『穢れた』エルフと新しい武器?
ギルドで冒険者登録試験にクリアした後、いつの間にか自分のスキルが増えていた。しかも二つもだ。
【憤怒の力 Lv.25】
自分よりレベルの高い相手に対し、攻撃力を上げる最上級スキル。スキル所持者の成長に応じてレベルが上昇し、レベルアップによって追加される能力値が最大200%まで上昇する。
現在の追加能力値【+50%】
【脅し Lv.25】
殺気と威圧感により、自分よりレベルの低い相手の戦意を折り、恐怖感を与えるスキル。スキル所持者の成長に応じてレベルが上昇し、相手とレベル差があるほど成功率が上がる。
相手のレベルが高ければ自身の攻撃力が上がり、逆に低ければ、運が良ければだが相手の動きを鈍らせる。
しかも片方はまたもや最上級スキル。一体いくつ習得するんだ。最上級がゲシュタルト崩壊している気がする。
「おまえ……実は最上級スキル製造マシーンか……?」
「やめろ。俺はカリスマレジェンドにも人間国宝にもなる気はない」
有名にはなりたくない。面倒なのに目をつけられたら溜まったものではない。俺の経験上がそう告げている。
「それよりさ。いい加減森に行こうぜ。依頼の期限は無いけど、早い内にシバいた方が良さそうだし」
「そうだけど、これから行くのはウルフやリザード。ゴブリンがいる方だからな。ハイネ……は、自力で何とかしそうだが、俺は回復薬とか欲しいから」
ふむ。そういや勝手に身体が反応して防御やら回避やら行っているが、俺の場合はスキルによる効果があるからな。しかも防御力もプラスされているから、多分初期装備でもウルフたちは行ける気がするし。
……とは言え普通のダークエルフであるロビンはそんなスキルは無く、防御力も普通だ。無理もない。
「ロビンは俺が守る。だから安心すると良い」
「…………。それは、普通俺のセリフなんだが……」
「あ? なんだって?」
「何でもない」
前衛は引き受ける。という意味で言ったんだが、ロビンがボソボソと何か言っている。
ロビンは16歳って言ってたし、ひょっとしたら、いわゆる思春期というやつなのかもしれないな。
「もういい。行こう。……そういや、依頼の標的は何なんだ?」
「ウルフ10体。リザード15体。ゴブリンが30体。……あ。後、チャージ・ボアを5体」
「一通り全種類も戦う気か!!?」
……やっぱり良いツッコミしてるな。この人。
前にスケルトンがいた方面に歩き、目的の魔物たちに出会った瞬間にメイスで殴っていく。
……うん。やっぱりスケルトンやあの男を叩きのめしてスキルのレベルが25になったおかげだろうか。この辺りでは凶悪と呼ばれる魔物も全然苦ではないのだよ。
「……お。ロビン。アレ」
「ん? ……ああ。わかった。任せろ」
遠くの方にゴブリンが5体。近づいてもいいけど、木の根が剥き出しだから足場が悪い為、ロビンにお願いする事にした。
ロビンはすぐに頷き、群れているゴブリンに弓を構え、ほぼ数秒で狙いを定めて射っていく。【弓術の達人】のスキルの影響もあるかもしれないが、動きに無駄が無く、あっという間5匹すべてを倒していった。
「うん。弓を射るところを初めて見たけど、すごく慣れているよな」
「エルフは弓を扱う奴が多いし、物心ついた時から身近にある物だったからな。……エルフだから、弓の腕前は絶対に落としたくないし」
「……そっか」
ぎゅっと弓を握るのを見て、前日男が言っていた「『穢れた』エルフ」という言葉を思い出す。
ロビンにはダークエルフという事はわかっていた事は話したが、ダークエルフとエルフの違いが何なのかは聞いていない。
何故なら彼はその言葉に強く、そして怯えたような反応していたから。
気にならない、と言えば嘘になるが、だからと言ってロビンに無理に話を聞くのも嫌だった。
(話してくれるまで待つのも、信頼だよな)
ロビンから話をしてくれるか。それとも永久に話さないままか。決めるのはあいつだ。
張られたような笑みを浮かべるロビンを見ながら、ただ待つ事を決意する俺だった。
数分後、こちらの森で一番強いチャージ・ボアを殴り飛ばし、証拠となる牙を折って袋に入れてから収納魔法で入れた。
そのまま収納魔法に入れても良かったが、俺の無属性魔法は珍しく、習得者は滅多に見かけないので使わない方が良い、とロビンに注意されたからだ。
目をつけられたくない俺は素直に言うことを聞いている。トラブルは必要無い。
「依頼の魔物はこれで全部だな。木の杖より強いメイス、最高」
「確かに思ったより早く倒せたけどよ……思いきり砕くから大きさが少しバラバラ過ぎる。もうちょっと何とかならないか? 買い取ってもらえない可能性も出るし……」
「あー……」
あちゃー。やっぱりやり過ぎか? 何せホームランの如く振り回しているせいか、手加減はしてる時としてない時があるからな……。
「ハイネの場合、能力が高いからな……メイスだけでなく、別の武器もあった方が良いかもしれない」
「考えてみるわ」
苦言言われてしまった。……まあ打撃武器だけでなく、他もあった方がいいのは間違いないよな。収納魔法にしまえばいいし。
「そうだな……パワーがあって……刃物か刺突系のタイプで……」
パワー。刃物か刺突。いっそ両方。
うーん。パワー+刃物の代表的なのは斧だが、俺はそこまで重い物はいらない。となるとパワー+刺突で槍とか?
……ああ、そう言えば。ファンタジーでは斧と槍を両方合わせた武器があった。確かハルバードと呼ばれていたっけ。テクニックはいるかもしれないが、案外いいかもしれないな。
目の前に刺さってるコレとか。
「うん。そう。ちょうどこんな感じの、扱いやすいパワーの物とか」
「おい! 何で地面に突き刺さっていた槍を事も無げに抜くんだよ!?」
ロビンに言われ、思考を戻す。
……アレ?
「……ごめん。考え事してたら身体が勝手に動いちゃった」
「動いちゃった。じゃないだろ! 地面に突き刺さってる槍を勝手に抜く奴があるか!」
どうやら新しい武器は何がいいのか思案してたら、落ちてた武器を拾って振り回していたらしい。
しかも先程考えていたハルバードタイプの槍だ。連想していたから、つい取っちゃったんだな。
「別に良くないか? 見たところ持ち主いないっぽいし。……それにコレ。すごく扱いやすいんだけど」
「いや、扱いやすいからって……」
どういう訳かは知らないが、ロビンの言う通り、槍はここに突き刺さっていた。
周りに人が居た形跡も無いから落とし物とも考えにくい。……逆に言えば、何故ここにあるのか。という疑問が出てくるが。
扱いやすいし持ち主いないならネコババしよう。と、欲深い考えが頭に過った時だった。
「ちょっと! 何で人間の子と『穢れたエルフ』が『ソレ』を持ってるのよ!?」
目の前に、手の平サイズの小さな小人が出てきたのは。