第57話 アドルフのトラウマ
「ちいっ、女王に逃げられたか。おい、貴様ら。ロマルク帝国の軍人か?レノスキー少将の部下にしては、随分と派手な登場だな。いかに腕利きとはいえ、こちらの方が戦力は揃っている。4人だけでどうする気だ?」
「ほう、あんたがヒューレンフェルト大尉か?エルザの嬢ちゃんに聞いた通りの人間みたいだな」
エルザの名前に、ドラーム帝国の軍人達全員が驚く。1軍人たる彼女に、こんな部下がいるとは聞いていなかったからだ。たが、ユルゲンは父親に聞かされた事を思い出していた。それは、死神の鷹と呼ばれる者達。彼らは情報収集や暗殺等に長けており、魔王率いる影の騎士に匹敵する力を持っているらしい。
「まさか、君達は死神の鷹と呼ばれる部隊なのか?」
「さすがは、ライペール少佐殿だ。俺達を知っているとはな。だか、話はここまでにして俺達も下がらせてもらおう。お姫様を王子様の下へとエスコートしないといけないのでね」
「そうはさせるか!おのれ、エルザめ。俺の邪魔をしやがって。絶対に後悔させてやる。まずは貴様らを捕まえて、色々吐いてもらうか」
ロック達を捕らえるよう命じるアドルフ。それを見ていた女?3人が歓声を上げる。テンション高く、しかも野太い歓声を聞いて絶句するドラーム帝国の軍人達。
「きゃあああ。なかなか可愛い坊やだわ。ねえ、僕?お姉さんと良いことしましょう?」
「あら、アドルフ坊やも良いけどユルゲン君も可愛いわよ。どうせなら2人まとめて相手しちゃおうかしら?」
「うーん、私としてはイェーガー大佐かしら?あの筋肉最高よ。でも、最初はアドルフ坊やかしらね」
ドラームの男達は気付いた。我々はとんでもない敵と対峙しているのを。特に名指しされた面々は青くなっている。捕まったらどうなるか、火を見るより明らかだからだ。
「えーーと、皆さん。ひょっとして同性が好きな人達ですか?」
あっさりとベルントは核心に迫る。その不用意な言動に全員が心の中で思った。
((((やめてくれ。そんな真実知りたくない!!))))
ローズ達はベルントを見るや、更にはしゃぎだす。これまた良い男だったからだ。喜びを露にする彼らは、あっさりと答える。
「「「そうよ。私達、男大好きなの!!あら、よく見たらベルント君も可愛いじゃない。ついでに食べちゃおうかしら」」」
どうやら、ベルントもロックオンされたようだ。しかし、彼に動じる気配は無い。何故なら、最強にして最凶の女性が近くにいるからだ。その女性たるリノアが、ベルントの前に立ちはだかっる。
「ちょっと、貴方達。私のベルントに手を出したら、2度と使えなくするわよ。激痛に苛まれながら排泄したいかしら?」
夜叉の表情を浮かべたリノアを見て、その場にいた全員がドン引きする。ロック達もエルザから忠告を受けていたので、あくまで冗談とかわす。ただし、特大の爆弾をぶちこむのを忘れない。
「安心しな。ベルントだっけか?エルザの嬢ちゃんから聞いてるからよ。何でもリノア嬢と屋敷の使用人含めて、6人の女を満足させてるそうじゃないか。そのうち、3人が子持ちと聞く。大した絶倫男だぜ。でも、3人は許しても他の男連中はどうかな?」
「リノアちゃんを筆頭に、執事、侍女長、庭師に猟師だったかしら?それと屋敷を出て、新聞記者になった娘もいるのよね。なんて多種多様な女性遍歴かしら」
私生活を暴露され、焦るベルント。何故なら、周りからの殺意が半端なく自分に注がれているからだ。彼女のいない男達にとって、モテる男。しかも、ハーレム持ちは怨敵である。敵意は目の前の4人にではなく、ベルントに向けられてしまった。
「「「「ベルント、貴様は後でリンチじゃあああ!!!」」」」
「ううっ、どうしてこうなるんだろう。ロックさん達、ひどすぎますよ」
ベルントは、このあと起こる惨劇を想像し、心が折れる。そんな彼と兵士達にユルゲンは喝をいれた。ロック達が心理戦をしかけているとすぐに気付いたからだ。
「ええい、静まれ!奴等の作戦にはまるな。我輩もギュンター少尉の女性関係には驚いたが、彼らを捕らえるのが先決。ヒューレンフェルト大尉、彼らを捕らえるぞ。おい、どうした?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
ユルゲンは、アドルフに声をかけるも彼は沈黙したままだった。手は小刻みに震え、ローズ達を見ている目は光を失っている。その様子を見たリノアはある事を思い出し、大いに焦る。アドルフのトラウマとなった出来事を。
「ま、まずいわ。ライペール少佐、ベルント。兵士達を下げて!アドルフが暴走する。エルザったら、敵に対して本当に情け容赦が無いんだから」
緊迫したリノアの声にユルゲンとベルントは兵士達を後退させる。すぐに、その理由が分かった。アドルフがローズ達に機関銃を乱射し始めたからだ。
「うがああああ、殺す。殺してやる!もう2度と男達になぶられてたまるかああ!!!」
アドルフにとって、同姓愛者は恐怖と憎悪の対象です。次回、その理由が語られます。




