4.スキル
私はあの男に背を向けて歩き出した。太陽の位置からして今は正午を過ぎたくらいだろうか。
これからどうしよう。
今持っているのは1食分の食料と水、それに小さなナイフ。
食料は1食分しかないが、この世界(?)に来る前に夕飯は食べていたのでお腹は空いていない。明日の朝これを食べて、昼過ぎくらいまでは空腹に耐えて歩き続けられるはず。
問題は水だ。この量では、熱い太陽の下で長時間移動するにはすぐに足りなくなる。水袋の容量は1Lくらいはありそうだ。しかし、あの男が飲んだのか半分くらいまでしか水が入っていない。
これは今日中に新しい水を確保しないと非常にまずい。
そして、武器だってナイフ1本では心もとない。そもそもこのナイフは本来メインの攻撃用というよりは予備、または解体用のナイフとして使われる類だろう。
「はぁ…先が思いやられる。そもそも今までろくに運動もしてこなかった私が何時間も歩き続けられるわけが無い…どうしよう」
下手したら死ぬかもしれない。その可能性は割と高いように思える。
ここまで一気に考えを巡らせて、問題が山積みだと気がついた私は途方に暮れてしまった。
なんだか泣きたくなってきて、私は考えることをやめる。
『称号を獲得しました。称号:食人鬼』
『ステータスを表示しますか』
あ。私もだいぶ気が動転していたらしい。完全にこの頭の中の声を忘れていた。思考が途切れたタイミングで声が聞こえてくる。
「表示します」
私は声に答える。
---ステータス---
【個体名】鈴木 アカ
【年齢】19
【種族】人間
【状態】通常
【スキル】治癒 浄化 解毒 成長率増加
【ギフト】鑑定 言語理解 適応 アイテムボックス
【称号】食人鬼
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ほう……これは……
ファンタジーだなぁ……
目の前にステータスが表示された透明なスクリーンのようなものが現れる。
いよいよ、ここは異世界であると認めざる負えないかもしれない。まだ何かの実験に巻き込まれたとかいう可能性が無くなった訳ではないが、その可能性は低いように感じる。
さて、気になるのはスキルだ。よく小説ではスキルの詳細を見れたりするものだが、どうだろうか。まず治癒に意識を集中してみる。
治癒:病や怪我を治す。
ほう。次。
浄化:物を綺麗にする。
解毒:毒を分解する。
成長率増加:あらゆる技術や身体能力の成長速度が早まる。
うーん、なんか説明がざっくりしてるんだよなー。仕方ない。最後の成長率増加はかなり使えそうだ。次はギフト。
鑑定:あらゆるものの情報を見ることができる。
言語理解:言葉と文字が理解できるようになる。
アイテムボックス:無限量のあらゆる物が収納できる。
適応:この世界に適応した身体になる。
おー!!!これは…!テンション上がる!!なんというか、小説で見た事のある強そうな名称が沢山並んでいる!もしかしてこのステータス表示も鑑定の能力なのかな。試しに自分自身を鑑定してみる。
---ステータス---
【個体名】鈴木 アカ
【年齢】19
【種族】人間
【状態】通常
【スキル】治癒 浄化 解毒 成長率増加
【ギフト】鑑定 言語理解 適応 アイテムボックス
【称号】食人鬼
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先程と同じステータスが見える。どうやら予想は当たったらしい。
言語理解はまあ、そのままだろう。
気になるのは適応だ。この世界に適応した身体になる。これで、ここが異世界であることが確定した。
具体的にどんな効果があるのかは分からないが、おそらく異世界で生きていく上で必要な身体構造になるということではないだろうか。空気の成分や重力も違うかもしれないし、必要な免疫力なんかもこの身体には備わっていないだろうから。
そしてアイテムボックス!アイテムボックスですよー! 異世界といえば、これですよねー!
アイテムボックス:無限量のあらゆる物が収納できる。
あー。便利。最高。まだ使ってないけど。
そういえば、スキルとギフトって何が違うのだろう。ついでに称号も鑑定しておこう。できるかな。
スキル:その個体が有する特異な能力。
ギフト:神が異世界人である鈴木アカに与えた固有能力。
称号:その者の特徴を示す呼び名。稀に能力が付随する。
神、か……
神なんて信じてはいなかったが、こんなよく分からない現象に巻き込まれた後では信じる他ない。
ここに来たのはやはりその神が関わっているのだろうか。
ギフトにある言語理解や適応が固有能力であるとすると、この世界の異世界人は私1人だけかもしれないな。
そして、鑑定が固有能力なのはありがたい。この物騒な称号、食人鬼が誰かの目に触れずに済む。都合が良い。
グール、か…鑑定するのが少し怖い。
覚悟を決めて食人鬼に意識を集中する。
食人鬼:自ら望んで人の肉を食べたものに与えられる。人食に対する極めて高い適正があり、人肉を強く好む者のみがこの称号を有する。
食した人間の姿に化けることができる。
ああ、私は。
私は越えてはいけない一線を越えてしまったんだな。
「………… 、 …… 、 …………………」
このスキルの中に今足りない水と体力を早急に補ってくれそうなものは無かった。
早く川を探すなり、人里を見つけるなりしなければ。
私はまた歩き出した。
早くしなければ。
布を巻いただけの足に刺さる草がチクチクと痛かった。