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プロローグ

初めての投稿です。暖かく見守っていただけると嬉しいです。

 私の名前は鈴木アカ。

 それなりに忙しいし、ストレスもある普通の学生生活を送る大学生だ。


 ネイビーに染めた髪をアシメントリーのショートボブにした、身長は150センチくらいで体重は50キロくらいの、丸みのある体型をした女子。


 クラスのマドンナってタイプではないけど、多少は愛嬌のある顔つきをしていると思う。

 この髪の色と髪型は友達にも褒めて貰えたしお気に入りだ。


 今はバイト終わりの帰り道。頭をカラッポにして真っ暗な道に自転車を走らせている。


 ここら辺は田舎な事もあり、この時間になると辺りには誰もいない。それをいい事に私は、1人きりの帰り道には似合わないほど明るい、客観的に見れば不気味な笑みを浮かべて独り言を呟いている。


 呟いていると言ってもボソボソ喋っているわけでもない。それなりの声量があり、恐らく普通に誰かと会話するのと変わらない。

 だから私は近くに人が来た時は黙るようにしている。

 自分だって、こんな真っ暗な夜にデカい独り言呟いて自転車に乗っている人なんて、ヤバい奴だとしか思わない。

 そんなふうに思われるのは嫌だった。プライドは高いのだ。


 もしこの独り言が聞こえても、暗ければ顔は見えないだろうとタカをくくって、バイト帰りに独り言で感情をぶちまけるのが私の日課だ。

 いつもならどっちかというと怒ったり誰かに文句を言ったり、たまに幸せな出来事が起きた日には鼻歌を歌ったり。


 でも今日はいつもとちょっと違う。

 今日は、笑いが止まらなかった。


 嬉しくて、幸せで笑うあの自然な笑みとは違う。なんだか唇の端が吊り上がるような、歪な笑みだった。抑えようとしても興奮して抑えきれない。


「くはははっ!くはっ!!かはっ!!!!ははははっっ!!」


 堪らず声が漏れる。あー、だめだ。完全に興奮しきっている。自覚していた。坂道をノーブレーキで下りながら、まあだれも見ていないのだしいいかと思う。

 だって今、すごく楽しい妄想の最中なのだ。

 私に沢山の酷い言葉を投げつけて、精神をボロボロにしていった元彼を、袋に詰めてハンマーやバットで殴っているところ。


 元彼なんて言いたくない。あんな奴を彼氏にしていたなんて反吐が出る。やっとの思いで別れを切り出して、やっと、やっと別れられたのが4ヶ月前。だいぶ時間は経っているはずだが未だに“奴”に言われた言葉や場面がフラッシュバックする。


 どんなやり取りがあったのか、細かいことはもう思い出せない。

 思い出したくなくて、必死に蓋をしていたら本当に思い出さないようにする事ができるようになっていた。


 だだ今は、心に残った傷や嫌悪感ばかりが思い出されるのだ。


 ただただ、許さない、死ねばいいのに、いや、殺したい…ぃ……


 私は根が真面目なのでそれを実行に移すことはないだろう。だが、常に心の底で殺したいと思っている。それはどこまでも冷たくて、まるで凪いだ水面のように乱れのない殺意だった。


 ああ、これが殺意なんだなと、一瞬の怒りで誰かに死ねと言うのとは違う、本物の殺意なんだなと思った。私は、本気で誰かの死を願っているのだなと思った。


 妄想の中の私は、袋の中の“奴”をハンマーで潰し続ける。

 肉が潰れる感触、骨に当たって跳ね返ったりするハンマー。

 骨が砕けなかったのでもう一度当ててグシャリと潰す。

 人を壊すのにわざわざ袋に詰めるのは非効率的かなとも思ったが、顔も見たくないし“奴”の体液に触れるなんてことも気持ち悪くて絶対に嫌だった。


 ハンマーで潰す度、今では少し弱々しくなった“奴”のくぐもった声が響く。可笑しくて仕方ない。


 本当は奴の声を聞くのすら鳥肌が立つほど嫌だが、苦しんでいる様子を感じられないのはちょっと勿体ないなと思った。気持ち悪い声だが我慢する。


 やがて声も聞こえなくなった。妄想の中の私は、“奴”を袋から取り出しそうとした。さらに細かく、ミンチにしてやろうかと思ったから。


 鉄の臭いが鼻につく。


 血抜きをすればもっと良い匂いだったのかもしれないと、少し失敗した気持ちでいた。

 血抜きをした新鮮な肉は、きっとなんとも言えない甘い匂いがするのだ。


 “奴”を用意したブルーシートの上に広げて刻もうとしたがやめた。気持ち悪い“奴”の顔や身体が見えてしまう。

 ムリ。マジ無いわ。


 袋の上から包丁でたたくことにした。どんどん“奴”は細切れになっていく。実際はこう上手くは行かないだろうけど妄想だからいいのだ。なんでもあり。


「くははははっっ!!ははははっ!!!」


 妄想がリアルすぎて笑いが止まらない。喉を痛めそうなくらい歪な笑い声を上げて私は自転車を漕ぐ。


 今度こそミンチになった“奴”の肉を取り出して、私はボウルに移そうとした。


 ()()()()()()と思って。


 でもやめる。

 嫌いなやつの肉なんて気持ち悪くて食べたくない。食べるということは、自分の身体の1部になるということだ。嫌いなやつが自分の肉体に入り込むとかおぞましさしかない。


 ミンチの処理に困った。


 庭に埋めるのは“奴”には勿体ない。だって埋めるなんて埋葬のようじゃないか。

 埋葬してやる価値なぞない。


 私は下水に流すことにした。マンホールから。“奴”におあつらえむきの下水である。


 もしかしたらこの後処理のやり方じゃ点検のときとかに肉片が見つかるかもしれない。でも、妄想だからいいや。1番楽しいのは“奴”を潰して、刻むときだ。


「かははははっ!!」


 そろそろ家も近づいて来た。スッと表情を整えて、心を落ち着かせる。


 すると向こうからサッカーボールを持った若い男性が歩いてきた。同じ団地の人だろうか。

 鍛えられているのがよく分かる肉体。


 じわりと唾液が私の口内に滲む。


 割れた腹筋に、筋肉の赤身肉にかぶりつきたい。

 食べたい。


 おいしそう…


 じわり、唾液がにじむ。


 私には願望がある。高校の頃からかれこれ4年ほど付き合ってきた。ずっと抑えてきた願望。


「人肉が食べたい」


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