呪縛の破壊
素早くロビンに耳打ちされた後、安城に槍を思いきりぶん投げる。
……まあ予測通り、安城は結界を張っていた。槍は派手に弾かれ、その衝撃で安城は俺の存在に気づく。
「標的、確認……」
「……はっ。完全に操られているじゃねぇの」
『支配』という言葉から、精神を操る事だろうとは予想していた。それは予想通りであり、安城の目に光が無い。
「……さぁ、かかってきな。すぐにテメェを解放してやる」
「標的……戦闘体勢と認識……。敵対行動を確認」
自動で手元に戻ってきた槍を再度握り、安城と向き直る。
安城に魔力が宿る。先程爆撃した、強力な炎の魔力。
「――対象の殲滅を開始します」
無機質な感情と共にそれが放たれた。
スキルの力でそれをかわし、一気に懐へ潜り込む。
「せいやぁあああっ!!!」
槍を袈裟切りに降り下ろす。が、結界にいくらかヒビが入った程度であり、破壊までには至らなかった。
予想はしていたが、思った以上に安城は強化されている。
武術大会での結界は隙をついて破壊したとは言え、それでも力ずくでやれば壊せない事もなかった。今はレベルも上がっているだろうが、それでもヒビしか入らないとなると……。
「……ちょいと時間がかかるかね……」
結界をぶっ壊さない事には、コイツを何とかする方法は無い。
だが他に方法が無い以上、この方法で何とかするしかないとしか言えん。
「対象の殲滅を継続」
「チッ……!」
再び宿る魔力に、槍で高跳びの要領で背後に回り込む。
槍は地面から次々と表れる土塊に吹っ飛ばされるが、即座に手元に召喚。再び結界に殴りかかる。
【自動召喚】も強力だが、【トネリコの加護】も素晴らしい効果だ。何せどんな使い方をしても武器が壊れないんだ。
多少――いや、結構無茶な使い方しても使い続けられるのは素晴らしい。
(現にあんな土塊にぶつかっても全然平気じゃねぇか)
たかが土塊と思うなかれ。何せ安城の魔法なのだ。
巨体な岩が連続で出てきては叩きつけてくるから、実際に受けたら確実に死ぬ。
本来なら鉄辺りならひん曲がるだろうが、最上級付属効果のグングニルならばまったく壊れる事なく扱える。
「結界損傷率、67%……っ! 結界修復……!」
「はっ……! ずいぶん焦ってるんじゃねぇの……!」
連続で結界のぶち壊しにかかれば、さすがにまずいと判断したらしい。攻撃の手を止めて結界魔法を直す事に専念し始める。
だけどそれなら、こっちはそれを上回る勢いでぶっ壊しにかかればいい。
「【身体能力強化・真】!」
自分の身体能力を大幅に上げる無属性の強化魔法。素の状態で結界にダメージを与えられるなら、さらに増幅させればいい。
今まで使う機会はなかったが、この状況下ならまさにうってつけだった。
「はぁああああああっ!!!」
修復する片っ端から槍で叩き続ける。先程よりもヒビが大きく入っていく。
攻撃力、防御力、素早さが強化され、結界へのダメージも大幅に上昇している今を逃す気は無い。
「これで――行っけぇえええええッ!!!」
「くっ……! あ、アアアアアアッ!!!」
ラッシュをかけ、ヒビを狙って勢い付けていく。
叩き、斬り、突いていき……ついに結界が大破した。
「手加減はするから恨むなよ。……うりゃ!」
「ガハッ……!?」
直ぐ様懐に潜り込み、鳩尾に一発叩き込む。
魔法は凄まじく強い安城だが、物理攻撃には弱いのは変わらない。能力が凄まじく強化されている(手加減はしている)俺の一発で、身体がふらつき始める。
「ロビン! 今だ!」
「ああ!」
操られていようが、身体が動かなければ魔法も使えないはず。
体力が低下したのを確認してから、最後の仕上げをするべく、森の中に待機させていたロビンを大声で呼ぶ。
「『意思を縛る枷よ。契約を破棄し、縛られし魂を解放せよ』!」
ロビンが素早く言葉を紡ぐと、安城の首が赤く光る。
ぐるりと一週するそれは首輪のようで、胸元に光る紋様は首飾りのようだった。
「これが、【鑑定】に出てた何とかの首飾りか……」
ロビン曰く、これは呪いの一種で、通常の
魔法では通常の魔法との事。
聖女や神官と言った上位職業か、エルフ族に伝わる浄化魔法でないと難しいらしい。
「! ロビン!」
ガラスが飛び散るように赤い紋様が消え去る。
それと同時にロビンが膝から崩れ落ちた。
「大丈夫……。それより……そいつだけど……これで、なんとかなったはずだ……」
「そう、か……」
確かに安城の顔色は悪いが、呼吸は安定してるし、特に問題はなさそうだ。
むしろロビンの方が心配だ。顔色も悪いし息も上がっている。倒れたまま起きる様子が見られない。
(ロビンの事といい、安城の呪いといい……どうなってるんだ……?)
安城は魔女だ。そうそう簡単に操られるとは思えないし、能力だけならそんじょそこらの奴らより上だろう。
……それにロビンの魔法。ロビンに浄化魔法のスキルはなかった気がしたけど……。
「……いや、それは後だ」
今は帰ってロビンと安城を休ませないといけない。考えるのは後でもいい。
暗い森の中、気を失った安城と倒れたロビンの頭を撫でながら、今浮かぶ思考を頭の片隅に追いやるのだった。
side ???
「……さすがだな。ハイネ・クロガネ」
暗い森の中、闇の中から彼女を見ている男がいた。
満足そうに笑みを浮かべ、だがロビンを見て、途端に顔を歪める。
「ロビン・シャウド……エルフから『転換』した『人工』ダークエルフか。適性の合わなくなった魔法を無理に使用するとは、無茶苦茶な事を……」
倒れたロビンから視界を外す。
首元を押さえ、真上に浮かぶ月を見上げながら、静かにその場を立ち去った。