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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
間章 休暇中の出来事
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第44話 イザベッラ暴走の果てに

レオナルドやガスパーが話をしていたイザベッラ姫。バレット海を行く客船の中で、ワインを飲みながら今後の計画を考えていた。同盟会議は中止を余儀なくされ、彼女の外交デビューは散々な結果に終わった。各国の情報をマリオに調べさせ、アレサとバロル大公による内乱勃発の可能性ありと報告を受ける。それならばとノルディン連合王国の内乱阻止へとイザベッラは動く。アレサに恩を着せ、同盟に復帰するよう迫ろうと考えた訳だ。


「まずは、アレサ女王とバロル大公を会談させましょう。次にロマルク帝国の皇太子と会って、4者会談を行い和平を締結。その後、私はレオナルドと‥‥」


妄想を始めたイザベッラに対し、マリオは大声で諫言を行う。マリオが調べた結果、自分達の立場がかなり危ういと危機感を覚えたからだ。


「姫様!! 理想と現実をわきまえて下さいませ。誰も姫様の御言葉に耳を傾ける者はおりませぬ。アレサ様もバロル大公様も皇太子殿下も姫様を顧みますまい。同盟中のドラーム帝国からも警告が届いた状況をお察し下さい」


マリオは呆れ返っている。昔から蝶よ花よと可愛がられ、甘やかされ過ぎて、残念な大人に成り果てたイザベッラに。このままでは命が危ないのだ。ロマルク帝国もドラーム帝国もイザベッラが関わる事を良しとしないのは明白。下手をすれば、暗殺者を送り込んで来てもおかしくない。


「マリオ、心配いらないわ。私は古えのローナ帝国直系の血筋を引くイダルデ王家の後継者なのよ。他の皇帝家や王家は歴史が浅いわ。最終的には、私の言葉が何より優先されるの。まあ、良いわ。そんな事より、エルザ暗殺の件はどうしたの? 報告がまだのようだけど」


「向かった人員は全滅です。連絡員に警告が来ました。『次は無い。今度はお前の主が標的になる』と。どうやら、エルザ=スタンコには凄腕の仲間がいるようですな」


「な、何ですって! マリオ、何をやってるのよ! もっと強いのがいるでしょう?」


途方に暮れるマリオ。誰が、腹ペコ死神の暗殺を請け負う物好きがいる。そんな、ハイリスクノーリターンの仕事を裏社会の者はまず断る。また、イダルデ中を探しても彼女に比する凄腕はいない。実力者のほとんどは、マルコ=フォンターナと共にロマルク帝国へ亡命している。最初からエルザ暗殺は不可能だったのだ。


「姫様、帰国しましょう。まずは、イダルデを救うのです。他国の事はそれからですぞ。自国を救えぬのに他国の事に口を出すのは物笑いにしかなりませぬ! 姫様は血筋をおっしゃいますが、ベリート率いる共産主義者は容赦なく王族を処断しました。お分かりですか? 姫様などエウロパ諸国から見れば、亡国の姫であり、路傍の石のように軽い存在。価値など無いに等しい!!」


「爺、貴方! な、何? どうしたのよ」



爆発音と共に船体が大きく傾く。調度品が外へと飛び出す中で、イザベッラとマリオも、開いた窓から危うく放り出されそうになった。マリオは必死にイザベッラの体をつかみ引っ張り上げると、何とか壁にしがみつく。しかし、爆発音は次々と起きており、船が沈んでいくのは時間の問題であった。


「ちょっと、マリオ。どうなっているの? 説明なさい!」


「姫様。どうやら、これまでのようですな。恐らくは、我らの介入を快く思わぬ国々による攻撃でしょう。つまり、我らは邪魔者扱いですな。しかし、バレット海で死ぬ事になるとは‥‥。いや、人生は不思議なものですね」


「諦めたらそこで人生終わりよ! 救命ボート位はあるはず。行くわよ」


生還を既に諦めているマリオを叱咤しつつ、イザベッラは傾いた船内を歩く。爆発に巻き込まれた侍女や護衛等の無惨な死体が転がり、地獄絵図の様相を呈する中で彼女は必死に足を動かす。欲望と野望を口にしながら。


「レオナルドと結婚するまでは死なないわ。イザベッラ=エマヌエールの名を世界に轟かせてやる。ここで終わる私じゃない!」


「姫様、ボートがありません! 船員達も姿が無く、脱出は困難かと」


救命ボートは全て無く、見れば海に浮かんでいた。船員達は脱出して自分達が残されている。その意味にイザベッラは悟った。自分達はここで死ぬのだと。だが、それでも彼女は抗う。


「くっくっく、誰かしらね。私の邪魔をしたのは?魔王ウラディミル辺りの仕掛けかしら。でも、甘いわ。マリオ、救命胴衣ある? 全力で泳いで、船から脱出よ」


「ありますが、脱出したとしても沈む船に巻き込まれて溺死しますぞ!」


「理屈をこねるな。行くわよ! 今はただ、行動あるのみ。マリオもさっさと飛び込みなさい!」


覚悟を決めたイザベッラとマリオは、沈む船から海に向かって飛び込んだ。


(この年で、生還は不可能ですしょうな。私はこれまでのようです。レオナルド様、イザベッラ姫を頼みますぞ。どうか、これ以上罪を重ねる前に、止めを差して下され。‥‥この私には出来ませんでしたよ)


バレット海で起きた客船沈没は事故と処理され、イザベッラ姫を始めとするイダルデ解放軍124名が死亡。脱出した船員達も救命船が見つからず、行方不明扱いとなった。イダルデ解放軍は、更なる捜索要請を各国に願い出るも却下される。各国の対応は、それはそれは冷淡なものであったと言う。イダルデ解放軍は指導者を失い、派閥抗争が激化。内部分裂を起こしてしまう。以後、イダルデ解放軍は振るわなくなり、歴史の表舞台から姿を消してしまうのだった。






イダルデ解放軍は消えますが、イザベッラは‥‥。

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