第63話 女傑会合
レオナルドの3女傑と謳われる妻達の勢揃いです。アレサの政治力と人脈。サーラの技術力と経済界への影響力。そして、エルザの武力と諜報。
正直、3人はレオナルド以上の才覚があります。
「初めまして、アレサ様。僕は、サーラ=ルイシコフ中尉と申します。レオナルド様の婚約者です」
サーラとアレサも握手を交わす。表面上は穏やかだが、レオナルドは何が起こるか気が気ではない。
「アレサ=デュレールです。貴方がルイシコフ重工業の令嬢なのですね。士官学校時代に貴社の銃を使っていました。使い勝手の良い物でしたわ。ノルディンで採用出来ないか、皆に意見を聞いた事があるわね」
訓練や模擬戦で使った銃は性能が良く、壊れ難かった。ノルディン連合王国が使う銃と比べると雲泥の差がある。何せ、ドラーム帝国の旧式銃を軍をあげて使わせられていたからだ。新式銃の登場で行き場を失った銃を、大量にノルディンへと売り渡したドラーム帝国。アレサは、そんな祖国の現状を大いに嘆いた事を思い出していた。
「‥‥ありがとうございます。恋敵に褒められても、反応に困りますね。アレサ様、僕が聞きたいのはレオナルド様をどう思っているのかです。好意を抱いての求婚なのか。あるいは別の理由があるのか」
「敬称は不要。エルザ、サーラと呼ばせてもらうわ。私もアレサと呼んで良いわよ。レオ君に対しては純粋な好意だけね。政略的な結婚なんて、私はごめんだわ。士官学校で出会った頃から、彼の事が好きよ」
頬を少し赤らめながら、輝くような笑顔で言い切るアレサ。その様子を見たエルザは決断を下す。
「嘘はついていないようですね。アレサ、私達は貴女をレオの妻として認めます。調べれば調べる程に、貴女を敵に回したくない。政戦両面で有能な上に、情け容赦ない謀略を駆使する相手ですから」
エルザは死神の鷹の仲間に指示し、アレサの身辺調査を行っていた。レオナルドに相応しい女性なのか。そして、自分達と共存出来るかだ。前者は問題無し。ただ敵にするには、かなりリスクを伴う女性だと分かった。報告を受けたエルザはすぐにサーラと話し合い、彼女を受け入れる事を決める。
「誉めてくれて、ありがとう。政治をするには善人じゃ駄目なのよ。そんな奴らは、あっという間に老練な餓狼に喰われるわ。重要なのは、自分の信念を貫く為に清濁合わせ持つ事ね。私が命令した事で、多くの人間を生かしもしたし、殺しもした。でも、私は後悔しないわ。流した血を忘れはしないけれど、その時は必要だと思ったから」
「‥‥うわぁ、本物の政治家だ。皇帝陛下が認めるだけはありますね。はあ、これで僕は第2夫人確定だなぁ。元女王たるアレサを差し置いて、第1夫人になる訳にはいかないからね」
サーラは少し残念そうに呟く。たが、エルザはまるで意に介していなかった。
「私は3番目か。まあ、良いけどね。私が1番レオと夜を共にしてるし。彼に対する愛情なら2人には負けない」
エルザの発言に、アレサとサーラは顔を真っ赤にする。アレサは未だに経験は無い。サーラは、と言えば‥‥。
「うぅ、最近ようやくレオナルド様に抱いてもらったからなあ。アレサも抱いてもらう? その間、僕達は2人で楽しんでるから」
サーラはそう言ってエルザに抱きつく。抱きつかれた彼女も満更でもない顔で、サーラを抱き寄せるや唇を奪う。口の中に舌まで入れる激しいキスに、サーラは頬を赤らめながらも舌で応える。
「‥‥貴女達って、そういう関係なの?」
2人の関係に気付いたアレサは驚きを隠せない。士官学校時代にそういった関係の生徒を見た事があるが、関係がばれないようにひた隠していた。こうも堂々とした同性のカップルを見るのは初めてだ。レオナルドは頭をかきながら、ため息をつく。表情を見るに諦めの境地だ。
「いつの間にやら、こうなっててね。レノスキー少将が密かにサーラを間諜に仕立てていたらしい。それに気付いたエルザは、あの手この手でサーラを僕にしてしまった。私よりもエルザとの逢瀬が多いだろうな」
「僕にとって、エルザ様が1番だよ。でも、同じ位レオナルド様の事も好きだから。なんだったら、アレサもエルザ様に抱かれてみる? 2度と離れられなくなるけど」
サーラの誘いにアレサは首を横に振る。同性と付き合いたいとは思わないからだ。何より、自分が体を預けるのは1人と決めている。
「遠慮するわ。私はレオ君以外に抱かれる気は無いから。ところで、そこのドラーム軍人と魔法使いに皇子殿下。盗み聞きも大概になさいな。馬に蹴られて死にたいかしら?」
アレサの呆れた声を聞き、トラックの影に隠れていた3人が姿を現す。アレクセイは人の悪い笑みを浮かべ、リースは興味津々の様子。オイゲンに至っては、申し訳無さそうな顔で手を合わせている。
「アレサ殿、仕方があるまい。貴女達は我が国にとって重要人物なのだからな。しかし、とんでもない面々だ。妻が元女王陛下に天才技術者と神兵なのだからな。フォンターナ中佐、くれぐれも夫婦喧嘩はするなよ。あと女性3人も派手な喧嘩はご法度だ。帝都にも被害が出る可能性があるからな。エウロパの火薬庫と言われるバルケニア半島並みに怖いわ!」
特に被害を拡大しそうなエルザを見て言うと、彼女は目を逸らす。もっとも、アレクセイは他の2人も警戒してる。サーラは最新兵器を実家から持ち出す危険があるし、アレサは何らかの謀略を仕掛けかねない。また、彼女に忠誠を誓う者達が動く可能性もある。
「フォンターナ中佐には女難の相がある。かなり悪いんだけど、エルザ達のお陰で救われてる。くれぐれも仲良くして下さいね。‥‥3人をまとめるのに、かなり苦労する貴方が目に見えますけど」
リースの言葉に、レオナルドは何と言っていいか分からない様子だ。女性運の悪さは、モニカの死やイザベッラの執拗な粘着、士官学校時代の下級貴族や軍人の娘と親による婚約攻勢(押し売り)。そして、王族と分かってからの娘を妾にとの上級貴族のお願い(脅迫)と枚挙に暇が無い。それらを物理的に排除したのはサーラとエルザだ。エルザは自分自身や死神の鷹の力で。サーラは実家の豊富な人脈と資金を利用してである。こうして、彼女達を敵に回すのを恐れた貴族達が引いていった
「2人が、どうしても聞きたいと言うのでな。ベルント君もフォンターナ中佐もよく体が持つな。しかも妻2人は同性のカップルで、それを知っても受け入れるとは。存外大器だな、君は」
「仕方がありませんよ。エルザとサーラには随分助けてもらいましたから。アレサにもいずれ助けられるでしょう。ですが、私も女性に助けられてばかりなのは嫌ですからな。彼女達を守り、頼りになる男にならねばと奮起していますよ」




