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12.冒険者登録

「あれ、『クロ』だろ」


「ああ、高難易度の依頼をたった1人でこなしちまうバケモンだ」


「裏の仕事も色々請け負ってるって話だぜ。とにかく、関わらねぇのが身のためだ」


 黒いフードを深く被ったその男は、するりと席を立つ。


 ひとつひとつの所作が洗練されて、流れるような隙のない動きだった。気になって目で追ってしまう。

 そのせいで、一瞬だけ目が合ってしまった。

 瞬間、紫色の虹彩が怪しく光を放つ。すると、頭の中に低い男性の声が流れ込んできた。


(明日の朝、4つ鐘が鳴る頃に、冒険者ギルドの裏で待つ。1人で、必ず来い)


「……っ!?」


 有無を言わせぬ、それでいてどこか優しい声音。

 私は混乱したが、問いただそうにも、すでに『クロ』は足音も立てずにギルドを出た後だった。


 仕方ない。とりあえず今は登録だ。


 私は『クロ』の存在にビビって、さっきから全く力の篭っていないサップの手を振りほどくと、カウンターへ向かう。


「なっ、おい、まだ話は終わってねぇ!」


 ハッと我に返ったようにサップが声をかけてくるが、無視だ。面倒くさい。

 舌打ちが聞こえて、サップが離れていく。


「冒険者登録をすることに決めました。登録手続きをお願いします。まだ細かい説明があったらそれも聞かせてください」


「え、ええ……わかりました。登録ですね。では、この書類に名前や年齢、出身地やスキルなど、必要事項を記入してください」


 絡まれていたのに涼しい顔でカウンターへ向かって来たためか、受付嬢に若干引かれている気がする。


 気を取り直して、私はスキルを確認するために自身を鑑定した。


 ---ステータス---

【個体名】鈴木 アカ

【年齢】19

【種族】人間

【状態】通常


【スキル】治癒 浄化 解毒 成長率増加


【ギフト】鑑定 言語理解 適応 アイテムボックス 


【称号】食人鬼(グール)

 ------------


 確か、スキルは誰でも持ってるもので、ギフトは神が私に与えた固有能力だったよな。


 面倒なことになるのも嫌だし、ギフトのことは書かずにスキルだけ書いておく。

 出身地は……いいや、日本、と。

 言語理解のお陰か、この世界の文字も問題なく書けるようだ。


「おや、スズキ・アカさんですか。珍しいお名前ですね。このニホン、というのは聞いたことがありませんが……」


「ここからだとかなり遠い場所です。名前も日本のものなので聞き慣れないかもしれませんね。これで登録できますか?」


「はい、大丈夫です。ではこの内容で冒険者カードを作成いたします。身分証としても使えるので、大切に扱ってください。これがあれば、ほとんどの国や街に入ることができます。ただ、これだけではその街に住む権利は得られませんので、もし居住権をお持ちでなければお気をつけください」


 そう言われて、光の具合で様々に違った色に光る不思議な金属のカードを受け取る。ああこれは、玉虫色というのだっけ。


 チェーンがついていて、ベルトかどこかに引っ掛けられそうだ。


「ありがとうございます。あの、私は居住権がないのですが、どうすればいいのですか?」


「はい。冒険者ギルドでは、初心者の方に『旅立ちの宿』への宿泊をおすすめしております。ギルドを出て左側に5件歩くと見えますよ」


『旅立ちの宿』か。いかにも初心者冒険者の為の宿って感じの名前だな。わくわくしてしまう。


「それでは、残りの説明をいたしますね。依頼の紙で既に確認済かもしれませんが、魔物討伐の依頼は、基本的に角だったり耳だったり、討伐証明部位を持ってきていただく必要があります。それがないと討伐しても依頼達成とはなりませんのでご注意ください。また、素材の買取も倉庫の方にあるカウンターで行っておりますので、魔物を討伐された際はあちらにお持ち込みください」


「わかりました」


「説明は以上となりますが、分からないことがあればいつでもご相談ください。それでは、新たな冒険の日々に、神の御加護がありますように」


 今まで事務的な対応だったのに、最後だけニコッと微笑んでそんなことを言ってくれる。


「ふふ、頑張ります」


 私もつられて受付嬢に微笑む。

 これはいい冒険が始まりそうな気がしてくるな。


「おーい、アカさん、こっちだ。一緒に夕飯でもどうだ?」


 登録が終わると、テーブルについた黄金の閃光のみんなが、私に向かって手を振っていた。


「ありがとうございます! お腹空いてたんですよねー!」


「座って。君には色々と聞きたいことがあるんだ」


 アゾさんが真剣な顔をして、緑色の目で真っ直ぐ私を見てくる。


 なんだろう。この世界に来てから聞かれて困ることしかやってない気がする。

 でも……人肉を食べたことは誰にもバレてないはず……

 ああ、そういえば私は人を14人も殺したんだっけ……


 いや、大丈夫だ。盗賊を殺したことは容赦ないとは言われたけど、咎められはしなかった。大丈夫。大丈夫だ。


「どうしたのよ? 顔が真っ青。」


「い、いえ。なんでもありません。聞きたいことってなんですか? アゾさん」


 私は冒険者登録で浮かれていた気持ちが一気に萎むような気がしたが、スイッチを切り替えるように気持ちを落ち着けて、アゾさんに質問を返す。


「疲れているだろうし詳しくはまた後日にするが、まず、そのポケット。マジックバッグの1種か? 大量にあったはずの盗賊の持ち物はどこにやったんだ」


「あ……」


 誤魔化し切れるわけがなかった。完全にミスだ。

 ここは適当に話を合わせよう。


「えーと、そうです。このポケット、マジックバッグの1種なんですよ」


「嘘だな。マジックバッグは見た目の容量よりかなり多い量を入れられる鞄のことだが、名前の通り鞄くらいのサイズが限界で、そんなポケットのように小さくはできないんだよ。アカさん、君は何者なんだ?」


 これはカマをかけられた……どうしよう。

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