五話、お別れ
正直、言葉が出てこなかった。
仲間が、家族が殺されて
種族のなかじゃ一人ぼっちに近いだなんて・・・
いくらなんでも酷すぎる、残酷すぎる。
たしかに、
旧校舎に行って犠牲になった女の子たちには
なんていったらいいんだろう?
可哀想だし、きっと怖かっただろう。
残された家族も辛かったはずだ。
けど、ただ吸血鬼ってだけで
レイたちの仲間たちは、
家族は片っ端から殺されていったんだ。
生きるためではなく、
ただの自己満足と共通の敵をつくることで得る
安心感のためだけに殺されたんだ。
許せないだろう、辛かっただろう。
レイは誰よりも何十倍、何百倍と苦しんだんだ。
復讐するためだけに生きているなんて、
どれだけ悲しい人生なんだろう。
来る女を片っ端から喰らってた、と言っていたが
それなら私のことも
とっくに喰らっていたはずだ。
私がまだ生きているということは
レイは冷徹で人でなしなんかじゃない、
とても優しい人だということだ。
吸血鬼が全員悪いやつではないということが
なにも知らない私にさえ分かった。
できることなら
私も、この人の力になってあげたい・・・
そう思った。
話を終えても一言も喋らない私を見て、
レイはハッとした表情になった。
「悪い・・・
聞かれたのは扉のことなのに、
関係ないことまで話してしまった。」
そういってレイは頭を下げてきた。
「いやいやいや!
こちらこそ色々話させてしまってごめん!」
私も頭を下げた。
「いや、なんでリンが頭を下げるんだ?」
不思議そうに首をかしげるレイをみていると
だんだん笑いが込み上げてきた。
「あはは、変なの~」
「何が変なんだ?」
さらに首をかしげるレイ。
何故かはわからないけど、
くだらない話とかをするのがとても楽しい。
心がぽかぽかする・・・
いつぶりだろうか?
こんなに腹を抱えて大笑いしたのは。
「ところで、扉のことなんだけどさ~」
「おい!
話をそらすな!」
突っ込んできたレイを気にせず続けた。
「私は森に飛ばされたけど、
いつも帰りはどこに飛ばされるか
わからないの?」
「それだと流石に困る・・・
ここにある鏡が旧校舎の鏡に繋がっていて、
必ずここに出てこれるようになっている。」
ってことは、
私は森に飛ばされたのはバグなのか・・・?
「とりあえず、
向こうへ繋げるからリンは帰れ。」
そういってレイは鏡の前に立ち、手をかざした。
鏡が光始めたことを確認し、レイは振り返った。
「さぁリン、お別れだ。」
鏡の光をバックにレイは、
はじめて微笑んだ。
その顔が、
私にはとても悲しそうに見えた気がした。
『お別れ』だと、
そう言われた時、胸が締め付けられた。
何故だろう?
帰らなくちゃいけないのに、
そのために扉のことを聞いたはずなのに。
どうして・・・?
どうして私、帰りたくないって思ってるの?
「リン?」
ハッとして顔をあげると、
鏡の前にいたはずのレイが目の前にいた。
「ごめんごめん!
こんなにあっさり帰れると思ってなくてさ~
ちょっと驚いてただけだよ。」
レイはほっとした顔をして
私の手をひいて鏡の前に連れていった。
「ここを抜ければ帰れるぞ。」
「うん、ありがとう。
そして・・・さようなら。」
私はこれ以上いても苦しくなるだけだと思い、
鏡に飛び込んだ・・・
はずなのだが?
「・・・あれ?」
目の前にはレイが目を見開いて立っている。
もしかしなくても、帰れてない!?
そう思っていると
突然、レイが抱き締めてきた。
これって一体、どういう状況なの!?