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16.裏路地の悪魔

「お前ぇ、昨日はよくも無視してくれたなぁ!?」


 冒険者ギルドに入ると、昨日私に絡んできた冒険者にまた絡まれた。

 目の前に立ち塞がるようにして、私を睨みつけている。

 名前はたしか……サップだったかな。

 はー。まだ根に持ってたのかよ。めんどくさ。

 とりあえず、避けてもらおうか。


「あの、私は依頼を受けに来たんです。そこを避けてもらえませんか」


 無視して脇を通り過ぎると殴られそうだったので、一応声を掛けてみる。


 視線がさぁ、怖いんだよ。ほんとやめてくれないかな。


 元の世界の言葉で例えるなら、チンピラのお兄さんに睨まれてる感じ。

 殺気ではなく、相手を怯えさせようとする目。


 だが、こんなやつは治癒でいつでも殺せる。命の危険はない。


 よって、ただただ面倒くさい。


「はぁ!?お前またこのサップ様に避けろと言ったな!?」


 えええ……なんなんだこいつ……

 とりあえず謝っとくか……


「気分を害してしまったのならすみません。私になにか用事があるのでしょうか?」


「はっ! 用事? 用事ねぇ…… お前のそのやけに落ち着いた態度、イラつくんだよ。ちょっと表出ろや」


 ヤンキーかよ……

 さすがに止めに入るかなと思って受付嬢と目を合わせてみる。


「すみません、 ギルド内で怪我をされたり明確な問題に発展しない限りは、ギルドは冒険者同士の争い事には介入できないんです……」


 申し訳なさそうに受付嬢から小声で返事が返ってくる。


 あー、もういいよめんどくさい。


「分かりました。外に出ればいいんですよね」


 半ばやけくそになりながら言う。

 私は乱暴に急かされながらギルドを出ると、背後で「またかよサップのやつ……」という声がいくつか聞こえた。


「さてお前、このサップ様に生意気な態度を取ったこと、ここで謝れば許してやるよ。たかが15,6のガキが調子乗りやがって」


 サップに裏路地に引っ張りこまれて、謝罪を要求された。


 生意気な態度ねぇ……

 確かに普通の駆け出し冒険者なら、サップに絡まれた時点で怖がって、動揺するのだろう。

 私の場合、全くそれがなく、冷静でいたからイラつかせたのだ。


「本来ならここで謝って穏便に済ませるのが正解なのかもしれません……」


「ああ?」


「でも、ちょっと馬鹿にしすぎですよね。私は15,6でもなく19です!」


 ここ重要!


「調子乗ってんじゃねえ!」


 なんだかサップの額に青筋が立ってきたので、攻撃されても対処できるように、鑑定。 


 ---ステータス---

【個体名】サップ

【年齢】38

【種族】人間

【状態】通常


【スキル】格闘 威圧 筋力増加

 -----------


 格闘:体を使った戦闘技術

 威圧:格下の相手に恐怖を与える

 筋力増加:筋力が増加する


「よわっ」


 え? こんなもんなの? スキルが3つだけって……

 クリムソンと私がおかしいのか?


「はあ!? 弱いだと!? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


 サップが右手で殴りかかってきた。

 さすがに格闘のスキルを使っているだけあって、早い。避けられない。

 ……仕方ない。

 身の安全を脅かすものは排除する。


 パアァン!!

 サップの右肩から先が弾け飛んだ。

 びちゃびちゃびちゃ。狭い路地の壁にまで、血液と肉片が飛び散る。


「ぐああああ!! う、腕が!! 腕がああああ!!」


「サップ。これ以上私に構うな」


 私は地面にうずくまるサップにぐっと顔を寄せると、ピッタリ目を合わせる。

 目を見開いて、静かに言葉を紡ぐ。

 漆黒の瞳孔が、シュウ……と大きくなった。


「ひ、ひぃ!!」


「お前、新人に絡むのはこれが初めてじゃないようだな?」


 私は、ギルドを出る時に冒険者たちから聞こえた「またかよサップのやつ……」という声を思い出して言う。


「これに懲りたら、2度とそんな真似はするな」


 私は片腕のままじゃこの先生活していけないだろうと思って、可哀想だったので同じ治癒で欠損部位の右腕を修復する。


「は、はあ!? なんで……」


「んー、意外と集中力いるなこれ」


 さすがに欠損部位の修復は簡単ではなかった。


「け、欠損部位の修復は、最高位の治癒師にしか出来ない!! なんで駆け出しのお前が!!」


「そうなのか。それはまずいな」


 迂闊だった。これが広まっては余計に目立ちそうだ。口止めしなければ。

 私は意識を集中する。


「なら、このことは他言無用だ」


 パァン!

 治癒で唇を破裂させた。

 ぐぷりと一旦腫れ上がったように膨らんで、弾ける。


「!!!!」


 サップは恐怖と痛みで声にならない叫び声を上げる。


「もし喋ったりしたら」


 私は低い声で脅しながら治癒を使用し、血だらけの上下の唇を、端から順番に縫い合わせるようにくっつけていく。


 地面に尻もちをついたままのサップに再度顔を寄せ、ピッタリと目を合わせて。


「ん! んんん!!!」


 せめてもの抵抗のつもりか、サップはうめき声を上げる。しかし、恐怖で瞳孔は縮み、私から目を離せない。

 まるで目を逸らしたら、殺されるというように。


「もし喋ったりしたら、この唇、また縫い合わせに来るからな」


 私はナイフを取り出すと、ゆっくりと、くっつけた唇を切り裂いた。


 ナイフの上に血が浮かぶ。金属の銀色に、赤が映えて美しい。


 サップはがたがたと恐怖で震え出した。


 こんだけ脅せば大丈夫だろ。

 殺すまでもない。


 私は浄化で血液や肉片を跡形もなく綺麗にすると、いまだ尻もちをついて固まったままのサップを置いて、その場を立ち去った。


 ふと振り返ると、じわぁ……とサップが股間を濡らしている。


「汚いな……」


 気を取り直して、私は冒険者ギルドに戻った。


 中に入ると、

 ざわっ


「おいあいつ、戻ってきたぞ」


「うわ、本当だ。しかも無傷で…… しれっとしてやがる」


「サップはどうなったんだよ」


「何者だ……」


 一気にどよめきが広がる。

 無駄に色々聞かれたくもなかったので、私はそれらを綺麗に無視して、依頼ボードの前に向かうのだった。


 後から聞いた話だが、その後、裏路地で口から血を流したサップが発見された。

 何があったのか問いただしても「悪魔だ……」とだけ言って、それ以上何も喋ろうとしなかったそうだ。


 やけに綺麗になった裏路地とサップの衣服に、流れる赤だけが異様な光景だったという。

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