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13.同族

「なるほど……多少引っかかる点もあるが、とりあえず今日はここら辺にしておくよ。また明日聞かせてくれ。君の故郷と、あの治癒スキルについてね」


 私はなんとか乗り切った。アゾさんにした説明はこうだ。

 私は遠い東の国の出身で、そこではマジックバックと似た性能を持つ、マジックポケットを開発している人がいる。その人から贈り物として開発中のそれをもらったのだ、と。


 固有能力であるギフトの存在を明かしたくなかった私は、咄嗟にそう嘘をついた。

 遠い国で、かつ、まだ開発中のものならば、この国で広まっていなくてもおかしくないと考えたのだ。


「とりあえず飲もうぜ。アカさん、何頼む?今日は冒険者の先輩として、奢ってやるよ」


「ありがとうございます。じゃあこの果実水と冒険者の日替わり飯をお願いします」


 ビスマスさんと一緒に、料理の受け渡し用のカウンターから注文したものを持ってくる。


「今日の出会いに、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 ゴクゴクゴク、喉を鳴らして飲み物を喉に流し込む。


「プパー!うまいな!やっぱ仕事終わりの酒は最高だぜ! ま、全部アカさんがやったわけだがな!」


 後半は小声にしながら、ビスマスさんが笑い声を上げる。


 私が頼んだ冒険者の日替わり飯はグラタンのようなものだった。

 グラタンよりもさっぱりとした味で、酸味のあるチーズや野菜が特徴的。

 疲れた身体にはとても食べやすくておいしい。

 果実水も実の甘さと柑橘系の皮の苦味が合わさって、また飲みたくなる味だ。


 そうして食事を楽しんだあと、盗賊の殲滅依頼の達成報酬を受け取る。


「傭兵から何か問題が報告されたりしたらギルドから話があるかもしれねぇが、多分大丈夫だ。たまに追加の報酬があったりもするが、今回はそこまで大規模な盗賊団でもなかったし、あまり期待しない方がいい」


 受け取った巾着は、ずっしりとした重みがあった。


「ずいぶん多いですね」


「そりゃそうさ。本来3人から5人くらいでこなす依頼なんだからな。中堅冒険者1人の1ヶ月分の稼ぎと同じくらいだ」


「そんなにですか」


「ま、がんばれよ。冒険者になりたてで分からないことだらけだろう。何でも相談に乗るし、いつだって頼ってくれていいからな」


 ビスマスさんがニカッと笑って親指を立てる。

 ああ、この人はこういう優しさと、頼りがいのある明るい性格を買われてパーティーリーダーをしているのだろうな。


「ありがとうございます。ご飯、とても美味しかったです」


 また明日、と3人に言われて私はギルドを出る。


 それから左に5件歩いて、『旅立ちの宿』に着く。ギルドと同じく木造で、白塗りの壁と木の色のコントラストが素朴な美しさだ。

 ロビーには私と同じ駆け出しの冒険者らしき人たちがたくさんいる。


「いらっしゃい。ここは素泊まりのみだけど、大丈夫かい?何泊する?」


 受付のおばちゃんが声をかけてきた。


「ええ、大丈夫です。とりあえず1週間分で」


「あいわかった。小銀貨3枚と銅貨5枚だよ。これは部屋の鍵ね」


「あの、すみませんが明日鐘が3つ鳴ったら起こしてもらえませんか。4つ鳴る頃に用事があるんです」


 あの、黒いフードの男『クロ』に呼び出されていたことを思い出した。

 怪しい男だが、どうしても気になってしまう。あの頭の中に声を響かせたことといい、間違いなく強者だから。

 危険だと訴える私の理性は、好奇心に勝てなかった。


「わかったよ。朝は苦手なんだね」


 おばちゃん優しいな。


 私は2階の部屋に向かうと、ベルトを外してそのままベッドに倒れ込む。


 今日は疲れた。

 手早く浄化をかけてそのまま泥のように眠った。



 コンコンコン


 ん? もう朝か。


「……知らない天井だ」


 言ってみたかったんだよねー、これ。


「起きたかい? 」


「あ、はい。ありがとうございます。おはようございます」


 おばちゃんが階段を降りていく音が聞こえた。


「さて、起きますかー」


 私はベッドから起き上がると、立ち上がってベルトを締める。


 1階に行くと、眠たそうな冒険者たちの姿が見える。おばちゃんによると、宿の裏の井戸は自由に使っていいとのことだったので、そこで顔を洗ってさっぱりしてきた。


 浄化が使えるとはいってもやっぱり気分的にこちらの方が目が覚める。


 外の空気は朝特有の澄んだもので、ひんやりして心地よかった。今は午前6時くらいだろうか。


 私は外に出ると、通りの脇に並ぶ屋台で朝食をとることにする。目に付いたサンドイッチで簡単に済ませて、直ぐに『クロ』と会う準備にとりかかる。


 まず装備だ。

 呼び出された理由も分からないうえ、間違いなく危険人物。

 何が起こっても良いように、最低限防具だけは揃えたい。それにマジックボックスのフェイク用に、マジックバックも。攻撃手段は治癒があるからとりあえず武器は後回しだ。


 私は冒険者ギルドの数件先にあった装備屋に入る。 


「いらっしゃい」


 中年の男性が店主のようだ。


「すみません、ここって武器や防具の買取はしてますか? そのお金で防具を揃えたいんです。あと小さめのマジックバックも」


「冒険者か? 買取はしてる。武器は持ってきてないようだが……」


「最初にマジックバックを見せてください。そのあとそれに入れて持ってきます」


 もちろんこれは嘘だ。またアゾさんのように勘繰られては困るので、いったん装備屋を出て時間を潰し、また入ってくるというだけ。


「1番小さいのはこれだな。だがそこそこ量は入る」


 そして見せてくれたのは、ウエストポーチのような形をしたものだった。革製で、普通の鞄と遜色ない。


「見た目も普通の鞄と同じなので、盗まれなそうでいいですね。これにします」


 動きやすいように小さければ、ただのフェイクなので性能はどうでも良い。即決した。


「まいどあり」


 私はお金を払って購入したが、これで盗賊の殲滅依頼の半分以上は飛んでいってしまった。ただのフェイクに痛い出費だが仕方がない。


 私は屋台を冷やかしながら時間を潰すと、また装備屋に戻ってきた。


「かなり量があるんですが、ここで出しても大丈夫ですか?」


「ああ、それならちょっと奥へおいで。このテーブルの上へ出してくれ」


 そう促されて、マジックバックから取り出す振りをして、マジックボックスから盗賊の持ち物だった武器や防具を全て取り出す。


「ずいぶん量があるな。 質はあまり良くないが、これだけあれば防具は揃うだろうよ。もう少し見てから値段を付けるから、店の中を見て回っていても構わない」


「わかりました」


 私は比較的軽そうな皮の防具を中心に見ていく。

 それと靴だ。いつまでも足に布を巻いたままなのは嫌だ。

 とりあえず気になったものを鑑定してみるか。

 革の鎧と膝下まである丈のブーツだ。


 -----------

【名称】革の鎧

 魔物の革で作られた鎧。微弱な魔法防御の魔法が付与されている。

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 -----------

【名称】良質な革のブーツ

 魔物の革で作られた靴。魔法防御と体力向上の魔法が付与されている。

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 おお、いいんじゃないか。成長率増加のお陰か、転移初日よりは疲れにくくなっている気もするが、まだ体力は足りないからな。


「買取の準備は終わったよ。気になる装備は見つかったか?」


 ちょうど店主が店の奥から出てくるところだった。


「ええ、この2つなんてどうでしょう?」


「いい選び方をしたな。駆け出しの冒険者には、防御力は高くないが軽くて動きやすい、革の装備をすすめてるんだ」


「試着しても?」


「ああ、構わん。お客さん小柄だからな。しっかり確認してくれ」


 試着してみると、鎧は少し硬かったが、靴はしっとりと足にフィットして気持ち良い。やはり靴は良いものを履きたいよな。

 あとで靴下も買おう。ここには無いみたいだから、服屋で。


「これ買います」


「気に入ってくれたか。よかった。買取金額から装備の値段を引くとちょっと余るんだが、お客さん何か買い足すか?」


「えーと、それなら、鎧はもう少し柔らかいのありませんか?」


「最初は違和感あるが、着てればそのうち馴染んでくるよ。それに、これ以上柔らかいと防具にならない」


 確かに。着心地より防御力の方が大事か。革だし着てるうちに馴染むというのも本当だろう。


「では、これを買います」


「じゃあこれ、余りだ」


 私は買取で余った硬貨を受け取ると、私は装備屋を後にした。


「まだクロと会うには心細いが、仕方ない。何も防具がないよりマシだ」


 しばらく屋台で時間を潰すと、4つの鐘が聞こえてきた。急ぎ足で冒険者ギルドの裏へ向かう。


 薄暗い路地を抜けて、そこには黒いフードを被った男が壁にもたれて立っていた。


「来たか」


「はい」


 短く交わす言葉に、緊張が滲む。何が起きても直ぐに対処出来るよう、鑑定をする。


 ---ステータス---

【個体名】アリザリン・クリムソン

【年齢】23

【種族】人間

【状態】通常


【スキル】テレパシー 気配察知 消音 毒 闇魔法 成長率増加


【称号】食人鬼(グール)

 -----------


「……っ!?」


 食人鬼(グール)……!

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