第61話 魔法使いとの邂逅
更新遅れました。レオナルド達とリースの出会い。この出会いが歴史書に載る程の出来事になります。
レオナルド達がアレサ達と合流したのは、リースが来て2時間後の事であった。到着した彼らが見たのはオイゲンと少女を遠巻きにして囲むシャイアとユリアの部隊。何故か、部隊の軍人達が怯えている。
「ユリア、どうしたの? ロック達も震えているんだけど」
「えーーと、エルザ姉さん。落ち着いて聞いてくれる? リースが生きていたの。それだけじゃなくて、あの子魔法使いだったのよ!! 狂人ローゼンハイム侯爵が見たら、喜びのあまり地獄に落ちるかもしれないわ」
ユリアの言葉は部隊の全員に伝わった。だが、次の瞬間には辺りに笑いが広がる。彼女の話を信じていないのは明白だった。
「おいおい、ユリア。魔法使いなんて大昔に滅んだろ。そんなの存在する訳が無い」
「ヤルステイン大尉の言う通りですな。今の世に魔法など非科学的です」
「本当に魔法使いなのか? 何らかのトリックを使用してる可能性が考えられるな」
ボルフとグレゴール、レナニートは否定的な言葉を述べる。だがエルザとレオナルド、アレクセイの3人は違う。ユリアにリースの所へすぐに向かうと答えた。驚く部下達に、レオナルドが告げる。
「ユリア=スタンコはガスパー=スタンコの影だ。情報の正確性を重視する彼女達が嘘をつく訳がない。現に味方の兵士達が怯えているからな。リースという娘が、魔法使いなのは間違い無いのだろう。ユリア、案内を頼む」
「了解したわ。いざとなったらエルザ姉さん、よろしくね」
「任された。魔法を使う前にリースを仕留める」
殺る気満々なエルザを見て、アレクセイは焦る。リースが魔法使いならば、ロマルク帝国に引き込みたい。そして、自分の陣営に加えたいと考えていたからだ。歴史書を見ると魔法使いの活躍は凄まじい。魔法で10000近くの兵を蹂躙した。王の護衛として仕え、数多くの暗殺者を返り討ちにする。各地の情報を正確かつ素早く主君に伝え、治世に大きく貢献した等々の業績を鑑みれば、魔法使いは為政者にとって囲うにたる人材なのだ。
「スタンコ少尉、まずは話し合おうか。決裂してからでも殺すのは遅くない」
「アレクセイ殿下、了解です。自分の陣営の強化に、魔法使いを加えるのは大きいですからね。ただし、妙な素振りをしたら速攻で倒します。よろしいですね?」
エルザの答えにうなずくアレクセイ。こうしてユリアの案内でレオナルド、アレクセイ、エルザがリース達の所へ向かう事になった。しばらく行くとオイゲンとリースが楽しそうに会話している。リースはレオナルド達に気付くと彼らの方に振り向いて挨拶を交わす。
「アレクセイ皇子殿下、フォンターナ中佐ですね。私はリース=エルラインと申します。職業は魔法使いですね。早速ですが、オイゲン様を解放してください。代わりにバロル大公とドラーム帝国の情報をお知らせしますので」
「アレクセイ=イヴァ=ロマルクだ。君が魔法使いの少女か。しかし、バロル大公は良いとしてもドラーム帝国の情報は漏らして構わないのかな。君の恋人たるイェーガー大佐は、ドラーム帝国軍所属だが?」
下手をすれば敵に対する利敵行為で処罰されかねない。だが、リースはまるで動じない。自信を持ってこう答える。
「構いません。仮にそうなっても私がオイゲン様を助けますから。それにドラーム帝国軍には、私が大嫌いなアドルフがいますしね。彼の野望を砕き、エウロパ大陸をまたにかける英雄にオイゲン様をしてあげたい。それが私の望みの1つです」
輝く笑顔を見せながら壮大な野望を口にするリースに、オイゲンはため息をついていた。そこまでの大人物になりたいとは思っていないからだ。エルザは同情の視線をオイゲンに向けるもすぐにリースへ問い掛ける。
「‥‥リース。貴女は魔法が使えると聞いた。是非いくつか見せて欲しい」
「いいわよ、エルザ。まずはこれでどうかしら? 空に浮かべ!」
そう言ってリースは杖を振るい、レオナルドに魔法を使う。いきなり体が地面を離れ、空に浮かび上がったレオナルドは慌てふためく。
「うわっ、体が浮いてる! どういう魔法何だ、これは?」
「フォンターナ中佐、今貴方にかけたのは浮遊の魔法です。すぐに降ろしますね。地に降り立て!」
レオナルドの体が再び地面に戻る。ほっとするレオナルドを尻目に、リースはエルザに頼み事をした。
「次は盾の魔法を使いましょうか。エルザ、持っている拳銃で私を撃ってみて」
「大丈夫? フォンターナ中佐を浮かべるのを見れば、リースが魔法が使えるのは分かったけれど」
エルザはホルスターから拳銃を抜くや、早打ちの要領で6発全て撃ち放つ。銃弾がリースの体を目掛けて襲いかかるも、全て見えない壁に遮られたかのように空中で止まってしまう。リースが杖を振ると銃弾は地面に力無く落ちていった。その光景を見て将兵達が畏怖の念を抱き、リースから離れようと走り出す。そんな中でアレサは、冷静にリースの魔法を観察していた。
「凄いわね。至近距離からの銃弾が貫通しないなんて。魔法使いの力は現代でも通用する訳か。リースさんは、エルザさんに負けるとも劣らない存在ね」
アレサからエルザと同等と評価され、嬉しそうに笑みを浮かべるリース。神兵の最高傑作と謳われたエルザに並んだのだ。もう最低の神兵という評価に苛まれなくていい。リースは笑顔をすぐに消し、真面目な顔で交渉を始める。
「私は他にも多くの魔法を使えます。特に、攻撃魔法もね。オイゲン様を解放してください。さもないと貴方達を殺してでも‥‥」
杖に燃え盛る紅蓮の炎を纏わせ、レオナルドとアレクセイに近付くリース。レオナルドは彼女の本気を悟り、焦りながらも考えを巡らす。そして、1つの結論を導き出した。
「分かった。ただし条件がある。ノルディン内乱の鎮圧にリース、君の力を貸して欲しい。報酬は前金で20000ルーブル、終了後にもう20000ルーブル出そう。何をするにしても、先立つ物は必要だろう?」
「私を雇うの? 合計40000ルーブルか。悪く無い提案ですね。でも、もう少し色を付けて欲しい。まずはオイゲン様の自由行動を認める事。それとロマルク国籍をオイゲン様と私に取得させて。以上2つの条件を認めて下されば、雇われても良いですよ」
レオナルドがアレクセイを見ると彼は頷いて見せた。
「条件を全て認めよう、リース殿。ただ、早く炎を消した方が良い。エルザが本気で君を狙っているから」
リースによる交渉後のオイゲン
オイゲン「俺、存在感無かったな。一応、当事者何だが」
アレサ「リースさんの方が、貴方より凄いものね。イェーガー大佐、確実に尻に敷かれるわよ」
エルザ「命救われた上に、お金や国籍までレオ達に約束させた。文句を言える状況じゃない」
オイゲン「分かってますよ。彼女には感謝してます。‥‥これからもリースを守らねえとな。利用しようとする馬鹿が数多く出てくるだろうし」




