第81話 老賢人と皇子の密談
「初めまして、ビルメイス閣下並びにモルト閣下。アレクセイ=イヴァ=ロマルクと申します。英雄と名高い両閣下に会えて光栄に存じます」
和平締結から1週間後、アレクセイはオットーとヴィルヘルムと共に、ロマルクへと帰還する軍艦イブェンの作戦会議室で会談を行った。部屋の周りは、エルザ率いる死神の鷹が守っており、防諜と防衛は完璧である。アレクセイの隣には、エルザとリースが控え、2人ににらみをきかせている。
「ほう、礼儀正しいですな。オットー=フォン=ビルメイスと申します。本日は、アレクセイ皇子殿下にお願いの儀がありまして‥‥」
「まどろっこしいぞ、オットー。ヴィルヘルム=フォン=モルトじゃ。アレクセイ皇子殿下、単刀直入に申し上げる。皇子殿下の派閥の外交政策を親ドラーム帝国として頂きたい。否とは言わせませんぞ!」
あまりに真っ直ぐ過ぎる物言いを聞き、オットーは苦虫を噛み潰す。外交的にまずすぎる態度と言動だ。だが、アレクセイは気にも留めない。軍人として過ごした時間が長い為に、こう言う言動はかなり慣れている為だ。
「ビルメイス閣下、気にしなくて良い。今、俺の隣にいる2人も似たようなものだからな。そうか、そう来たか。会う前から嫌な予感はしていたんだ。理由は分かるが、嫌だと言ったらどうなさる? ドラーム帝国に肩入れして、俺達にどんな益があるのか。後学の為に、是非聞かせて貰いたいものだが?」
ウラディミルの下で働いているので、ヴィルヘルムの懸念をアレクセイ理解出来る。停戦したとはいえ、ロマルク帝国は敵国だ。フラメアとエゲレースはドラーム帝国と戦う姿勢を見せ、トルドとギレブーは同盟を離脱する事は確定である。このままだと、ドラーム帝国は全方位が敵という事態になりかねない。
だが、アレクセイにとってはドラーム帝国の状況など重要度が低い。今は外に悩まされず、内政に打ち込みたいからだ。またぞろ戦争に巻き込まれるなど、心底ごめん被りたい。
「御両人、冷静になられよ。アレクセイ皇子殿下、貴方の派閥にはエルザ=スタンコ少尉を筆頭に、ユリア=スタンコとガスパー=スタンコ。オイゲン=イェーガー元大佐にナーシャ=シュナイダー元中尉等の元ドラーム軍人。そして、現代に甦った魔法使いリース=エルラインとドラーム帝国所縁の者達に支えられておりますな?」
「色々ありすぎて、優秀な人材がかなり流出したからのう。その恩恵を受けているのは、他ならぬアレクセイ皇子殿下です。ならば、少しはドラーム帝国に還元して貰いたいのじゃ」
結局、ナーシャと指揮下にあった神兵達はレオナルドの部隊が預かる事になった。エルザやリースが監視と訓練を行い、使える目処が立てば軍に割り振る予定だ。もっとも、ナーシャと数名は部隊に残りたいと希望している。アレクセイの派閥は、確かにドラーム帝国出身者が多数を占めており、彼らの言い分も分からない訳ではない。
「ロマルク帝国の中に話が出来る要人が居なかったのが、長きに渡る戦争を止めれなかった原因の1つと言えましょう。そこで、アレクセイ皇子殿下には、我らと友人になって頂きたいのです。見返りは、金銭と技術の供与。さらに皇帝即位に対する全面的な協力。いかがですかな?」
破格の条件提示に、アレクセイは胡散臭げにオットーを見つめる。何か裏があると疑いたくなる程だ。
「怖い、怖すぎるぞ。ビルメイス閣下、随分と大盤振る舞いをするではないか。何が狙いだ? ロマルクと同盟を組んでフラメアやエゲレースと戦うつもりでは無いだろうな?」
あまりに、こちらが得る利益が大きい。何かしらの謀略があるのか、と疑うアレクセイ。そんな彼にオットーは笑顔を見せる。その表情は、アレクセイという人物を面白がっている様子だ。
「ふむ、近いですな。なかなか勉強をしておられる。詳細は言えませんが、ロマルクと同盟は実現したいと考えております。是非とも考えて頂きたいのですが」
「俺の一存では決められませんな。レオナルドやアレサに謀ってみます。しかし、ビルメイス閣下。俺個人としては、前向きに検討させて頂くと伝えておきましょう。ただ、ドラーム軍をロマルク帝国には入れたくない。物資と技術供与だけで良いと考えている。‥‥さて、俺はこの事を皇帝陛下に報告へ行かねばならない。後の事はエルザ達と話をしておいて欲しい。貴殿方にとっても、それがけじめと言うものだろう?」
アレクセイは、そう言って立ち上がると会議室を出ていく。残されたのは、オットーとヴィルヘルム。アレクセイの護衛であったエルザとリースだ。かつて、神兵計画を止めた人物とその結果起きた粛清から生き延びた者との出会い。ヴィルヘルムは落ち着かない様子で、オットーと神兵2人を見る。
「あの胆力と器量、大した男よな。全くこちらの皇帝陛下と取り替えたくなるわい。エルザ=スタンコ少尉、リース=エルライン女男爵。座ってくれるか? 今度は君達と話す番だ」




