第77話 暴露された秘密
「何の事やら分からんな? ビルメイス、そのような事実は無いぞ」
ミハイルは、ビルメイスの追求にとぼけて見せる。どこまで知っているのか? 誰から聞いたのかがまだ分からないからだ。ロマルク側の防諜は完璧のはずだ。と、考えるなら情報が漏れたのは、ノルディン側しか考えられない。突然の話にロマルク側はおろか、ドラーム側の人々もざわついている。オットーは片手を上げ、それを制すると追及を続けた。
「認めませんか? 儂とヴィルヘルムの配下が、ノルディンに潜入して持ち帰った情報です。確度の高い情報ですので、間違い無いかと。ロマルク側への潜入は、人材と時間の無駄遣いですからな。いやあ、簡単でしたよ。アレサ様。はっきり申し上げて、ノルディン王宮の防諜はザル過ぎます」
「‥‥‥‥」
アレサは顔に表情が出ないよう、必死に感情を抑える。おそらくは親ドラーム派からの情報提供。アレサやマルク達も気を付けてはいたが、全員を見張る訳にはいかない。近衛隊や侍女にメイド。侍従に文官等、情報源には事欠かない。
「まだお若いですな。アレサ様、沈黙は肯定と変わりませんぞ。情報源は、何を隠そう貴女の母君の侍女達ですよ。情報料を支払ったら、すぐに教えてくれましたよ?」
「‥‥ぐっ」
王妃の侍女達と聞き、アレサは情けないやら口惜しいやらで泣きそうだ。だが、オットーは更に追い討ちをかける。
「彼女達が話してくれたのは以下の通りです。3年近く病気療養と称し、ロマルク士官学校で学んでいた事。ノルディン海軍の士官の妻達からの又聞きで、老朽艦で海戦をする事が3回程あった事。そして、儂らと同盟中にも関わらず、ロマルクと和平交渉をしていた事等を教えてくれました。侍従の中で、王妃殿下にその事を報告していた者がいてくれて助かりましたよ。貴女の母君は、バロル大公との逢瀬を国王に話す程のお方でしたからな。いやはや、飼い主に似たようで、口が軽い、軽い」
「‥‥閣下!」
オットーの揶揄に手を握りしめて耐えるアレサ。自分の母の罪とはいえ、公衆の面前で言われれば、恥ずかしさと怒りが沸いてくる。そんな彼女を見かね、レオナルドが反論する。
「ビルメイス閣下! 今の発言はノルディン王家に対する不敬にあたりましょう。傀儡とはいえ、同じ母親を持つヴィクトル王を擁立する国の高官が言うべき事ではありますまい」
「不敬にあたるまい。王妃殿下とバロル大公の犯した愚行の先に、今回の件があるのだからな。彼女らがした事は、結果として国を滅ぼしたのだ。レオナルド=エマヌエールよ。アレサ様の母君、なにやら君が止めを差した女と似ているか? それと‥‥、アレサ様とは男女の仲だと聞いた。婚約者もいるのに、なかなか盛んな男よな」
自分の素性まで知り、イザベッラを殺害した事もアレサとの逢瀬も知られていた。名政治家オットー=フォン=ビルメイスの実力を改めて感じるレオナルド。魔王や死神の目を掻い潜り、どうやって情報を入手したのか。そんなオットーに対し、畏敬の念を覚えるレオナルドをよそに議論は続く。
「マルコ=フォンターナも大した狸だな。王族を自分の息子とし、守り育てて来たのだから。イザベッラ姫の暴走無くば、隠しきれたはず。これでもまだ隠そうとするか、魔王よ?」
「ビルメイス閣下、我らの行動を知っているのは分かりました。ロマルク側に何を望みますか? ボルガ諸島を全て領有させてくれとでもおっしゃるので?」
「そこまでは望みはせん。ただ、ボルガ諸島の南方の4島をドラーム側、北方3島をロマルク側とし、分割統治を望む。さすれば、ドラーム帝国としても面子は立ちますのでな」
ウラディミルの質問に、オットーは提案する。そこを狙っての仕掛けと気付き、歯噛みするミハイルとウラディミル。この案を出す為に、アレサとレオナルドの秘密を暴露したのかと。これなら、ドラーム帝国は海を失う事は無い。何故なら、ボルガ諸島は東西に広がる島々で構成されている。西に3キラル行けば、そこはデルラントの領海だ。つまり、北の海域はロマルクが。南の海域はドラームが使用する構図となる。
「考えたな、ビルメイス。余の暗殺未遂事件のせいで、ドラーム側は条件闘争するには厳しい。故にアレサの留学とノルディン側の秘密外交を暴露したか。相変わらず、その才覚は衰えておらんな」
「お褒め頂き光栄です、ミハイル8世陛下。アレサ様、1つお伝えしておきましょう。母君の侍女達は、全て処断しております。家族を含めて全員です。口が軽く性根が弱い人間でしたのでね。両国にとって、生かしておいては災いになりますからな」
分析からの決断、行動の速さはオットーの真骨頂だ。その確かさにミハイルとウラディミルは舌を巻く。ボルガ諸島に関しては、彼の言い分を認めるしかないようだ。
「さて、次はノルディンの分割について話し合いましょうか? お互いに決め手が欠けるのが難点ですが」
「‥‥その前に少し休憩を挟みたいのですが、よろしいですか?」
議論を続けようとするオットーに対し、休憩を挟む事を提案するウラディミル。しかし、その提案を元宰相は却下する。
「いや、レノスキー少将。まだ1項目しか決めていない。このまま続けましょう。貴殿方としては、態勢を立て直したい所でしょうがね」
思惑を見透かされ、内心面白くないウラディミル。だが、ここで強引な事は出来ない。オットーの発言が事実と認める事になる。
(魔王と恐れられてはいるが、私もまだまだだな。ロマルク側にもビルメイス閣下の手の者がいるのか? 詳しく調べる必要があるな)
オットーの評価
ミハイル「彼には親子2代苦しめられた。引退したと聞いて、ホッとしたのだがな。ウラディミルですら、手を焼く相手だ。未だに健在とは恐れ入る」
ウラディミル「厄介過ぎる。私が魔王なら大魔王だぞ、あの老人は。しかし、モルト閣下まで出てくるとは。この交渉、一筋縄ではいかんな」
マルコ「モルトの親父と同じ位の化け物だ。あの頃のドラーム帝国は最強だった。あまりに偉大過ぎて、後継者が育たないってのも問題なんだがな」




