少女との出会い
side ???
その日はいつもと同じだったはずだった。
朝起きて朝食を取り、昼からは狩りをして1日を過ごす。
代わり映えのしない日常に、だけど一つ。いつもと違うものがあった。
(この森に、人間……?)
家の近くに、人間がいた。
街から遠く離れ、魔物も出るこの森に人間が来ることはあまり無い。
まったくという訳では無いが、この森に住む一番強い魔物は非常に厄介なため、ここまで奥には来ないのだ。
なのに、人間がいる。それもこの辺りでは見かけない黒髪と格好の人物だ。
(少し様子を……)
変わった格好に加え、一人で頷いたり納得している変わった人間。
好奇心が勝ち、その人間に近づこうとした結果、
パキッ。
足元にあった枝を踏むという失態をしてしまった。
(ヤバッ……!)
マズイ、と思った矢先、「誰だ!?」と鋭い声と共に石が投げられる。
「うわっ!?」
さすがに攻撃までしてくるとは思わなかった俺は咄嗟に避ける。……が、体勢を崩し、顔から前へ転げ落ちる羽目になった。
(な、情けねぇ……!)
いくら何でも情けなさ過ぎる。
有り得ざる失態に恥ずかしさを感じながら、鼻を押さえながら頭を上げる。
瞬間、すべてがどうでもよくなった。
(か、可愛い……!!)
目の前の人間……少女だったが、それが余りにも可愛かったからだった。
髪は黒炭みたいに黒く、前髪の一房だけが白い。吊り上げた瞳もキツそう……というより、むしろかっこよさを表してる。
何故か俺を見てキョトンと目を丸めているが、そんな事はどうでもいい。とにかく目が離せないくらい可愛い。
「……あー。うん。えっと、大丈夫、か?」
「……え?」
じっと少女を見つめていると、少女から声をかけられた。一瞬、何の事かわからなかったが、「顔から落ちたから」という少女の言葉に、先程の失態をもう一度思い出す。
(……いや、待て待て待て。落ち着け俺!)
一気に冷静に戻り、途端に恥ずかしさで頭を抱えた。
少女は可愛いわ、有り得ない失態をやらかすわ、何をしたらいいやら等、展開の早さに頭が追いついていない。
「……おーい。差し支えなければ、いろいろと教えてほしいんだけど」
「は、はい!」
いろいろ考え込んでいたら少女の方が痺れを切らしたらしく、俺の顔を覗き込みながら話しかけてきた。
顔が近い事に思わず仰け反りながら首を大きく振って頷く。
「俺さ、最近になってこっちに来たからまったくわからないんだ。だからここら辺で安全に住めそうな場所とか、街で誰でもお金を稼げそうな場所って知らない?」
最近になって来たのか。それにしては世間知らずなところもある気がするが……。
「……近くに、俺の住む家がある。街でお金を稼ぐなら、ギルドが一番だと思う」
「なるほど。無いわけじゃないが、個人のお宅じゃしょうがないな。ギルド……は、もうちょい慣れてからにするかな」
俺の返事に一人頷いて納得している。
……なんだろう。世間知らずとか、そんなレベルじゃない気がする。放っておいたら何をしでかすかわからない、というか……。
「……なぁ。一旦俺の家に行かないか?」
俺の提案に再度目を丸める少女。
可愛い……じゃなくて!!
「放っておいたら、その……なんか危ない気がして。ここは魔物も出るし、もし良かったらでいいんだけど……」
「え。いや。むしろありがたいとしか言い様が無い。ありがとうございます」
提案には即座に乗り気になったらしく、早口でそう伝えてきた。目もどこか輝いてる……気がする。
「それじゃお願いします。助けてください」
「あー、うん。それじゃ、こっち……」
良かった。こんな可愛い子に断られなくて。
……だから違う! さっきから自分の思考がおかしいぞ!
(とにかく、魔物が来る前に離れよう!)
今日はゴブリンたちを数匹仕留めたから、血の臭いで襲ってくる可能性が高い。
どこか言い訳がましく自分に聞かせながら、少女と共に帰路へと向かうのだった。
現時点で名前はまだ明かされませんが、主人公の相棒的なポジションになります。