第60話 失われたはずの術
ようやく続きを投稿です。仕事や引っ越しの為、忙しく投稿出来ませんでした。
その頃アレサ率いる一団は、シャイア率いる影の騎士部隊と接触。さらにロック達やユリアの部隊とも合流した。
「アレサ女王陛下。シャイア=コースキー少佐であります。早速ですが、軍港まで移動を始めます。敵は撤退したとはいえ、陛下の身柄は確保したいはずですから」
レオナルドとブラックジャックで対決したシャイア。彼女は影の騎士の1人であり、歓楽街である人物の監視を行っていた。皇太子ボリス。娼館やカジノの常連たる彼を影で護衛していたが、ノルディンにボリスが大使として向かう事に。シャイアも護衛の任に付いていたが、ボリスが娼館に入り浸たった事で任務中止。現在は、アレサの護衛任務を命じられている。
「分かりました。コースキー少佐、お願いします。皆様には感謝の言葉しかありません。ありがとう」
深々と一礼するアレサに、シャイア以下全員が驚いた。王族が頭を下げる等、滅多に無いからだ。皆が慌てる中で、落ち着き払った様子のロックが代表してアレサに答える。
「陛下、気にしないで下さい。エルザ嬢ちゃんだけじゃなく、貴女を助けたいと言う大物は多かった。皇帝陛下を始め、ゴルバ大将閣下やレノスキー少将閣下。マルコ=フォンターナに、陛下の想い人たるフォンターナ中佐もね」
レオナルドの名前が出て少し顔をしかめるシャイア。得意のカードゲームで負けたのが、かなり悔しいようだ。ユリアは、そんな彼女に同情しながらもアレサと挨拶を交わす
「まあ、エルザが認めるなら仕方がないですね。アレサ女王陛下。死神の鷹の隊長をしているユリア=スタンコと申します。くれぐれもフォンターナ中佐を独占しないで下さいね。エルザを怒らせたら後が怖いですよ」
ユリアの忠告に苦笑を浮かべるアレサ。そんな危険は絶対に冒したくはない。早い段階で彼女と話し合いをしようとアレサは心に決める。
「‥‥今言われた方々には、お礼を言わなければなりませんわね。あと、ユリアさん。私はそこまで愚かな女ではありません。エルザさんとサーラさんには、私から話をするつもりですから」
アレサの言葉を聞いて、畏敬の念を抱くロマルク軍人達。エルザとサーラの恐ろしさをよく知る彼らにとって、アレサはまさしく魔王に挑む勇者に見えた。
「フォンターナ中佐は、良い人材と良縁に恵まれたようだな。アレサ女王陛下。前途はかなり多難でしょうが、お幸せに。フォンターナ中佐は敵ながら良い男ですよ」
「イェーガー大佐、ありがとう。そう言う貴方には、大切な女性はいるのかしら?貴方の女性関係の噂って聞いた事ないのよね」
「ええ、私にも思いを抱く女性がいましてね。ですが、かれこれ10年近く会っていません。生きていれば18歳くらいでしょうな」
そこまで言ったオイゲンは、突然妙な違和感を覚えた。周囲を見れば、影の騎士や死神の鷹の将兵が次々と倒れていく。何とも無かったのはアレサとユリアの2人だけで、後は全員眠っていた。
「ロック、プリム、ローズにシェル!? 駄目ね、寝てるわ。急にどうしたのよ」
ユリアは部下達を叩き起こそうとするも、全く起きる気配が無い。アレサもマルク達近衛兵の側に向かい、寝ている彼らの体を揺さぶるも起きなかった。
「マルク達も寝てますね。どういう事なのかしら?」
「アレサ様。こうでもしないと落ち着いて話が出来ないからです」
そう言って、空から黒いローブを着た少女が舞い降りる。銀髪金瞳の少女が持つ杖の先端から、白い光が輝きを放っていた。どうやら、これが皆を眠らせた原因らしい。
「貴方は何者なの? そして、この状況は一体」
「申し遅れました、私はリース=エルラインと申します。他の人達は眠ってもらっているだけです。どうか、ご安心を」
彼女の名を聞いてユリアは驚く。こんな所で昔の仲間と出会うとは、思ってもみなかったからだ。それより、何よりも軍を無力化した彼女の力の正体が気になる。
「リースですって!? 貴方のその力は何なの。昔は何の力も持っていなかったじゃない」
ユリアを見たリースは、冷ややかな眼差しを彼女にむける。かつてを知る仲間で、いじめられていた相手なのだから当然とも言える。
「久しぶりね、ユリア。そう、昔の私は何も持っていなかった。皆からは無能のリースなんて言われてたものね。でも、それは過去の話。私はある力を手に入れた。魔法という力を」
魔法という言葉にユリアとアレサは絶句する。古き時代に姿を消し、伝説とも言われた魔法使い。失われたはずの存在が、今まさに目の前にいるのだ。驚かない方が無理である。
「リースさん。貴女はその力を使って、何をしにここへ来たのかしら? 私を捕らえる、あるいは殺すつもりなの」
「アレサ様に危害を加えるつもりはありません。私がここへ来た理由は、そちらにいるオイゲン=イェーガー大佐を守る為です。私の命の恩人で、愛する男性なのですから。オイゲン様、私‥‥」
「リース、ようやく会えたな」
リースは涙を流しながら、彼に抱き付いた。ようやく会えた想い人を優しく抱き止め、オイゲンは万感の思いで頷く。
「オイゲン様、会えて嬉しい。もう、私の事なんて忘れてしまったと思ってたから」
「覚えていて当然だろう? 君が生きていてくれて嬉しいよ。あの時、魔法使いの婆さんに連れて行かれるのを黙って見ているしか出来なかったからな。まさか、神兵計画の生き残りとは思わなかったよ」
救った少女が神兵であった事を驚くオイゲン。そんな彼にリースは特大の爆弾をささやく。
「これからは私が守ってあげます。私の力は貴方の思うままに使って下さい。今の私はエルザよりも上ですから」
リースの登場は、世界に大きな影響をもたらします。そして、オイゲンも彼女の存在によって、権力闘争に巻き込まれていく。




