妖精と槍と……
目の前に浮かぶのは手の平サイズの小人。光を放つ蝶のような薄い羽。
――コレは、いわゆる妖精さんですか?
「……妖精って、結構身近なのか?」
「いや。普段は妖精界という別世界にいるんだが……」
「ちょっと! 人間の子に『穢れたエルフ』がアタシを無視するなー!」
確認してたら、顔の前まで大声を出してきた。
……というか。
「だいたい、なんで人間の子が『ソレ』を持っ、がっ!?」
「いろいろ聞きたい事はあるが、とりあえずコレだけは言っておく。……ロビンに対する口の聞き方がなってねぇぞ、あぁん?」
油断したところを握って取っ捕まえ、【脅し】をかけた。妖精は青い顔で慌てながらもコクコクと頷いた。
手を離した後も、俺の【脅し】のスキルが効いているようで、ガタガタと震えるのみ。
なるほど。こいつは便利だな。
「わかったならよろしい。……で。おまえ、なんでここにいるんだ?」
「ハイネ……」
どこか微妙そうな表情でロビンが見ているが気にしない。今はこの妖精の方が気になるのだ。
「……アタシは、アンタの持ってる『ソレ』を探しにきた」
「……この槍の事か?」
状況的にこの槍以外は考えにくい。その考えから、拾った槍を示せば、コクコクと頷く妖精。
「そいつはアタシの知り合いが作った槍なんだ。スッゴい特殊スキルを付与出来て、一番強い自信作だ。……なのに……」
饒舌に話し出し、だがうつむいてスカートの端を握りしめる。
「この前来た腹立つ連中に『使えない』ってバカにされて! その中にいた職業が『魔女』の女が、よりにもよって風魔法で吹っ飛ばしたんだ!! アイツのそれがショックで引きこもっちゃって……だからアタシは、飛ばされた槍を探しに、この森に来たんだ。そしたら……」
「俺が槍を持ってるのに遭遇した。って訳か」
なるほど。そんな事情があったのか。だから人が居た形跡が無いのに槍がぶっ刺さっていたんだな。
しかし『魔女』とは……魔法使いの親戚みたいな職業か?
「『魔女』……女だけがなれる魔法使いの上位職か。厄介な相手だな」
「上位職? ランクが上って事か?」
「ああ。特定の条件を満たせばランクアップされて、上位のスキルを覚えられる上位職になれるんだ。……本来ならな」
意味深なロビンの言葉に、つい明後日の方向を向く。
……それ。絶対俺ら(=異世界人)の事を言ってるだろ。
「……で。おまえはこれを持ってどうしたいんだ? これをそいつに返せばいいのか?」
空気を変えるように話を元に戻す。
この子の言葉から察するに、引きこもった友達を何とかしたいらしいし。それなら俺も攻撃的になる気はない。
……槍は少々名残惜しいが。
「……返してくれるの?」
「おまえの事情もわかったし……持ち主の意向次第だが、可能なら俺が買い取ろうか。とも考えていたところだ。手放すには惜しい槍だからな」
「! ホント!?」
「は? マジかよ!?」
買い取る、という言葉に、両者両極端な反応を示した。
片方は目を輝かせ、もう片方は信じられない、と言わんばかりに驚いている。
「へぇ! お姉さん、話がわかるね! そっちの『穢れた紛い物』のダークエルフとは大違いだ!」
「…………」
…………は? 今何つった?