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ヤンキーガール=鑑定ガール  作者: 黒夢迷宮
第二章
5/35

口は悪いけど良い奴でした

 森で出会った少年に連れられ、俺は少年の住む家に着いた。

 割りとしっかりしたログハウスで、近くの洞窟は倉庫になっているらしい。


「とりあえず入れよ。結界魔法があるから魔物は襲ってこないし……」


「あ、うん。失礼します」


 少年が扉を開け、中に入るように促した。

 中もかなり綺麗でしっかりした作りだ。いいなぁ、優良物件。


「んじゃ、とりあえず……俺はロビン。この森に住んでいる。……おまえは?」


「俺の名前は黒鐘灰音」


「クロガネ……? 変わった名前だな……」


「あ」


 しまった。つい日本と同じ自己紹介となったが、ここは異世界だ。外国と同じく、名前と名字が逆なのか。


「ごめん、俺の国では名字が先に来るんだ。ここ風に言うならハイネ・クロガネだな」


「ハイネ……そうなのか」


 ロビンという少年もその説明で納得してくれた。良かった。素直で。


「じゃあハイネ。何でおまえ、この森に来たんだ? ……いや。そもそもどこから来たんだ?」


「え?」


 何故かロビンに訝しげにそう言われた。

 ……なんかマズイ事したのか? 心当たりが無いため、首を傾げれば、「んん……っ」とやけに大きな咳払いの後にロビンが続ける。


「……この辺りの森にはウルフやリザードと言った魔物が出るんだ。どちらも素人が手出しするには危険過ぎる。後はギルドの事を知らない事。……辺境や山奥とかの村ならともかく、街なら必ずギルドはあるんだ。そしてこの大陸の街にはみんなギルドがある。……知らないなんて有り得ない」


「おっと……」


 なるほど。普通なら知っていて当たり前な事を知らなかったから怪しんだのか。

 何せあの城の住人、俺が鑑定士と知った瞬間手のひら返しやがったからな。最低限しかこの世界の事を習ってない。


「……あー。俺と俺の知り合い29人がすぐ近くの城……ルナシェリアだっけ? そこにいきなり呼び出されて勇者やら聖女になって世界樹を救えっぽい言われてな。周りがそれになっていく中、何故か俺だけ非戦闘職の鑑定士だから冷遇されたので、最低限の知識だけ詰め込んで出てきたって訳」


「…………は?」


 簡潔にそう伝えれば、ロビンが口を開けたまま呆然となった。まあわからなくもないけどさ。

 とはいえ異世界から来た。とは言わない。呼ばれた俺ですら未だに信じられないのに、目の前で見たわけでもないロビンが信じる可能性は低い。


「言っとくが嘘じゃないぞ。多分そのうち、近場の街かどっかで勇者やら聖女の噂は出てくると思うし」


「あ、いや……そうじゃなくて……」


 何故か口を濁すロビン。その表情は信じてないというより困惑している、と言った感じだ。

 こっちも訳がわからないでいると「おまえが世間知らず以下な理由がわかった」と呟かれた。


「ルナシェリア城に呼び出された、と聞いて納得した。……おまえとその友達。異世界から来たんだな」


「え」


 今度は俺の方が困惑した。

 異世界から来た、と確信を持って言い当てられたんだ。見た目は普通の人間だからパッと見じゃわからないと思うんだが。


「……普通の人間には伝わってないだろうが、俺たちエルフ族にはそういうおとぎ話があるんだよ。そもそも勇者や聖女がそう簡単にはなれない。あっさり慣れるのは異世界人だけなんだ」


 だからか。そしてやっぱロビンはエルフだったか。

 ロビンの言葉に納得した俺は一人頷く。


「理解してくれたならいいや。さっきも言ったけど、俺だけ非戦闘職で冷遇されたから、ロクに情報収集が出来てなかったんだ。だから世間知らず、というロビンの見方は間違ってない」


「そうか。…………いや、待て。それでどうやって生きていく気だったんだ?」


「親父たちと一緒に学んだサバイバル技術や狩猟で何とかしようかと」


 俺の考えを伝えれば、ロビンが頭を抱えた。

 今度は呆れというかなんというか……とにかくなんとも言えない、と言った顔だ。


「……世間知らずなのはともかく、命知らずなのは流石にダメだろ」


「魔物ってのがどんなのか知らないけど、本で大体の形状は覚えたからな。一応武器はあるし、お金は節約したかったから何とかなるかなって」


「そういう考えの持ち主が一番早死にするんだよ!!」


 凄まじい勢いでツッコミを入れられた。異世界的にアウトなのか。この考えは。


「まあ、おまえの考えはわかったよ。立場的にも見て、そうしたいという気持ちもわかる。……だけどやっぱり危険過ぎる。戦闘スキルも魔法も持ってないんだろ?」


「【鑑定】くらいしか使ってないから。……でもタンカ切った以上帰れないし、このままやっていく」


「…………」


 忠告してくれるロビンには感謝しているが、だからといって帰りたい訳じゃないし、帰ろうとも思わない。

 そもそも俺自身、一度決めたことは余程の事がない限り曲げる気はない。


「ロビンの忠告は感謝するよ。危険なのもわかった。それを踏まえてやっていくわ。……いろいろありがとうな。それじゃ」


「ちょっと待て」


 自分の拠点を探すべく、ここから立ち去ろうとした時、ロビンから待ったをかけられた。

 何事かと思って見れば、何故かロビンは視線を反らし、口元を押さえながらモゴモゴと何かを言っている。


「……? どうしたの?」


「あー……その…………お、おまえさえ良かったら……ここに居てもいいぞ」


 何事かと思いきや、まさかの滞在許可だった。

 突然の話に思わず目が丸くなる。


「べ、別に深い意味はねーよ。ただ、その……忠告しておいて、あっさり見捨てるってのもどうかなって思っただけで……」


「……えーっと。つまり、単純に助けてくれるって意味か? それは」


「だからそう言ってるだろ! 言わせんな、バカ!」


 ええええええ……。なんで俺がバカ呼ばわりされてんの? なんか妙に焦ってるし……確信言われたからか?


「でもいいのか? 俺としては助かるが、親御さんとか何も言わないの?」


 確かに助かるが、だからって迷惑かけてまでいる気はない。ダメなら数日だけ世話になって、テントなり仮の小屋に作るけど……。

 そんな事を思いながら疑問を口に知れば、ロビンの表情が固まった。


「……親は、いない。ここは俺しか住んでいないから」


「……そう」


 俺から視線を反らした事。そして感情を殺すような声に、踏み込んではいけない。と何となく感じた。

 両親に対してあまり良い感情が無いのか。もしくは辛い思い出か。詳しい理由はわからないが、どちらにしても触れない方が良いだろうな。


「わかった。こちらとしても助かるし。……それじゃ、いろいろとお世話になります」


「ん……ああ。こちらこそ、な……」


 小さく頭を下げながら、さりげなく会話を切り上げた。これから世話になる人物の不評は買いたくないからな。



 こうして俺は、ロビンの助けを借りた異世界ライフが本格的に開始されるのだった。

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