表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
付喪神サマは6LDKに住みたい!  作者: 紫場ゆうひ
第四章 新たなつくもがみとの出会い
24/30

4-6

「アーク!? どうしたんだよ、急に……」

「これがいけないのではありませんか?」

 甲木がアークの口の中から青々しい花の茎を引き抜いた。

「毒か?」

 眉をしかめて水蓮が呟いた。甲木が手の内からぽろり、とその茎を地面に落とした。

「花に毒なんかないんじゃないの?」

 茎の先端には赤茶けた色の花が付いていた。花びらの一枚一枚がこれまた大きく、全て萎びていた。


「トリカブトやジギタリスという花を知らぬか。毒花とは意外に多いものだ」

 四君子、四種の植物の柄を好んでいるだけあって、詳しいのだろうか。水蓮がそう言いながらアークの横に屈みこんだ。

「吐かせるほかあるまい」

 水蓮はアークの腹を容赦なく押そうとしたその瞬間。アークの姿が恐竜から元通り、細身の男性の姿へと切り替わった。

「大丈夫?」

 病人のように真白になった肌のアークを覗き込み、具詩は訊いた。

「ごめん、昔と同じことしちゃった」

 アークは弱弱しい声で答えた。

「昔って?」

「恐竜の時、変な草食べて、お腹壊して死んだんだ」

「へぇえ……」

 具詩は答えに困った。その変な草がどんなものだったかは知らないが、花の茎をがぶりと食べるのだから、やはりそんなに賢くはないのだな、と思った。

 この様子だと、丹治に力をあげてくれ、というのは無理な頼みだ。諦めるしかないか、と具詩はがっくり肩を落とした。


「まずい、また来ましたぞ」

 甲木の声に反応して周りを見渡す。視界の端に、黒い艶髪の付喪神の姿が見えた。懲りずにまたちょっかいをかけに来たようだ。

「ここは、正面突破で抜けるしかない! 具詩、登れるか?」

 水蓮が竹を指差して訊いた。具詩は大丈夫、と頷いた。今度は甲木が丹治を背負い、水蓮がアークを背負った。それぞれ、必死に竹を登った。すると、具詩は背中を何かに掴みあげられ、一気に上昇する。


 ――うーわ、捕まえられた。顔近すぎ……。


 具詩の目前に、巨大な付喪神がいる。他の付喪神は、今大変な状況なのだ。自分がやるしかない、と具詩は構えを取った。デコピンの体勢だ。

「えいやー!」

「きゃあああ」

 具詩は渾身の力を指先に込めて、付喪神のおでこにデコピンを見舞った。おでこが弱点なのかどうかは分からないが、付喪神はのけ反った。次の瞬間、グレーの靄がすっきりと晴れ、花瓶世界はがらがらと音を立てて崩れた。


 ――うわああっ。

 この花瓶世界に入ってしまった時と同じ、叫び声は打ち消されてしまった。気がついたら、具詩たちは博物館の通路の端に呆然として立ち尽くしていた。

「やっと、出てこれたのか」

「アーク、大丈夫か」

 水蓮が臨時展示のコーナーの一画にある、深紅のソファの上にアークを寝かせた。アークは苦しそうに口を開く。

「あれ、僕の宿ってる化石取ってきて……あれを削って飲めば治るから」

 具詩は急いで探しに行った。

展示場所の中央あたりに、勝倉院に保管してあった、アマグリトプスの化石、用途は漢方薬、というものを見つけた。アマグリトプスの再現写真を確認する。それは、さっき見たばかりの恐竜姿のアークと一致する。


 ――とっさに駆けて来たけど、どうやって取り出すんだ!?


 展示ショーケースの中に手を突っ込もうとしたら通報されるだろうし、かといって係員に頼みこんでも無理だろう。

そう悩んでいる具詩の横に、水蓮がスッと立った。

「具詩、あれを取ってくるが、展示品の一つが無くなったと騒ぎになっては困る。そうだな?」

「う、うん」

「係員も客も、この展示品から目をそらしている必要がある」

「そうだね」

「具詩、周りの客の注意を引きつけろ。一分でいい」

 水蓮は凛とした表情で言った。

あ、少年漫画でこの展開見たことある、既視感がある、と具詩は思った。

「それではいくぞ」

「ちょっと心の準備がまだ……!」

 具詩の制止も聞かず、水蓮はやすやすと展示ケースの中へと入って行く。水蓮が展示品として大事に扱われてきたであろう、化石に触れた瞬間。具詩は心を決めた。


「みなさん! こちらをご覧ください! アマグリトプスの動きを実演させて頂きます。えーと、はい、参ります!」

 具詩は勇気を振り絞り、斜め掛けの鞄をかなぐり捨てて大きな声で叫んだ。

非常口のグリーンライトの下に立っている係員も、展示ケースの前を通りがかった客たちも、何事かと具詩を見つめた。

まだ不審者として警備員に捕まえられる気配は無い。具詩は深く膝を曲げ、手をヒラヒラさせながら、様々な化石の前を闊歩した。


カンブリア紀、デボン紀、ジュラ紀、白亜紀、生命の進化を証明する化石たちの前を、アマグリトプスを演じながら具詩が駆ける。最初こそあっけに取られていた客も、そのうち馬鹿にするような笑いを漏らした。

「ねぇ、あれさ、芸人さんの物まねに似てるよね~?」

「ティラノー? めっちゃウケる。あっは」

 具詩にスマートフォンが向けられる。

「ノーテーキング、フォト! ノーテーキング、ムービー!」

 一分はまだか、と具詩は薄れゆく自意識の中で感じていた。

係員がこちらに焦った表情で向かってくる、その横で具詩は水連が化石を元の場所に戻しているのを確認した。


「ごめんなさい、お騒がせしました」

 具詩は平静を装って、その場から逃げるように立ち去った。その場にいた人たちは、そんな具詩をただ呆然と見つめ続けていた。

「逃げるぞ、具詩」

 具詩が走っていると、丹治を背負った水蓮と甲木とアークの姿があった。

「元気になったの!?」

「うん、なんかごめん。あとありがと」

 アークは心底申し訳なさそうに謝った。

「どうする、丹治に力を与えるのは今度にするか?」

「平気。ただ博物館からはかなり離れた方が良いと思うけど」

 具詩たちは走りながら会話を交わした。背後を振り返ると、警備員が追いかけてきている。完全に不審者扱いだ。

「さて、具詩殿。どこまで参りますか? 甲冑が重いので、出来ればあまり走りとうのうございます」

「前から思ってたんだけど、甲冑脱げよな!」

 具詩たちは立ち止るに止まれず、走り続けた。


 ようやく普通に歩くようになったのは、博物館から蓬莱通りの方へとかなり近づいたころだった。

「この様子だとまた付喪神世界に行くのか? 振り出しじゃないか……」

「いや、別に付喪神世界まで行かなくとも丹治を復活させられるけど」

「んー」

 アークの言葉に具詩は考えこんだ。丹治が目を覚ます瞬間、出来れば菊美はそばにいたいだろう。

「古道具屋まで行こう」

 具詩の言葉に全員が頷いた。

「あら、あらおかえりなさい」

 古道具屋の扉を開けると、そわそわと落ち着かない様子の菊美がいた。まだ眠ったままの丹治を見て、少し落胆した様子だった。


「色々あって結局戻ってきちゃいました。今から、アークに丹治さんの目を覚ましてもらいます」

「えぇっ?」

 意外そうな表情で菊美が目を開いた。

「それじゃ」

 水蓮が丹治を床に寝かせた。その横にアークが屈みこみ、丹治の額に手を当てた。額の上から、白色の柔らかな光が現れ、部屋の壁に反射していた。

「丹治、さん」

 次の瞬間、丹治の身体を覆っていた青い膜がはじけ飛び、ゆっくりと丹治の瞳が開かれようとしているのが見えた。ぴくぴくと、目の下が痙攣している。

「丹治――!」

 すでに涙でびしょ濡れになっている菊美が、床に膝をついて丹治を抱き締めた。

 丹治は半身を起こして、その端正な唇を動かした。

「菊美、久しぶりだな。……随分、老けたんじゃないかあ」

 菊美は丹治の胸元に鼻を押し付けて泣いていた。ぽんぽん、とまるで子供をあやすように、丹治は菊美の白く染まった頭を撫でた。

 具詩たちはその二人の様子を遠巻きに見つめていた。

ふと、閉め忘れていた扉から風が吹き込み、店の奥から一枚の紙をぐるんぐるんと巻きあげた。その紙は古道具店の床を滑り、具詩の足元の前で止まった。


「手紙……」

 具詩はその紙を拾い上げて、中を読んだ。そこには、菊美がこの前記していたメッセージがそのままあった。


 ――お互い色々あったけど、近いうちにまた会いましょう。

 オレンジ一色、喜びの色を浮かばせていたその文字は、また変わっていた。

 今度は喜怒哀楽、その四色をまるでせわしないイルミネーションのように、絶えずその光彩を変化させていた。

 メッセージは変わっていないのに、不思議と既視感が無かった。

 何もかも新しくなっていく、そんな予感がする。

菊美と丹治、抱き合う二人の胸の内を、このインクは知っているのかもしれない。

 具詩は紙を握りしめ、にこやかに微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ