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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第4章 魔法使いの登場とアレクセイ派結成
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第59話 隠せぬ本音

帝国暦1856年5月12日。ボリス皇太子率いる使節団は、ノルディン連合王国最大の軍港ベルンに到着した。だが、ノルディン海軍最高司令官ノルドフェルド元帥から聞いた現在の情勢。これを知ったロマルク帝国の外交官や軍人、政治家らは仰天する。本来行うはずだった、和平締結が夢と消えたのだ。しかし、無線封鎖や電話線の遮断により、情報が軍港ベルンに届いたのは昨日の事。まだ挽回は出来る。すぐさま軍港内に停泊している戦艦イブァンの会議室で、ボリスは作戦会議を招集する。


「ええい、訳が分からん! アレサ女王は姿を消し、宰相のイリオス殿やバロル大公の腹心ローデン准将が相討ちのように死んだ。それが原因で、バロル大公派とアレサ派の内乱激化とは、事態が変わるのが早すぎだ! どうしたら良い? 誰か意見を述べよ」


ボリスは焦っていた。和平の大使としてノルディンに来たはずが、突然戦場の只中に放り出されたのだ。普段は強気な姿勢を貫くボリスだが、実はかなりの臆病である。かつて軍に入隊した際も、後方勤務を積極的に志願しており、その覇気の無さがミハイルを大いに嘆かせた。


「皇太子殿下、意見具申を致します。直ちに本国へ軍の派遣要請を行いましょう。早く動かねば、ドラーム帝国軍に先をこされかねません。何らかの功績をこの地で見せねば、皇帝陛下の失望を買いますぞ」


ボリスの様子を見たポリチフ公バルーニンは、すぐに進言を行う。この有り様をミハイルが知れば、廃太子の可能性が出てきかねない。そうなれば、自分達の地位も危うくなるのだから必死である。彼の言動の裏を知るアレクセイは呆れてしまう。命をかける戦場にまで宮廷闘争を持ち込む事に。


「皇太子殿下。影の騎士は、既にアレサ女王を確保しております。つきましては名代として私が迎えに参りますので、フォンターナ中佐の部隊を動かす許可を頂きたい。皆様はここに留まり、援軍を待っていればよろしいかと」


アレクセイの言葉を聞いて、どよめく一同。アレサの身柄を確保すれば、ノルディン連合王国内の主導権を握れるからだ。ロマルク帝国にとっては大きな収穫である。しかし、弟の進軍許可を求める発言にボリスは苦い表情を浮かべた。


「ぬう、しかしだな。アレクセイとフォンターナ中佐。それでは、貴様らの功績になるだけではないか。ここは皇太子たる私が動く。教えろ、その場所は何処だ?」


臆面も無く、シャイアやロック達の手柄を横取りしようとするボリス。その行動を見たレオナルドは怒りを堪えながらも、ある事実をボリスに突き付けた。


「‥‥恐れながら申し上げます。かの地には、アドルフ=ヒューレンフェルト大尉を筆頭とする神兵の部隊が展開している模様です。その数はまだ把握していませんが、強敵である事は間違いございません。皇太子殿下、彼らと戦う覚悟はあるのでしょうか?」


神兵と言う言葉を聞き、ボリスは恐怖する。腹ペコ死神と呼ばれるエルザと同等クラスの実力を持つ兵士達。そんな化物達と対峙する事は、実戦経験が乏しいボリスにとって、死に直結する。


「い、いや。やはり、うむ。総大将たる私が軽々しく動くのは良くないか。アレクセイ、フォンターナ中佐。気を付けて行くのだぞ」


あっさり前言撤回をするボリスを見て、ポリチフ公以下はため息をつく。確かに、ここで皇太子に死なれては困る。だが、アレクセイらに対して、もう少し言い様があるだろうと全員が感じていた。図らずも同じ事を全員が叫ぶ。


「「「「皇太子殿下! そこは、簡単に折れてはいけない場面ですぞおお!!」」」」


「いや、俺はまだ死にたくないぞ。ハイリスクでローリターンの案件に首を突っ込んでどうする?」


「「「「あっさり、本音を出しすぎです! 建前や腹芸を覚えて下さい!!」」」」


覇気なき皇太子と矯正したい家臣一同。そんな彼らをよそに、レオナルドはアレクセイに近付くと頭を下げる。アレサを助けるよう皇帝に働きかけたのは、彼だったからだ。


「アレクセイ殿下。ありがとうございます。アレサとは戦友にして、親友の間柄。何としても助けたかったのです」


「気にするな、フォンターナ中佐。私もアレサ=デュレールを見たいだけだ。かなりの美人で才女と聞く。嫁にするなら最高だろう。まあ、俺はお呼びじゃないようだがな。君が羨ましいものだよ」


「は、はあ」


そう言って、アレクセイはレオナルドから離れる。サーラとエルザに話を聞くために。彼女達はそれぞれ技術者と護衛の立場で、会議に参加していた。彼女達に近付くと2人にしか聞こえない声でささやく。


「フォンターナ中佐は気付いてないが、アレサ=デュレールは彼を狙っている。恋敵たる彼女を助けるべく、死神の鷹を半分以上ノルディンに派遣するとはな。スタンコ少尉、本当に良いのか?」


「うーーん、本当は嫌です。ですが、私達は女王陛下を受け入れる事にしました。彼女がレオナルドの側にいれば、サーラを操っていたレノスキー少将を牽制出来ますしね。そうでしょう、サーラ?」


エルザはサーラに尋ねる。サーラはエルザをしばらく見つめてから、アレクセイに答えた。その表情には、マイナスの感情は一切見られない。


「はい、エルザ様のおっしゃる通りです。僕もアレサ様を歓迎しますよ。3人でレオを幸せにするんだ」


「サーラも認めてくれて嬉しい。後でたっぷり可愛がるからね」


「ああ、幸せ。2人がいないと僕はもう駄目だ。レオとエルザ様の為なら何でもするよ」


サーラは顔を赤くしながらも喜びの表情を浮かべる。それを見たアレクセイは全てを察した。サーラは既に死神の手の内だと。最早、彼女は手駒としては使えない。


「‥‥‥‥スタンコ少尉。もしかしなくても、ルイシコフ技術中尉に手を出したか?完全に支配下に置いてるだろう!」


エルザはサーラを抱き寄せるや、軽く唇を奪う。彼女は何の抵抗もせず、嬉しそうに受け入れる。その光景を見て、諦めの境地に達するアレクセイ。どうやら、レノスキー少将の策は見事に失敗したらしい


「サーラを落とすのは簡単だった。頑なな心を解きほぐし、甘い言葉と愛撫で体も開いたわ。彼女は私に対して、従順かつ依存する女に生まれ変わったの。もう、実家や影の騎士の言う事は聞かない」


「‥‥もうやだ。神兵なんて人知を越えてるもの。ビルメイス閣下が計画を中止した理由が分かる気がする。とりあえず、2人とも。今日これから出発するぞ。アレサ女王陛下を迎えに行くから、説得なり交渉なり好きにしたまえ」

アレクセイ「昼も夜も最強とはね。エルザ=スタンコは化け物かよ。フォンターナ中佐といい、厄介な人物だよな。とはいえ、味方としては頼りになる。今回の戦争で何とか味方にしたいものだ」


次回、アレサ達の下へ更に厄介な人物が現れます。

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