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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第5章 諸悪の根源の死とドラーム帝国との停戦
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第76話 外交という名の戦い

停戦交渉の開始。外交もまた戦争です。

「ドラーム帝国側としては、ノルディンの西半分とボルガ諸島の割譲。それに伴い、ボルガ諸島周辺海域を領海とする事を求めます。また、当方の跳ね上がりが招いたロマルク皇帝暗殺未遂に関しましては、関係者の処罰と賠償金として1000万マルスを賠償する次第です」


オットーの語る条件案に、ロマルク側はいきり立つ。何故なら、ボルガ諸島はドラーム帝国とノルディンの中間に位置する島々だ。バレット海を制し、大海洋に討って出ようと考えるロマルクの戦略に蓋をする魂胆が見え見えである。


「ビルメイス閣下。ボルガ諸島の領有権は、棚上げと言う事でいかがですか? 停戦交渉がまとまりかねず、事態が長期化する懸念がありますぞ」


「だから何でしょう、宰相殿? この条件が飲めぬとあらば、戦うまでです。我らも苦しいが貴殿方も苦しいはずだ。ウクレールにおける麦の凶作、オルレナの騒乱。そして、お膝元のポリタニアでも民に不満が広がっていると聞きます。儂の友人が教えてくれましたよ」


ロマルク側の人々は苦い顔で、オットーを睨む。彼の指摘は事実だからだ。国民も長引く戦争に疲弊し、徴兵による働き手不足による農業生産力の低下している。ロマルク帝国に最早継戦能力は無い。それを見越したオットーの交渉は強気だった。


「ビルメイス閣下。継戦能力が無いのは、そちらも変わらないのではありませんか? 私達の調査では、軍港キームで海兵らによる反乱が起きています。社会主義者や共産主義者に煽動され、国民によるデモも多発。このままでは、イダルデ王国の二の舞になりますが?」


ウラディミルも負けてはいない。ドラーム帝国も苦しいのだ。皇帝の親政に反発する国民や軍人達の声は大きい。下手をすれば、帝政が倒れる危険性がある。それでもビルメイスはボルガ諸島を譲る気は無い。領有を許せば、将来に禍根を残すからだ。


「レノスキー少将の意見も最もです。ですが、国民の事よりも国家を優先するのが私の信条でしてね。ボルガ諸島をロマルク帝国に奪われる。それはドラーム帝国に於いて、死活問題なのです。バレット海から先、デルラントへと繋がる海峡。その中央に位置している島々を取られれば‥‥」


「今まではノルディンが同盟していたから、商船や軍艦等は通航出来た。デルラントは中立国。そこを抜ければ大海洋はすぐですものね。ボルガ諸島を取られるとドラーム帝国は、大海洋に出れる航路を完全に失う。貿易や海外の植民地への輸送と連絡、海軍の活動範囲の制限等のデメリットが多い。さぞ、商人や海軍は不安に思っているでしょうね」


ノルディン元女王たるアレサが、オットーの言いたい事をいってしまう。同盟会議の混乱の中で、ノルディン離脱が宣言された時、最も衝撃を受けたのはドラーム帝国だ。アレサが同盟破棄を宣言し、エゲレースとフラメアと3国同盟を結んだ。それはドラーム帝国にとって、海を失ったに等しい。ノルディン内乱に加担したのも、アレサ暗殺がすんなり許可が下りたのも恐怖の現れからだ。


「‥‥アレサ様。貴女が同盟離脱という決断をしなければ、ノルディンは滅ぶ事は無かった。ドラーム帝国もここまで追い詰められなかったのですがな」


モルトは、アレサの仕掛けた外交戦略に苦言を呈する。だが、アレサはそれを冷笑で返した。ノルディンには、ノルディンの事情があったからだ。


「あら、モルト閣下。私は、同盟という名の奴隷に国民を縛り付けたく無かったのです。最後は国家が滅亡し、東西に分裂してしまいましたが、逆に良かったかも知れません。ノルディンの西半分はドラーム帝国派で、東半分はロマルク帝国派。民族も宗教も違って、同じなのは言語だけという国内状況でしたから。今の状態になって、旧ノルディン国民はホッとしていると聞きます。為政者としては忸怩たる思いですけどね」


ノルディン連合王国は、元々東のノルサン王国と西のサーディン王国の2王国が、王子と王女の婚姻を機に連合王国として成立した。近隣のドラーム帝国とロマルク帝国、エゲレース王国等の大国に対抗する為だ。しかし、連合王国内では旧ノルサン派と旧サーディン派の対立が常に勃発。歴代国王も対応に苦慮していた経緯がある。アレサも何度も調停に駆り出された物だ。


「余もノルディン連合王国への対応に苦慮していたからな。国王や宰相が変わると外交政策が変わってしまう。味方になったり、敵になったりで、下手な中立国よりも怖い。アレサとであれば、良い関係が築けると思ったら、バロル大公の反乱。しかも、ドラーム帝国は介入したあげく、大公に裏切られる始末。貴国は何をしているのだと言いたくもあるが?」


「‥‥それについては何も反論出来ませんな。ルーデンドーフを始め、皇帝陛下も詰めが甘すぎました。あげく、ヒューレンフェルト大尉の暴走を招く結果に儂らも憤慨したものです。その点については我々の落ち度です。謝罪しましょう」


深々と一礼するオットー。ロマルク帝国側の人々は交渉に有利になったとほくそ笑む。だが、ミハイルとウラディミル。アレサやレオナルドは嫌な予感がしていた。あえて、不利な事をしたオットーの思惑が分からなかったからだ。彼は負ける戦いはしない主義である。当然、応手を準備していた。


「さて、こちらは謝罪しました。それでは、ノルディンとロマルク側の謝罪も願います。同盟に反する戦闘行為の偽装、和平への裏交渉の実施。そして、アレサ=デュレールのロマルク士官学校への入学についてね。ご説明を願いましょう、ミハイル陛下、アレサ元女王陛下」





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