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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第5章 諸悪の根源の死とドラーム帝国との停戦
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第75話 停戦の使者

藪をつついたらドラゴンが出てきました。しかも、2匹。

軍港ベルンの本営にドラーム帝国の使者がやって来たのは、アドルフの奇襲から1週間経っての事である。当初、ミハイルや軍上層部はリノア=ローゼンハイム辺りが大使として送られてくると予想していた。故に2、3日で使者が来ると思っていたが、まるで来ない。


まだ継戦する意志があるのかとロマルク側が考えていたが、やって来た2人を見て度肝を抜かれる。オットー=フォン=ビルメイス元宰相とヴィルヘルム=フォン=モルト元陸軍大将だったからだ。ドラーム帝国政武の双璧と謳われ、多くの人々に畏怖の念を抱かれた男達の登場に、ロマルクの政治家や軍人達は見事に萎縮してしまう。


(むう、よりにもよって彼らが出て来たか。余も何度と無く煮え湯を飲まされた事やら。歴戦の強者は未だ健在だな)


引退した2人を相手に、あっさりと気圧される臣下を不甲斐なく思いつつ、ミハイルは率先して彼らを出迎える。


「久しぶりだな、ビルメイス元宰相、モルト元陸軍大将。まさか、貴殿方が来るとは思いもしませんでしたよ」


「儂も出張りたくは無かったが、やむを得ません。何分、当方の皇帝が頼り無いので。ミハイル陛下がドラーム帝国の跡継ぎならと何度思った事か。今回の交渉は厄介ですが、そう簡単に折れはしませんぞ、ミハイル8世陛下」


オットーは先帝の時代、数多の権謀術数を使いこなしドラーム帝国を強国になし得た大人物である。軍備を拡張しつつ、フラメア共和国やロマルク帝国と互角に渡り合う戦略家。ノルディン連合王国やイダルデ王国、トルド帝国との反ロマルク同盟の結成。エゲレースとの不可侵条約締結等を成功した外交手腕。


国民皆保険や憲法を制定し、普通選挙を実施。貴族の反対を押し切り、議会制度を作り上げた名政治家なのだ。ミハイルにとって、絶対に相手をしたくない筆頭の人物である。


「ふう、我がドラーム帝国陸軍が情けないにも程がありましてね。こんな老骨でも出張らにゃならんのですよ。ルーテンドーフの阿呆め、ヒューレンフェルトの青二才に乗せられ大失態。奴は更迭確定だ!」


モルトは陸軍大将にまで昇進した名将である。フラメア共和国との戦争では、1個師団と共に国境より長駆遠征。国境で両軍が戦う中で、フラメアの首都であるパレントを奇襲で落とす。これに、慌てたフラメア政府は降伏。長年紛争の火種となっていたアルデン、ロアーヌ地方の割譲と1000万マルスの賠償金を手にした。


ロマルク帝国との戦争では、ドラーム帝国内に侵攻してきた先代皇弟ユスポフ公の軍団と決戦。当時、最先端とされた戦車を活用し、旧式の兵装しか持たないロマルク帝国軍を粉砕。ユスポフ公を敗死させ、捕虜2万人を得た。従軍してたプレディルやアレクサンドル、ウラディミル等の将官が、2度と戦いたくないと言わしめる程の伝説の英雄である。


「落ち着け、ヴィルヘルムよ。儂らは停戦の使者として来たのだ。口調と振る舞いに気を付けろ。さて、皇帝陛下。参りましょうか? 話すべき議題は多いですからな」


「‥‥オットー。儂が大人しく飾り人形になれると思っとるのか? 言うべき事は言わせてもらうぞ。例えば、ノルディンの西半分と‥‥」


交渉の内容を言おうとするヴィルヘルムに、オットーは激しく叱責する。


「交渉前に、カードを明かす馬鹿が何処におる!! 陛下、参りましょうぞ。これ以上、こやつを止められませぬゆえ」


「う、うむ。ビルメイスも大変なのだな」


こうして、3人は停戦交渉の会場へと入る。ロマルク側には、ウラディミルと宰相であるバルーニン=ボルチコフ。アレクセイとアレサに加え、2人の後ろにレオナルドとエルザも護衛として入っていた。皇太子ボリスは娼館に入り浸っていたのがばれて、目下謹慎中であった。


ドラーム帝国側には、オットーとヴィルヘルム。補佐役として、リノア=フォン=ローゼンハイム。護衛部隊の隊長がベルントなのは、彼女の要望とヴィルヘルムの命令があった。


「イェーガー大佐から聞いている。運が強い男だとな。その運を儂らにくれや」


「は、はい! 微力ながら力をお貸し致します。モルト閣下!!」


突然、部隊にやって来た伝説の男に請われ、ベルントは震えながらも部下と共に護衛の任務に着く事を了承した。なお、この時点で彼は中尉に昇進している。


「あれがビルメイス、モルト両閣下か。第1次エウロパ大戦の英雄ともなれば、交渉はかなり手強そうだな」


「レオ君。2人には私も何度かお会いしたけれど、超一流の政治家と軍人だわ。彼らからしてみれば、私なんてただの小娘にすぎないわよ」


「兵士としては上でも他の事ではまるで敵わない。私もまだまだ経験が足りないみたい」


レオナルド、アレサ、エルザが2人に感心する中で、アレクセイは1人思う。


(引退した彼らを出す。どうやら、ドラーム帝国に2人に匹敵する人材はいないようだな。油断は禁物だが、相手にするのは楽になるか? いかん、いかん。まずは目の前の事に集中するとしよう)








次回、停戦交渉の開始です

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