表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第1章 左遷からの復活
8/96

第7話 大佐無惨

デミトリに従うのは、貴族出身の将兵が多いようだ。彼らは必死の形相で銃を向けている。デミトリが失脚すれば、自分達も罪に問われるのだから当然であった。


「こ、ここで捕まったら私の人生は終わる。何とかせねば‥‥」


「なあに、相手は少数だ。俺達の敵ではないさ」


「し、しかしスタンコ軍曹がいるぞ。俺はこんな所で死ぬのは嫌だ!」


見事に自分の事しか考えていない連中を見て、レオナルド達は呆れていた。だが、全員がそうではない。


「お、俺達はどうなるんだ? 甘い汁吸ってたのは上層部だけだぜ?」


「でもよ、俺達も隠蔽工作に関わってるんだ。罪に問われるなら、いっそ‥‥」


「おい、やけになるな! 貴族どもの尻拭いは‥‥嫌だぜ」


対して平民出身の兵は、罪悪感や恐怖で震えていた。銃を構えてはいるが、うつむき身動きもしない者がほとんどだ。彼らは手足として酷使されていたと影の騎士からの報告があがっていた。レオナルドとしても、彼らは出来る事なら助けたい。


「照明弾一発で何が出来る? 貴様らの味方は、この基地におらぬわ!」


「味方はいますよ。ブレディエフ大佐、くれぐれも死なないで下さいね。あの方のお怒りは半端ありませんので」


「一体、誰の‥‥」


レオナルドの言葉に、戸惑うデミトリ。だが、しばらくして周りから悲鳴、怒号に発砲音まで聞こえて来た。どうやら、騒動の原因は物資集積所へと近づいて来ているようだ。


デミトリ指揮下の兵達も不安と恐怖を感じ始めた時、それは現れた。血まみれの人間を左手に抱え、逃げてきた将校を足で踏みにじって。


「ぶ、ブレディエフ大佐お逃げを‥‥ぐふっ!」


「ふん、逃げ足の早い奴め。とはいえ、ようやくたどり着いたわい。で? 物資をちょろまかした馬鹿たれは、どいつじゃ? 早く答えい!! 10秒以内に答えなければ、こいつと同じく全員人間サンドバックじゃあ! 10、9‥‥」


「ひっ! ぶ、ブレディエフ大佐が黒幕でありますう!! 皆、武器を置け。殺されるぞおお!!」


乱入者の怒髪天をつく恐るべき状態を見て、大佐の副官が素早く降伏。それを見た部下達は即座に決断した。全員が大佐を指差し、銃を捨て後頭部で両手を重ねて座り込む。誰がどう見ても、全面降伏の構えである。突然の形勢逆転にデミトリの顔は青ざめた。


「大佐、何ともしまらぬ最後でしたね。部下全員に裏切られるとは情けないにも程がありますぞ」


「黙れ、フォンターナ特務大尉! ちょっと待て、貴様ら。今まで散々俺と一緒に良い思いしただろうが。この裏切‥‥」


「ほほう、基地指令自ら横領とは恐れ入るのう。ブレディエフ大佐、言い分を詳しく聞こうではないか?」


肩を強くつかまれ、デミトリは首を恐る恐る向けた。そこには怒れる悪魔がいる。よく見れば、悪魔が左手に抱えているのは共犯たる基地副司令だ。生死は定かでは無いが、全身血まみれで気絶している。軍人として、いや人として再起不能なのは間違いない。


総身汗だくの大佐は、震えながらも弁明を行う。戦鬼と恐れられるアレクサンドル=レーム少将に対して。


「はっはっは。な、何をおっしゃいます、レーム少将閣下。わ、私はブレディエフ公爵家の次男ですぞ。と、盗賊まがいの事をする訳がありません」


「副司令以下、全員が自供しておるのだがな。2年前から横流しをしている。司令が率先して始めたとのう。これでもまだしらをきるつもりか、小僧?」


「そ、それは‥‥」


このままだと副司令達と同じ目にあう。そう考えたデミトリは、周りを必死に見渡す。恐怖と焦燥にかられた視線の先に、デミトリはある物を発見する。三十六計逃げるに如かず。


「‥‥私は捕まらん! 捕まってたまるかああ!」


「ほう、活きが良い獲物じゃな。どれ、追いかけっこと洒落こむかの」


突然、レーム少将の手を振り払い、全力で走り出すデミトリ。追いかけるアレクサンドル。彼の走る先には車があり、窮地を脱出せんと必死に走る。


だが、彼の体は鈍重過ぎた。逃げ出すと同時に2発の銃弾が両足に命中。支えを失った巨体が、もんどりうって倒れこむ。デミトリは地面を這ってでも進もうとしたが、更に3発の銃弾が彼の周辺に着弾する。撃ったのはエルザであり、デミトリは逃げ切れる訳がなかった。


「ぐおおお。い、痛いーー! わ、私の足がああ!!」


「‥‥鹿を狙うよりも狙い易すぎる。醜い豚め、止めをさします。さよなら、ブレディエフ大佐」


エルザは、デミトリの心臓を撃ち抜かんと拳銃の引き金を引こうとした。それに気付いたレオナルドとアレクサンドルは、拳銃を手で抑え込み、エルザを止める。


「「ちょっと待て。生かしとかないと駄目だ(じゃ)!」


「えーー、なんでですかあ? ‥‥分かりました。銃をしまいますから、そんな怖い顔をしないで下さい」


不満に思いながらも、エルザは中折れ式の拳銃から弾を抜き、新たに装填した上でホルスターにしまう。こうして、大佐の甘い夢は打ち砕かれた。トラウマになる位の恐怖を刻まれて。











大佐の受難はまだ続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ