表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
付喪神サマは6LDKに住みたい!  作者: 紫場ゆうひ
第四章 新たなつくもがみとの出会い
21/30

4-3

「僕はね、化石に宿った付喪神だよ。名前はアーク」

 具詩は眉をしかめた。化石、とはアンモナイトやゾウリムシの、あの化石のことだろうか。化石はとてもじゃないが、古道具と分類できそうにない。もし化石に宿っているのだとしても、付喪神とは別の存在なのではないかと思った。

「化石の付喪神が、なんでここにいきなり?」

「丹治のことを治してあげようと思って。偶然丹治の気配と、この付喪神世界の気配を察知してね。治すというのは、ただの僕の思い付きだったんだけど」

「治せるって、それ本当のことなの?」

 具詩には信じられなかった。

「そうだね……期待してもいいんじゃないかな」

「じゃ、じゃあ治して欲しい」

「それはこちらも望むところだけど」アークが肩をすくめた。「丹治を探しにここに来た瞬間、この世界が大きく変わってしまったんだ」

「やっぱり、アークのせいか」

「尋常じゃない変わりようだよね。もうぐわーって感じで」

「僕の力の影響で、卵までかえってしまったね」

 アークがジャジーを見た。ジャジーが付喪神として出てきてしまったのも、アークのせいらしい。

この世界に大きな力を持つ付喪神が足を踏み入れると、たしかに世界は一気に拡張されることもあるだろう。どうしてアークがそれほど強力な力を持っているのか、それは分からないが。


「悪気はないんだよ。でも、世界の姿が変わったから、元からこの世界にいた付喪神たちには警戒をされてしまった」

「それは、まぁ」

 丹治を治せる付喪神だと知っていたら、水蓮たちも快く迎え入れてくれただろうに。事前に予約じゃないけど、約束を取り付けてくれれば良かったのに、と思う。

「丹治に会いたい、といったら余計警戒されて、力を使って倒されそうになった」

「この竹のことか」

 具詩は部屋を貫くように伸びている幾本もの竹を見上げた。インテリアのためにあるわけではなくて、水蓮がアークを攻撃するつもりで出したようだ。

「竹も含めて色々。それで、うっかり僕も力を使って、彼らを全員ねじふせてしまった」

 アークは自分の手のひらをじっと見つめた。具詩は軽く驚いた。アークは背は高いが細身で、もやしっぽい。水蓮たちを全員相手にして、気絶させるほどの戦いとは、一体どんなものだったのだろう。具詩にはとても想像がつかなかった。


「そ、そうだったんだ。へぇ~」

「ねじ伏せるって、それは勘弁してもらいたいね。たとえどれだけ俺のことが嫌になっても」

 具詩とジャジーはあからさまに動揺した。アークは穏やかそうに見えるが、少しでも気に障ればねじ伏せられるのではないかと勝手におびえた。

「こちらも気絶させるのは本意ではなかったよ。ただ丹治を治してあげたいっていう、親切で来たつもりだったんだけど」 

「丹治は、この付喪神世界が崩壊するのを阻止して、力が底ついたんだ。それを、どうやって治すの?」

 具詩は踏み込んだことを訊いた。

「簡単だよ、力をあげようと思って。有り余るくらい、僕にはあるから」

「有り余るってのはジョークみたいだな。みんな普段、力を節制しながら生きてるくらいなのに」

 ジャジーが言ったことに、具詩もおおむね賛同した。水蓮たちは、余計な力の消費を抑えるように生活しているのだ。それが、力を人にあげられるくらいの付喪神が出現したのだ。夢のような話だと思う。

「丹治に力をあげてもらっても?」

「それがね」アークがここに来て初めて眉を下げて感情を示した。「丹治を隠されてしまったようなんだ」


「隠された?」

 そういえば、回廊の扉を色々開けてみても丹治の姿も、その丹治を取り囲むように常にいる小さな付喪神たちの姿もなかった。

「うん。多分この、竹を出してきた付喪神だと思うよ。凄い手腕だった。あっという間に丹治を隠して、まだ見つけられない」

 アークはしゃがみ込んで、水蓮のすぐ横に腰を落とした。

「水蓮が隠しているのか」

「かくれんぼに洒落こむのか? しかし、丹治は自分の居場所を教えられないんじゃ」

 ジャジーが長いひげを撫でつけながら言った。

「いや、日を改める。今度は、丹治を連れて逆に僕のところを訪れてきてくれないか」

 アークが立ち上がって具詩に視線を合わせると言った。

「いいよ、どこに行けばいい?」

「近所の化石博物館。僕はちなみに、臨時開催展の方だから」

「博物館ね」

 具詩は頭の中にしっかりメモするように呟いた。

「それじゃ、この付喪神世界から出ようかな」

 アークは歩き始めた。具詩はまだ、アークに色々と聞きたい気もした。どうしてそんなに強力な力を持っているのか、とか。何の化石で、どうして付喪神として宿ったのか、とか。それでも具詩は引き止めなかった。いつまでもこんな、巨大な付喪神世界は落ち着かない気がしたのだ。


「それじゃ、また」

 具詩が言うと、アークは回廊を走り出した。すると、回廊はもろく、崩れるように変化していった。いくつもあけられた扉が消え、宙にはぼんやりと畳が見えて来た。次いで、板張りの空間が二つ。それが見えてきた頃、クリーム色と青色の光りの回廊は完全に消え去り、いつも通りの付喪神世界になってきた。

 ジャジーも姿を消していた。元通り、ギターの中に卵のようになっている、付喪神の準備段階に戻るということだろう。

 あの音楽ホールも合戦場も、なくなっているはず。付喪神世界の畳の床には、水蓮たちがひしめき合って眠っているのが見える。それを見下ろすように、浮いている空間の方に、具詩は立っていた。

「どうやらもう、アークはここからいなくなってるみたいだね」

 具詩は背後を振り返る。あ、と声を上げた。そこには横たわったライトブルーの膜が張った丹治と、それを取り囲む小さな付喪神たちがちゃんといた。本当に、アークがいなくなったら全て元通りになっている。アークの影響がどれだけ凄かったのか、具詩は今更ながら吃驚した。

 さっきまでの回廊と無地の広々とした部屋に目が慣れてしまったのか、信じられないほど元の付喪神世界が狭く見えた。


「……具詩、具詩! 丹治はどうした」

 突然水蓮が飛び起きると、具詩に大きい声で話しかけた。

「いるよ」

 具詩は振り返って丹治の方を指し示した。水蓮が安堵の息を漏らし、一気に肩の力が抜けていくのが分かる。

「見たか? とんでもない力の付喪神だ……」

 水蓮が胸を抑え込むようにして訊いた。

「化石の付喪神のことだよね」

「化石?」

 水蓮がその単語に目を開き、何事かと訊き返した。アークの正体に、全く気付いていないらしかった。

「何の化石かまでは聞けなかったけど、化石の付喪神らしい」

「具詩が追い返したのか?」

「いや、あの」具詩はアークのことをどう説明しようか言いあぐねる。「今度また会うって約束をして、帰ってもらった」

「約束なんかして、それで上手くやったつもりですか。約束を破ったら、それこそとんでもないことになりますよ」

 疲れている表情で、豆黒は具詩を強く言いつねった。

「約束は守るよ。アーク……あの化石の付喪神は、悪い奴じゃないんだ」

「はっ、こっちは気絶までさせられてるんですけどね」

 豆黒が肩をすくめて鼻であざけるように笑った。

「丹治を純粋に助けたくて、この世界に来たって言うんだ」


「助ける……?」

 水蓮が顎に手を添えて考え込むような仕草をした。

しばらくして、

「そんなこと、やつは言っていなかった。丹治に会いたい、とだけ言うので思わず身構えてしまったが」と言った。

「あの化石の付喪神、アークって言うんだけど、すまない悪気はない、って言ってたよ。本当は丹治を純粋に助けたかったらしい。なんというか誤解と行き違い?」

「待て、待て」水蓮が具詩の前に大きく手のひらを開いた。「助けるとは何だ」

「力を与えて目を覚まさせてくれるって」

 具詩が言うと、付喪神世界がざわめいた。

「確かに、あれだけの力を持つ付喪神ですから、頼るというのも手ですね」

 バジルが頷きながら言った。

「ふぅむ……」

「俺も良いと思う。ただ足を踏み入れただけで付喪神世界を大きく変えられるんだ。もしかすると、丹治を……」

 具詩はこの話をまとめるために、必死に説明した。そもそも、アークが現れた付喪神世界は信じられないほど大きく変わった。しかし、丹治が目を覚ましていない現状を考えると、付喪神世界はあの時完全復活したわけでもないらしいのだ。つまり、付喪神世界へ一人一人、と地道に付喪神を招き入れていくのでは、途方もなく長い時間がかかるはず。もし、丹治の目を覚ますことが出来るのなら、絶対にアークに頼った方がいい、と具詩は思った。


 ――菊美さんだって、待ってるんだ。


 また会いましょう、という言葉を記した菊美の気持ちを考えると、一日でも早く会わせてあげたいのだ。

「約束をしたんなら、行かない他ないでしょう。具詩が先頭に立って、それで話を進めていけばいいじゃないですか」

 豆黒が言った。

「そうだな……約束とはどこで?」

「えーと化石博物館の臨時開催している展示で」

 具詩はしっかり思い出せたことにほっとした。うっかり忘れていたら話にならない。

「化石って、何の化石でござるか?」

 もっともな疑問だ。しかし具詩も聞きそびれてしまったのだ。ゴメン、分からない、聞き忘れた、と白状すると付喪神たちからガッカリ、というような表情を向けられる。確かに、何の化石で、どうしてそんな圧倒的に力を備えているのか、聞くべきだった。


 ――まぁでも、次があるし。


 約束の場所に丹治を連れて行きさえすれば、全ていい方向に行くだろう。具詩は楽観的に構えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ