっ…」
「無理はするな君はゆっくり体を治すんだ」」
シャバルは物資搬送用の馬車に乗せられて本国へ。
(シャバルがこれほどまで。しかも複数人いるとなると。ああ、出会いたくないな)
〇
戦いが終わって数日後、クォンタムたちはサミラス村の共同墓地へとやってきていた。
そこには巨大な慰霊碑があり多くの殉職した傭兵の名が刻まれていた。
そこに今ハンの名が追加される。
シアルとドナウ、ギルド長、チョウ、メロ、そのほかの多くの傭兵たちがその場に集まっていた。
「ハン、ありがとな。お前があたしを救ってくれたんだ」
ドナウは涙を流しながら慰霊碑に手を添えていた。
「これで盗賊団サルトゥアクラーヌも俺とお頭だけになっちまったなぁ。ハン。オメェの分もおれがスカウトとして頑張るからよ。オメェほどじゃねぇけど俺だって鍵開けはできっから。心配しねぇでくれ」
クォンタムはその様子を少し離れた所から眺めていた。
その時。
「この野郎!どの面下げてきやがった!!」
昨日クォンタムに絡んできたボウルという男が殴り掛かってきた。
その拳をクォンタムは易々と片手で掴んだ。
「ぐっ…この!」
「何か御用ですか?」
「てめぇが!テメェが俺たちをしびれさせなきゃ!俺らも一緒に行ってハンを救えたかもしれなかった!」
「そりゃ俺に突っかかってきたアンタらの自業自得だろう」
「っ・・・!あ、あいつを殺した赤甲冑だってお前を追ってきたらしいじゃねぇか!お前が!ハンを殺したんだ!!」
「責任の一端があることは認めるけどね。アンタにどうこう言われる筋合いはない!!」
クォンタムはブンっと片手でボウルを投げ飛ばした。
地面に転がされるボウル。が、尚も彼は引かない。
立ち上がって再び拳を振りかぶる。
「やめな!そいつを責めるのは筋違い!クォンタムがいなけりゃアタシらは前の罠にかかった時、全滅してた!今回だってこいつがいたからアタシらは生きて帰ってこれたんだ!」
「っ・・・・けどよぉ」
意気消沈する傭兵たち。クォンタムは何も言わずその場から立ち去った。
〇
ギルドにある来客用の寝室にクォンタムはいたそこにはクォンタム・アズラーイルに乗っていた妖精とシアルが正座させられていた。
「確かに金型の王とかの使用者権限はシアルさんに譲渡してましたが勝手にVRヘッド使ってユーザー増やしてあまつさえ機体を渡すなんて。恩人だとしても承服しかねるんですがね」
「ご、ごめんなさい。申し開きもございません」
「わたしもシアルさんに無理を言ってしまった。反省しています」
「今回は私も助かったからいいですけど次からはちゃんと連絡くださいね!」
「はい!」
「じゃ、妖精の、えーと、何さん?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はヴァイとお呼びください」
「分かった。じゃあヴァイ。ドナウやメロさんと同じようにVRヘッドを使ってユーザー登録を解除してくれ」
その言葉にヴァイは首を振った。
「復讐は終わったはず。それ以外に何か使いたい理由が?」
「いいえ、私にはもう家族はいない。森に戻ろうとも思えない。ならば貴方の為にこの命を使いたいと思っています。いらないというならユーザー登録を解除してここに捨てて行ってください」
「…ハァ。野垂れ死にされても寝覚めが悪いか。でも一つ言っておく。私は貴女の命なんていらない。登録もそのままにしておく。ついてくるなら好きにすればいいさ。そして貴女の生きる道は貴女で見つけてください。拠り所にされても困るんですよ」
ヴァイは涙を流しながらクォンタムに頭を下げ続けていた。
〇
次の日の朝。
クァンタムたちは傭兵ギルドを旅だった。
なんだかんだ見送りにはギルド長をはじめ幾人かの傭兵とドナウたちも来てくれていた。
「ありがとなクォンタム。あたしはお前に出会えて良かったと思ってる。これから先もずっとアタシらは仲間だ!」
「ああ、じゃあ行きます」
「ああ!」
ドナウはクォンタムの握った手を離してギルド長の方を向く。
「じゃあ『アタシ達』行ってくるよ!チョウ、メロ!ギルドは頼んだぜ!」
「え!?」
いきなりのことにクォンタムたちの頭の上に!?マークが噴き出す。
「フルブースター置いてってくれないのは残念だけどねー」
「お頭のことを頼みます!旦那!!」
「ワシの自慢の娘じゃ。お主の力になってくれるじゃろうて」
「うっし!そんじゃあ新生サルトゥアクラーヌ!!王都へ出発だ!!ここからなら半日でつくぞ!」
「いや、ちょ!何言ってんだーーー!?」
新たな仲間、ヴァイとドナウを連れてクォンタムたちは王都へと向かう。
〇
ゾーニ国、軍事病院。
そこの一室にシャバルの姿があった。
体は包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「まだ足りないというのか」
彼は二度目の敗北によってもう己の力さえ信用できなくなっていた。
そんな彼の下に。
「ふっ・・・。無様よのうシャバル」
「ギド王…。責任を取れとおっしゃるなら今からでもこの首を差し出しましょう」
「ふん。責任を取るという事を履き違えるな。自分を責め簡単に命を明け渡すことなど責任を取ったことにならん」
ギド王は彼に向かって何かを投げ渡した。
「こ、これは!甲冑の右腕・・・!!」
「責任を取るというならやり遂げろ。どんな犠牲を払おうとな」
「ふっ…。ギド王よ。これでは責任は取れませぬ。『この程度』では奴は殺せません!!」
「ほう。ならばどうする?次は片足でも切り取るか?」
「『全て』を。私の全てを。あの醜悪なるフェイデラ国とその民を滅ぼす為ならば。奴を殺す為ならば!!」
その言葉にギド王は口が裂けるほどの満面の笑みを浮かべていた。
「そうか!ならばくれてやろう!例えその身朽ちようとも我が命令を完遂するのだ!」
ギド王が手を上にかざすと魔鎧の残りのパーツ全てが病院の窓を突き破って飛来した。
「受け取れい!!」
「うあああああああああっ!!!」
すべてを飲み込むほどのどす黒い闇がシャバルの意識を支配していく。
だがその闇でさえ彼の心は染められない。それすら凌駕する憎しみを持っているのだから。
「三度目だ。次はないぞシャバル」
「はい。全ては…我が憎しみの為に!!」
「ふふふ、国への忠誠すら憎しみに飲まれたか。いい、お前はそれでいい。さぁ行け!!」
シャバルの姿がその場から消えた。
「だがしかし、クォンタムという白き鎧の戦士。わしも興味が湧いたわ。他の将軍たちも今は任務を終えて進軍の合図を待っている。フェイデラ国への侵攻がてらに差し向けてみるのも一興か。ククク」
フェイデラ国とゾーニ軍の全面戦争がいよいよ始まるのだ。
次回!王都の謁見!クォンタムはどういう扱いをされるのか?




