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18.夢は冒険者

「バーンは一旦、スライムから離れて、剣を使ってみたらどうでしょう?」


 どうしたらスライムを倒せるか、それにはスキルを使うのがいいだろう。バーンは剣技を持ってる。小さな拳で殴り続けるよりダメージは入るはず。


「剣? 俺、持ってねーし使ったことない」


「なら、私の貸してあげますから」


 私は腰の短剣を抜いてスライムから離れたバーンに手渡す。


「いいのか!」


「これを、スライムの核の辺りに目掛けて振り下ろしてください」


「うんわかった! やってみる!」


 バーンがまたスライムの方へ駆け寄っていく。


「いっけー!」


 ぷにゅ〜う。バーンが剣を振り下ろすも、核まで届かず、スライムのぷるぷるぼでぃに途中で跳ね返されてしまう。頑張れ……!


「もう1回!」


「とりゃー!」


 ぱしゃん!

 剣が核に触れた瞬間、スライムの身体が水のようになって地面に吸い込まれる。ーーそこには核だけが残っていた。


「「やったーー!!!」」


 2人は飛び上がって喜んだ。良かったねえ。


「姉ちゃん、ありがとう! 俺、スライム倒せたよ!」


「うんうん、よかったですねぇ」


 可愛い。目がキラッキラしている。


「ねえお姉ちゃん。お姉ちゃん、私もスライム倒せるようになりたい」


「わかりました、私もスライム討伐の依頼を受けているところなので、一緒に行きましょうか」


「ほんと!? ありがとう!!」


 効率は落ちるかもしれないが、もともと大した報酬でもないのだし、この可愛い2人の為なら痛くない。


「遠くにまたスライムが見えるから、それを倒しにいきましょう」


「「はーい!!」」


 スライムの近くに着く。数は一体。鑑定してみてもさっきのスライムと変わったところはない。


「それでは、スライムを倒しましょうー!」


「「おー!!」」


 バーンとシェンナが天高く拳を突き上げる。


「とりあえず今回は一体しかいないから、せっかくだしシェンナ、やれそうですか?」


 少し怯えた表情のシェンナに声をかけてみる。


「うん……! がんばる。えっと、どうしたらいいかな……」


「シェンナ、風魔法使えますよね? スライムは弱い魔物ですから、怯えずに打ってみてください」


「風魔法!? 私が!?」


 あれ、なんか反応が思ってたのと違う。てっきり、頑張ります! って張り切ってくれるかと思ってたんだけど。


「うん、風魔法……使ってみて?」


「い、いえ、できません……魔法なんて、私に使えるわけがありません」


 どういうことだ……?


「私は魔法なんて使ったことありません。ただの商人の娘に、魔法なんて使えるわけないです……」


 使えるわけないって、そっか…… きっと、今回初めて魔法を使うんだな。私と同じ、冒険者になって最初の戦闘か。これは応援しなきゃ。


「大丈夫です! あなたは風魔法が使えます! 絶対に使えます。風でスライムを切り裂くイメージをしてみてください…… 風の刃です…… 風の刃を想像するのです……」


 私は催眠術をかけるつもりで優しく語りかける。


「風の……刃」


 シェンナが恐る恐る、でも覚悟の決まった瞳で、スライムを見据える。


「風の刃!!」


 シェンナがそう叫ぶと、スライムに向けて短剣の形をした白い刃が飛んで行く。


 ぱしゃん!

 その刃が核に触れた瞬間、スライムの身体が水のようになって地面に吸い込まれる。ーーそこには核だけが残っていた。


「わ、わ、私! 魔法……! 魔法使えました……!!」


 魔法を使えた自分自身に驚いたように、シェンナが興奮して、目をキラキラさせて言う。


「すごいです!!」


「あの、あのですね、バーンが倒した時のことを

 思い浮かべて、お姉ちゃんの短剣の形を風でつくるイメージをしてみたの! そしたらできた!」


「ああ、やっぱりそうだったんですね。あんなに怖がってたのに、頑張りましたね!」


「へへ〜」


 そうして、無事2人ともスライムを討伐することに成功したのだった。


 それから草原を歩き回って、スライムを倒していった。シェンナはやっぱり時々怖くて逃げてしまったし、バーンは癖なのか剣を持っていることを忘れて素手で殴りかかることもあった。大変だったが、途中で休憩をはさみながら、私も10匹程度は討伐することができた。


 それにしても、この2人、性別は違えど、同じ茶色の髪と瞳で、そっくりだ。双子かな。


「あの……姉ちゃん」


 もう少し狩ったら帰ろうかと思っていたら、バーンが遠慮がちに話しかけてきた。


「どうしたんですか?」


「俺たち、実は父ちゃんと母ちゃんに黙って家を出てきちゃったんだ。俺とシェンナが大きくなったら冒険者になりたいって言うと、『お前たちには無理だ。バーンは将来この店を継いで、シェンナはどこかいいところのお嫁さんになるんだ』っていつも父ちゃんに反対されるから、自分たちだけでスライムを狩って父ちゃんをびっくりさせようって思って」


 なんだろうと思ったら、バーンが俯きながら、早口で必死に話し始めた。


 この2人、私と同じ駆け出しの冒険者じゃなかったのか……! どうりで若いわけだ。 長時間連れ回してしまって、申し訳ないことをしたな。


「自分たちだけでスライムを倒して、核を持ち帰ったら、父ちゃんもよくやったなって褒めてくれて、俺たちにだって冒険者は無理じゃないって分かってくれると思ったんだ」


「そっか……」


「うん…… でも今、きっと門限過ぎてるんだ…… だからきっと怒られる。そろそろ帰らないといけない」


 辺りを見回すと、太陽の光がオレンジ色を濃くしてきていた。


「うん、そうですね。連れ回してしまってごめんなさい。私もそろそろ帰ろうかなと思っていたところだったし、急いで帰りましょうか! 家まで送りますよ。一緒に怒られましょう!」


 私不安そうな顔の2人を元気づけたくて、わざと明るめに声を出した。

 ちょっと早いけど、そういうことなら早く帰らないとな。多分、親御さんにちゃんと説明もした方がいい。


「お姉ちゃん、本当はね、本当は15歳で成人するまで、子供だけで街の外には出ちゃいけないの。でも、ちょっとだけって言ったら門番さんが『特別だよ』って言って通してくれたんだよ」


 シェンナがちょっといたずらっぽく笑って、こしょこしょ話をするように話しかけてくれる。


 ダメじゃん門番さん……!

 ていうかシェンナかわええ……!


「それは幸運でしたね。そのおかげでこうやって一緒にスライム討伐できたんですから」


 かわええ……! とか内心悶えていることはおくびにも出さず、自然な表情で答える。


 黙って家を出てくるのは親に心配をかけたり、魔物や怪しい人もいて危険がある。だからいけないことだ。でも、この後2人はお父さんとお母さんにたくさん叱られるはず。あまり責めないでおこう。


「ねえ2人とも、今日は私、とっても楽しかったです。私は、2人は立派な冒険者になれると思うのですよ。この先、色々と反対されたりすることもあるかもしれない。そしてその言葉は、自分以外の多くの人からしたら、正しいかもしれない」


 私は門限を破って親から叱られることを恐れる子供たちを見て、少し元の世界の自分と重ねた。状況も年齢も、全然違うけれど。


「でも決して、その言葉のせいで夢や目標を諦めるなんて、しないでください。たくさん考えて、その反対する人たちもできるなら説得して、味方につけるくらいの気持ちで頑張るんです。私はね、自分が1番幸せになる生き方をするのが、1番いいと思うんですよ」


 人を殺して人肉を食べた私が言えることじゃないのかもしれない。でも、親は子への愛情からその夢を殺してしまうことだってある。


 ぜひとも、この子たちには頑張って欲しかった。

 私は、スライムを倒した時のキラキラした2人の瞳が頭から離れなかった。

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