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1章 再スタート 【朝霧 凪沙 編】

州崎 洸夜

・この物語の主人公

ドルド

・洸夜と契約した悪魔。洸夜を過去に飛ばした張本人


暑苦しくて目が覚めると、そこには懐かしさを感じさせる天井があった。


「あっつ……」


視線を巡らせると、周りにはガラクタや道具などが散乱していた。ツンとした金属と油の臭いが、鼻腔を刺激してくる。


「ここはガレージか?」


見覚えのある空間は、俺がしょっちゅう通っていた親父の工場だった。といっても、元々はガレージだったものを、親父が改良に改良を重ねて製造したテーマパークみたいな施設。

ガレージのあちこちで謎のロボットが動き回っており、メリーゴーランドみたいなものやジェットコースターっぽいものまで、様々な機械が設置されている。

幼い子供が見れば、確実に喜ぶに違いない設備が勢揃い。改めて見ると、親父の偉大さがよく分かる。

実際この後、クローンロボットを開発して、世界中で有名な存在になるわけだ。

ガタガタと、俺の寝ていた真横で鈍い音を響かせながら、モーターが動いているのが視界に入る。

暑さの原因はコイツだったか。

ガレージの隅々まで目を配らせていると、カレンダーが立てかけられているのを発見する。それには2012年と記されていた。


「マジで過去に来ちゃったんだな」


未だに、この状況を完全に飲み込めていなく、少し混乱していた。

本当に今から青春をやり直すのかと思うと、ワクワクする気持ちと共に、不安な部分も少なからず存在していた。


「――やるしかないんだ」


この状況を受け入れ、今まで出来なかった青春をやり遂げなければならない。

俺は固く決意するように立ち上がった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



気持ちを整理して、この頃にあった事を思い起こす。

確か、この時期は、親父と一緒に4足歩行のロボット研究を行っていたっけ。

親父の姿が見えないが、恐らく外で作業しているのだろう。

ガレージの重たいシャッターを開けると、広い駐車場が姿を現した。奥には車が行き交う道路が見える。


「懐かしい風景だ」


2032年と比べると、都市開発や機械製造はあまり発展していなく、車に至ってはガソリンを使用したものが殆ど。後20年もすれば、宙を駆ける車や電気を使用したものに入れ変わる。

街は開発が進み、この時代には多かった田畑がなくなり、屋内で栽培されるようになる。

ロボットが彼方此方で歩いている状況になることを考えると、ここから更に文明が発展するんだなと感じる。

文明の利器って凄い。


「ん! 洸夜か。どうした? モーターの調子はどうや?」


聞き覚えのある声の方向に視線を向ける。

声の主は、頭にヘルメットを被り、タンクトップ姿で、ズボンはサイズが合っていないようなブカブカのものを着用した姿をしている。

親父だ。その懐かしい格好に、まじまじと舐めるように見つめてしまう。


「どうしたんや? そんなにジッと見て。なんか付いてるか?」

「いや、少し懐かしくて」


その言葉に、親父は首を傾げる。まあ、当たり前の反応だろう。


「よー分からんこと言うな。さっきまで一緒に作業しとったやろ?」

「ごめん。寝惚けてた」

「なんや、寝てたんか?」

「作業中に疲れて、爆睡してたかも」

「疲れてシンドいんやったら、あまり無理はするなよ? 儂はロボットの試運転しに戻るから――モーターは後で取りに行くわ」


戻ろうと、踵を返す親父の肩に手を置き、静止を促す。


「なんや?」


こちらに振り向き、不思議そうな表情を見せる親父に俺は伝える。


「俺さ……学校行くわ」

「そっかそっか…………え?」


向かい合う親父は目を丸くしたまま、石像のように硬直してしまった。静まり返った空間が、数分ほど続く。

大方、予想できた反応ではある。

だが、この後どのような返答をしてくるのか、不確定要素だった。


「洸夜、お前――」


沈黙していた親父が口を開く。怒られるのかと目を瞑った俺だが、数分経っても怒号が飛んでこない。

恐る恐る目を開けると、そこには目をうるうるとさせ、今にも泣き出しそうな親父の姿があった。


「ど、どうしたの?」

「やっとやっとや。長年、引き籠ってた息子が、遂に学校に行くことを決心した! 儂は嬉しいぞ!」

「え?」


予想斜め上の反応に、あっけらかんとしてしまう。

怒鳴られると思っていたので、眼前で繰り広げられている光景に、俺は呆然と立ち尽くしたまま親父に視線を向けていた。


「儂は心配やったんや。このままお前が学校に行かず、引き籠ったままの状況が続くのが」


引き籠りの原因は親父なんだが。そもそも、好奇心旺盛な俺を惑わすから、こんな事になってるんだけど。

というか、学校に行って欲しかったら、言ってくれれば良かったのに。言ってくれれば俺、喜んで行ってたと思うよ?


「まあ、そういう事だから。今からじゃあ遅いと思うけど、残り少ない時間を勉学に注ぎ込もうと思う」

「そうか、そうか……儂はそう言ってくれると嬉しいぞ。よし! 今日は引き籠もり卒業記念日や! 今日は奮発するで! 」


なんか全然嬉しくない記念日だ。そもそも記念日にする必要がないとさえ思う。


「お、おう……因みに記念日って具体的に何するんだ?」

「それは考えとらん!」

「マジかよ」

「取りあえず、美味い寿司の出前でも取るか!」


超ご機嫌な親父が、スキップしながら事務所がある方角へ足を進める。

ここまでご機嫌な親父を見るのは初めてだ。

初老のおっさんが、スキップしている後ろ姿を見ていると、なんだか恥ずかしくなってくる。一応、歩道で歩いてる人もいるんだから。この一瞬だけ他人のふりをしたいと強く思う。

恐らく今の俺は、引きつった顔をしているんだろうな。


「ああ、そうだ。学校へは儂が連絡しとくから心配するな。それと制服や教科書一式は事務所で保管しとるから、後で取りに来い」


思い出したようにそう告げると、再び軽快にスキップしながら事務所の中へ消えていった。

通り雨のような嵐が、過ぎ去っていったような気分だ。


「そういえば、今日の日付って……」


周りを見渡すが、日にちが分かるようなものは無く。ガレージに戻っても、カレンダーにバツ印などしていないから、今日が何日なのかは分からない。

部屋に向かおうと歩みだしたところで、着用しているズボンが唐突に振動し始める。いきなりの事に体をビクつかせるが、落ち着いてズボンのポケットに手を突っ込み、その原因を探る。

何やら四角くて硬いものに手が当たる感覚がする。

それを掴み、引き上げると、携帯が姿を現した。この時代では誰もが持っているスマホというやつ。

懐かしい思いを押し留めて、スマホの電源ボタンを押すとアラームの設定画面が現れた。恐らく仮眠する前にアラームの設定をしたのだろう。

小刻みに震える携帯のアラームを止め、今日の日付を確認する。

3月31日。

明日から4月で、新学年が始まるというところか。上手くやっていけるのか心配だな。

引き籠りをやっていた俺が、明日から学校に通うわけだから、不安で胸が張り裂けそうな気分になるのも当たり前。

時間に目を向けると、そろそろ暗くなってくる頃合いだという事が分かった。


「明日の準備でもするか……」


一度、不安な気持ちを抑え、親父が入っていった事務所に足を進め始めた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



親父が奮発して頼んだ出前の寿司をたらふく胃に収め、自室にて明日の準備の最終確認を絶賛進行中。時刻は22時を過ぎていた。

こういう時だけ、なんで時間は早く経つように感じるのだろうか。

刻一刻と迫ってくる青春スタートの号砲に、気持ちが昂ぶってくる。緊張と不安のあまり、遂に臨界点を突破したみたいだ。

今では何とも思わない。

俺は滑り込むように布団の中へダイブした。


「目覚ましのセッティングよし! 制服と教科書の準備よーし! 後カバンも」


天井を見上げながら、一つ一つ指差し確認を高らかな声に乗せて披露した。もうテンションアゲアゲにしておかないとダメな気がする。

もう寝よう。

昂ぶった気持ちを抑えて、何も考えずに俺は目を閉じた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



朝。遂にこの時がやってきた。

目覚ましに設定した時間にしっかり起床し、俺は初めての制服に身を包んだ。制服を着た姿を鏡で見ていると、なんだか嬉しい気持ちになってくる。

学生って感じでいいな!

リビングに作り置きされていた朝食を済ませ、忘れ物をしていないかの最終確認を行う。


「問題なし。まあ、新学年だから、授業とか殆ど無いとは思うが」


大方、始業式が終わった後に、クラスでホームルームとかだと思う。よく漫画とかで見た光景だな。

全ての確認を終えると、俺は玄関を出た。



そして現在――




俺は目的地である校門近くの電柱で、息を潜めるように隠れていた。

自分が憧れていた青春が目前という状況に、心臓の鼓動がバクバクと軽快なリズムを刻んでいる。

焦り、緊張、期待、不安。それらが俺の中で渦巻いていた。

一度落ち着こうと深呼吸するが、全く意味をなさなく。下半身が石のように固まったような錯覚を起こす。

やばい、ガチガチに緊張しすぎて足が動かない。

そうこうしているうちに、先ほどまで姿がなかった生徒らしき人物たちが、校門にぞろぞろと入っていくのが見える。

時間帯としては、生徒たちが登校し始める頃合い。

そろそろ、ここの電柱からおさらばしないと不振がられてしまう。流石に登校初日で不審者扱いされて目立つのはよろしくない。


「行くしか道はないもんな……」


ため息混じりに、諦めの声が漏れる。

他の生徒がどういう顔をしようが知ったことか。他の奴らなんて、俺が初登校って気づくはずがない。

いける、大丈夫だ。

石のように固まった足を無理矢理動かし、猪突猛進のイノシシが如く、校門を突っ切った。



そして俺の青春が、狼煙をあげた――

どうも、作者の蒼井 時です。

第1章 は如何でしたでしょうか?

楽しんで読んでいただけたのなら、嬉しく思います。


さて、今後の展開が気になるところだと思いますが、なんと! 次回

ヒロインがようやく登場します!

いや〜長かった(笑)

まあ、お気づきかとは思いますけど、サブタイに「朝霧 凪沙 編」と書かれていましたよね。

実はこれ、ヒロインが4人居ます。

それぞれ「〇〇〇〇編」みたいな感じで分けていこうと思います。

何故かって?

そりゃあ、ヒロイン全員可愛いもん! 1人に絞るなんてできないよ〜

ということで「朝霧 凪沙 編」が終われば、次から新しく「〇〇〇〇編」が始まるということ。

きっと可愛くて、愛おしいヒロイン達になると思うので、読者の方もニヤニヤしていただけると嬉しく思います。


もっと話したいこととかありますが、一旦この辺で。

それでは、次回も読んでいただけると嬉しいです。

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