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六話、お別れのはずだった
生きている人間ときちんと話したのは
いつぶりだろう?
こんなにも自分に感情があるとは
思っていなかった。
吸血鬼だといっても
恐れずに普通に接してくれたリン。
もっと話していたい、もっと一緒にいたい、
そんなことをつい、思ってしまった。
リンはここの世界の人間ではない、
扉の向こうの異世界の人間だ。
手放さなくてはならない。
だから、手放せなくなる前に
帰してしまえば問題ない、そう思っていた。
「ここを抜ければ帰れるぞ。」
喜んで帰るとばかり思っていたのに、
俺の言葉を聞いて、
リンは悲しみをこらえるようにして笑った。
「うん、ありがとう。
そして・・・さようなら。」
そういって扉に飛び込んだ。
リンがいなくなった。
扉も閉じている。
だからリンがここにくることはもうないと
思っていた・・・
が、次の瞬間
リンが目の前に現れた。
「・・・あれ?」
不思議そうに首をかしげるリンをみていると
胸の辺りが暖かくなってきて
つい抱き締めてしまった。