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10.冒険者パーティー

 どんどん盗賊たちの足音が近づいてくる。


 私は遺体をアイテムボックスに入れると、称号、食人鬼(グール)を鑑定する。


 -----------

 食人鬼(グール):自ら望んで人の肉を食べたものに与えられる。人食に対する極めて高い適正があり、人肉を強く好む者のみがこの称号を有する。

 食した人間の姿に化けることができる。

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『食した人間の姿に化けることができる』これしかない。


「変身」


 先程食べた盗賊に姿を変えた。

 4人の盗賊が姿を現す。


「お前なんで1人なんだ? 外に見張りもいねーし、なんかあったのか?」


「ああ、ここで待ってろって言われて、俺だけ残ったんだ。何があったかは分からないが緊急事態らしい」


「そうか。そんなこと今まで無かったけど……」


 よし、なんとか誤魔化せたかな。

 多少不審がられている気がするが仕方がない。


「とりあえず戻ってきたばかりなんだし、ここに座ってろよ。飲み物でも持ってきてやるから」


 そう言って私は先程金属のコップと水を見つけたスペースに向かった。

 やっぱり持ち歩くのは嫌で、アイテムボックスから盗賊たちの遺体をもう一度取り出す。


「凄いなここ、武器や食料、必要なものはなんでもある」


 次、いつ食料に巡り会えるかわからない。生きるため、貰えるものは貰える時に、全ていただくのだ。

 盗賊とはいえ餓死されたら目覚めが悪いので、4人分の水と食料を少し残して、残らずアイテムボックスに収納する。


「もうここに用はない」


 私は変身を解いて、急ぎ足で洞窟から出る。


「止まれ!!」


「っ!?」


 外に出た途端、喉元に剣が突きつけられる。


「おい、ビスマス、女の子じゃないか。剣を下ろせ」


 ビスマス、と呼ばれた大柄の男は警戒しながらも剣を下ろした。


 し、死ぬかと思った……


「あの……私なにかしましたか……?」  


 そのビスマスに向かって問いかける。


「俺たちはこの盗賊団を殲滅しに来た。冒険者パーティー、黄金の閃光だ。お前が盗賊団の一員であれば、容赦はしない」


 冒険者!? さすが異世界!

 私は内心テンション上がりまくりだったが、平静を装って返答する。


「いえ……私は盗賊団の一員ではありません。森を歩いていたら、盗賊に捕まってしまったんです……今、盗賊たちのいない隙を見て、やっと逃げ出して来たんですよ!」


 助けて冒険者さん! とでも言うように潤んだ目でビスマスを見つめる。


「なっ、それは本当か。大変だったな」


「待て、ビスマス。それにしてはこの女の格好は清潔すぎる。顔色も良いようだし」


「そうよ。盗賊の後をつけてここまで来たはいいものの、見張りもいないし何かおかしいわ。あの4人以外の盗賊はどこに行ったのかしら」


 あ、やばい。後ろにいた2人に完全に怪しまれている。このままだと盗賊だと思われても仕方がない。

 強力過ぎる力を知られるのは厄介事に巻き込まれるリスクがあるので、言いたくなかったがここは正直に話そう。


「すみません。嘘をつきました。盗賊団はあの4人を除いて既に殲滅済みです。私が1人でやりました」


「「「はあ!?」」」


「お嬢さん、それはいくらなんでも無理があるよ」


 ビスマスの隣に立つ聡明そうな青年が言う。


「いえ、本当です。今、4人の盗賊がこちらに向かってきてる足音が聞こえますか? 見てもらえれば分かるはずです」


 私は足音に集中する。


「おい、中に仲間の死体があったんだがなぁ! どういうことか説明してもらおうか!」


 盗賊たちが出てきた。


 パアァァン!!


 私は迷わず4人の右足に向かって強力に治癒を使用する。


「ぐあぁあっ!!」


「足が、足があぁぁ!!」


 盗賊たちが声を上げて倒れる。


「ほら、ね?」


 黄金の閃光の面々へ、私は向き直る。


「「「…………………………」」」


「あの……」


「なんじゃありゃ!?あの緑色の光、治癒だよな!?」


「はっ、はいそうです」


「どうなってんだよ!?」


 ビスマスが私の両肩を掴んでがくがく揺らす。


「わわわわ……」


「ビスマス、やめろ。目を回しているぞ」


「あ、ああすまん。治癒を使ってこんなことができるなんて聞いたこともなくてだな、つい」


 やっぱりこの治癒のスキル、チート級だったか。神もかなり強い適正があるって言ってたしな。


「ねえあなた、治癒が使えるならとりあえず盗賊たちの血を止めてあげられないかしら。傭兵に引き渡さないといけないの。それまでに失血死されたら困るわ」


 なるほど、傭兵ね。そういう決まりなのか。


「分かりました」


 盗賊たちの足の断面に向かって治癒を使用する。今度は優しく、傷口を塞ぐイメージだ。


「へえ……見事なものね。私はオーカーっていうの。治癒を含む、戦闘補助全般を得意とする魔法師よ。あなたは?」


「私は鈴木アカです」


 治癒は使えるが、治癒師ってわけでもないし名前だけ名乗っておく。


「自己紹介か。スズキ・アカとは珍しい名前だな。僕はアゾ。強力な攻撃魔法を使う魔法師だよ。」


「遠くから来たんです。だから名前も聞きなれないのかと」


 遠くというより異世界なわけだが。


「俺はビスマス。この黄金の閃光のパーティーリーダー。盾士だ!」


「えっ……」


 ビスマスがパーティーリーダーなのか。てっきり聡明そうなアゾがリーダーかと……

 そんな困惑が表情に出ていたのか、


「ねえ、もしかしてアゾがリーダーだと思った? ビスマスってば脳筋だものねー?」


「脳筋とはなんだ!」


「違いないな」


 随分、仲のいいパーティーみたいだな。


「オーカーさん、その黒髪と猫耳、尻尾も、つやつやしてて綺麗ですね」


「あら、ありがとう。特にこの尻尾はね、毎日手入れしてるのよ」


 そうなのだ。オーカーさんは、なんと獣人だった! 異世界最高!

 大人のお姉さん、って感じで魅力的なのに、髪と同じ色の尻尾と耳がさらにそれを引き立てている。美人さんだ。


「とりあえず、盗賊たちを縛ろうか。手伝ってくれないかみんな」


 アゾさんの呼びかけで、みんなで盗賊たちに縄をかけていく。


 その後ビスマスさんが何やら筒状のものを鞄から取り出すと、花火のような赤い光を打ち上げた。


「なんですかこれは?」 


「ん? 知らないのか? これで傭兵を呼ぶんだ。しばらくしたら来てくれると思うぞ」


「アカさん、傭兵が来たら色々聞かれると思う。でも、その強力な治癒については、僕たちに嘘をついたみたいに、しばらく黙っていた方がいい。スキルは強力だが、見たところ身のこなしが完全に素人だ。権力に使い潰されるか変な輩に狙われかねない」


 私は、アゾさんにそうしますと返事をして、みんなで傭兵を待った。


 その間にみんなで洞窟の中に入ったが、死体の山にまた驚かれることになってしまった。


「ここにあるものは全て、盗賊を殲滅した人のものだから持って行っても大丈夫なわけだが、しかし……この死体の山。容赦ないな、アカさん」


「はは……」


 苦笑いするしかない。


 待っていると、傭兵が到着した。死体が多かったので色々聞かれたが、黄金の閃光3人が自分たちの魔法だとか言ってうまく話をしてくれた。


「さて、傭兵はまだここにいるらしいが、俺たちはそろそろ帰ろう」


「そうだな」


「アカさん、一緒に街まで行きましょう? 1人じゃ危ないでしょう」


「いいんですか!? ありがとうございます」


 そう言って私は、黄金の閃光のメンバーと共に、この世界へ来て初めての人里、街へ向かって歩き出すのだった。

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