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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第6章 ロマルクへの帰還
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第80話 老賢人と元王族

ミハイルに護衛を命じられたレオナルドは、アレサと共にオットーとヴィルヘルムに呼び出される。ドラーム帝国側に宛がわれた部屋に彼らが入ると、英雄2人が椅子に座って待っていた。


「まずは、椅子にかけたまえ。レオナルド=エマヌエール並びにアレサ=デュレールか。悲劇と戦乱が無ければ、未だ王族であったのにな。まあ、今の方が幸せなのは間違いないと思うが」


「ビルメイス閣下、私達は姓と地位を捨てております。今やロマルク帝国軍の中佐と少佐に過ぎません。その姓名で呼ぶのは、今後止めて頂きたいのですが」


レオナルドは、オットーにそう願い出る。1軍人として扱って欲しいと言う彼にヴィルヘルムも頷いた。


「良かろう、良い心がけじゃ。王族、貴族の地位を前面に押し出す輩に見習って欲しいわい。得てしてそういう手合いは能力が無い事が多いからのう。しかし、ご両人。夜はなかなか激しいらしいの。百戦錬磨の儂の部下が、顔を真っ赤にしてたくらいじゃ。いやはや、若いとは良いものよ」


たちまち真っ赤になる若い2人。どうやら、盗み聞きしてたのはヴィルヘルムの部下だったらしい。エルザ達が気付かなかったのは、事前にアレサが護衛を外して欲しいと願い出たからだ。その事を今さらだが彼女は後悔していた。


「モルト閣下、止めてください!! 他人の口から夜の営みをばらされるのは、恥ずかしすぎますから」


「まだまだ甘いのう、御両人。とはいえ、人材としては使えるわい。早めに、こちらの手中へ収めるべきだったか。イザベッラやヴィクトル等という愚物、ドラーム帝国が引き受けたのは大きな誤りであったわ!」


前者はドラーム帝国に多大な損害を与え、後者は傀儡としては非常に扱い難い。ヴィルヘルムだけでなく、オットーもため息をつく。


「否定出来んな。しかし、フォンターナ中佐。君の妻達は女傑揃いだな。夫婦喧嘩になったら怖そうだが、くれぐれも周りを巻き込むでないぞ。マルコの奴がおるから、多少は被害を抑えられそうだが」


「喧嘩じゃなくて戦争になりそうじゃな。見物するのも命懸け、止めるのも命懸けか。やるなら、街中ではなく演習場にせいよ」


ミハイルやウラディミル、アレクセイにリース等の神兵達からも喧嘩は自重するようにと命令や忠告を受けていた。まさかオットーやヴィルヘルムにまで言われるとは思わず、頭を抱えるレオナルド。慌てて、話題を変更する。


「ご、ご心配ありがとうございます。何とか未然に防ぎます。ところで、モルト閣下。私の義父と会った事があるのですか?」


「オットーと儂は君の義父と長い付き合いがある。何度か共同戦線を敷いて、共に戦った事があるのでな。マルコは間違いなく名将じゃよ。血は繋がっていないとはいえ、君も優秀のようだがな」


オットーはイダルデ王国に使者として、ヴィルヘルムは観戦士官や援軍を率いる将としてかなりの頻度で訪れていた。その際、マルコとは何度も会っていた。政治家と軍人。立場が違えども2人が思う事は同じであった。


((マルコ=フォンターナを失えば、イダルデ王国は持たない))


マルコがロマルク帝国に亡命した時、ドラーム帝国がイダルデ王国を見限ったのはこの為である。以後、反ロマルク同盟の国々からの援助や援軍も無くなり、イダルデ王国は滅亡してしまった。自業自得の最後と各国の首脳は冷笑したものだ。


「‥‥私は義父に遠く及びません。実力も妻達の方が上ですし。私は彼女達が存分に戦えるよう、舞台を整える事に全力を尽くすまでです。ビルメイス、モルト両閣下。我々は仕事がありますので、これで失礼します」


椅子から立ち上がって敬礼したレオナルドは、ドアを開けると2人の前から足早に去っていく。その後ろ姿を見て、ヴィルヘルムは不思議に思う。かつて噂に聞いた自信家の部分が見えないからだ。


「そうかな? そんな3人を御しているフォンターナ中佐もなかなかの男と思うがのう。随分と謙虚になったようじゃが」


「自分より、実力のある者達を見たからであろう。それでも腐らず、成長しようとしている。なかなか見上げた男ではないか。アレサ嬢、他の女性2人に負けない事です。かなり、手強そうですからな。そして、フォンターナ中佐を守る事です。得てして、改革者は敵が多い」


「分かってますわ。自分の事で重々承知してますもの。サーラとエルザとは上手くやっていきます。もちろん、譲れる所と譲れらない所はありますけれど。では、私もこれで失礼します。出発は明朝を予定していますので、皆様準備を怠りなくお願いします」


2人に敬礼したアレサは、レオナルドの後を追いかける。そんな彼女を見たオットーは、ヴィルヘルムに問いかけた。


「ヴィルヘルムよ。アレサ嬢は愛する男とは結ばれたが、国も王位も失った。ロマルクでの暮らしは大変だろう。国家からの監視に加え、貴族や民の誹謗中傷も激しくなろうしな」


「ふん、大丈夫じゃろう。そこで、スタンコ少尉やルイシコフ技術中尉の出番がある。物理的、金銭的圧力を最大限発揮する両名がおるのだからな」


かつて、レオナルドに群がる女性と貴族を排除した実績のある2人だ。良好な関係が続いている今は、アレサの事も守るだろうとヴィルヘルムは語る。


「そうか。ならば、例の計画を進めよう。本国の動静が気になるが、ここで彼らを味方にする事は、ドラーム帝国に益をもたらすだろうからな」


「次はアレクセイ殿下じゃな。ただの女たらしと思いきや、意外な曲者だからのう。何とか言質を引き出したいものよ」






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