第51話 真実は時に残酷である
王都の前に基地での作戦の話を書きます。オイゲンが自分の立場を理解します。
「作戦第2段階だな。ヒューレンフェルト大尉、上手くやってくれよ」
バロル大公の領地に最も近いアレサ派の軍事基地に投降を装い、ミカエル率いる2000の兵が入っていく。その中にオイゲンとベルント率いるドラーム軍人200が紛れ込んでいた。アドルフ率いる部隊はユルゲンの部隊と共に基地を包囲している。
「イェーガー大佐、ローデン准将は信用出来ますか?私達を売って、アレサ派に寝返る可能性もありますが」
「その時は諦めるしかない。俺に見る目が無かっただけの事さ」
ベルントの懸念は最もだが、後は天運に賭けるしかない。そんな2人の目の前で、ミカエルは基地司令官と話を始める。
「以前から申し上げた通り、投降致します。最早、バロル大公にはついて行けません。我々はともかく、兵達には寛大な処置を願う次第であります」
「これはこれは、ローデン准将。貴方も寝返るとなれば、バロル大公は終わりですな。私は先んじて、アレサ様に忠誠を誓いました。口を利いても構いませんよ。何せ、宰相は私の伯父なのですから」
基地司令官のミカエルに対する油断と侮り。それを見て取ったミカエルは笑顔を見せる。だが、目は笑っていなかった。その目はまさに、肉食獣が獲物を狙う時の目だ。
「そりゃ、どうも。さて、司令官殿に1つ忠告だ。部下は大切にするんですな。そうしないと‥‥、こうなる!」
「な、何を‥‥。ぎゃあああ」
ミカエルが手を上げると基地司令官に銃火が集中した。倒れる基地司令官にざわめく兵士達を抑えるべく、ミカエルは銃を空に向けて撃つ。
「静かにしろ!兵士諸君。この司令官の非道ぶりは俺も聞いている。部下に対し、限度を越えた苛烈な懲罰を科して苦しめていたとな。加えて、士官連中もそれに加担していたと聞く。俺達は諸君を解放する為に、偽りの投降をしてまでやって来たのだ。武器をとれ。今こそ横暴から立ち上がる時だ!」
「ローデン准将!ええい、お前ら。さっさと奴らを倒せ。むっ、何をする。止めんかあ!」
ミカエルの言葉を聞き、基地所属の兵士達が動いた。副司令官を含む士官を取り囲むや、殴る蹴るの暴行が始まる。士官の悲鳴や怒号、助けを求める声に包まれる基地。軍の規律もあったものじゃない行動にオイゲン達は茫然とする。
「黙ってて悪かったな。イェーガー大佐の策では、いくら厳重に情報封鎖しても王都にばれちまう。そこで俺は、基地司令官達の失策を利用して兵士を共犯にしたのさ。上官に対する反乱を起こしたんだ。奴らも後には引けんだろ」
胸ポケットからタバコを取り出すや、ミカエルは火を着けた。顔に会心の笑みを浮かべながら。
「ローデン准将、貴方という人は‥‥」
「この基地司令官は宰相の一族出身でな。素行の悪いくそ野郎だが、少将になってやがる。アレサ女王は優れた為政者なのかも知れん。しかし、宰相連中の悪名が高くて国内の支持が広がらないのが現状さ」
国際情勢を考えれば、アレサの外交戦略に肯定的な貴族や軍人達も多い。そんな彼らが、アレサ派に参加しないのは宰相一族の横暴が原因である。アレサの母親たる王大后が宰相の妹なので、外戚たる彼らは権勢をほしいままにしている。
「イェーガー大佐、はっきり言おうか。バロル大公閣下もドラーム帝国と手を切るつもりだ。イザベッラ姫の暴走と反ロマルク同盟崩壊に閣下も失望している。この反乱が成功した場合、同盟は維持するが1年後に破棄する予定だ。恐らく、アレサ女王陛下の外交を継承するだろうよ」
ミカエルのあんまりな言葉に、絶句するしかないオイゲンとベルント。自分達の戦いに何の意味も無いと言われたのだから当然だ。
「俺達の事を真剣に考えてくれた大佐だからこそ告げた。もし、オイデンベルク少佐みたいな奴らばかりだったら反乱終了後、雪の中にご案内だったな」
「それって、人知れず殺すって事ですよね」
ベルントの問いかけに、うなずくミカエル。ベルントは怯え、オイゲンは怒りを覚える。部隊の仲間には言える訳が無い。ここで死んでも無駄死であると。
「‥‥ローデン准将、我々はただの捨て駒か!?」
「ああ、そうさ。ドラーム、ノルディン両国にとってな。ドラームとしては、有名な大佐を援軍で送ったと恩を売る。ノルディンは大佐を後腐れなく戦力として使える。実に、理にかなってる事じゃないか。上手く立ち回るんだな、イェーガー大佐。そうしないと無駄に死ぬだけだぜ」
次回より、王都での攻防が始まります。