第40話 神兵と呼ばれた者
翌朝、レオナルドが目を覚ますとエルザはまだ隣に寝ていた。可愛らしい寝顔を見ると腹ペコ死神の異名を持つ女兵士とは、とても思えない。しばらく寝顔を見ているとエルザは目を覚ました。途端に顔を真っ赤にすると、布団を頭からかぶってしまう。
「お、おはようレオ。昨日はごめん、突然来て。サーラと話をしていた貴方を見て、いてもたってもいられなくて、つい」
「気にするな、エルザ。ようやく、モニカを良い意味で忘れられた。これからは、君だけ‥‥。じゃないな、サーラもいるか。しかし、昨日は積極的に話をしてきたな。まさか、君を嫉妬させようとしたのか?」
そう、エルザをこんな状況に追い込んだ原因が彼女だ。サーラは、大っぴらにレオナルドと仲良くしていた。まるで、エルザに見せつけるかのように。
「‥‥はあ。私は何番目でも良い、レオの隣に立てるなら。サーラに関しては、心配しないで。私が何とかする」
そう言って、エルザは唇を寄せる。レオナルドもそれに応えようとした時、それは起きた。階段を荒々しく昇って来た人物が、レオナルドの部屋をノックする。
「おい、レオナルド! 休みなら、今日は厨房手伝えや。‥‥あん?」
マルコが息子の部屋のドアを開けると、そこは愛の世界がひろがっていた。エルザは慌てて体を寝具で隠すし、レオナルドは困った顔でマルコを見ている。しばらく時が止まるも、マルコは親指を立てて豪快に笑う。
「とうとう、女を連れ込んだか。はっはっはっ、レオナルド! 俺は嬉しいぞ。ようやく娘の‥‥あだっ!」
「早く、出ていく! レオ以外には見られたくないの!!」
「わ、分かったよ。レオナルド、今の無しな。今日は休め。頑張りすぎて、子供作るなよ」
エルザの投げた枕がマルコを直撃。マルコは、ドアを閉めて慌てて逃げていった。そんなエルザの肩をレオナルドは抱き寄せる。
「後で家族にも紹介しよう。母さんも弟も驚くだろうな。こんな美人を恋人に出来たんだから」
「‥‥馬鹿。それより、レオには話す事がある。私の過去について、知ってほしいの」
そう言って、エルザは過去を語りだした。かつて、貧民街で義賊の真似事をしていたこと。その活躍に困ったマフィアが、軍に送り込んだこと。戦争で戦った日々の事を。それはレオナルドも知っていた。だが、何も言わず静かに耳を傾ける。
「ここまでは、よく知られた話。でも、今から話すのは別。知っているのは、私の仲間だけ」
そう前置きした上で、エルザは語り出す。自分の出生の秘密を。
「物心ついた頃から、私は銃を使っていたの。周りには同じ位の子供がいて、座学と実戦さながらの訓練の日々が何年も続いていた」
「エルザは特殊機関の出身なのか?」
「たぶん、そう。私達がいたのは、ドラーム帝国のローゼンハイムにある古城。研究者や軍人が多くいたの。私達を実験動物としか見ていないから、大嫌いだった」
彼らはエルザ達に訓練を施し、薬物による人体実験も行っていたと言う。過酷な訓練と薬物による影響で、廃人になる子供が続出していた。そんな中でエルザは何とか生き残る。だが、更なる試練が彼女達を襲った。
「ドラーム帝国軍が、何故か方針転換して私達を殺そうとした。私達はバラバラに逃げたの。生き残ったのは、私の知る限り私を含めて4人だけ。後の子供達は、どうなったのか分からない」
「生き残ったのが4人か‥‥。後の3人は誰だい?」
「ガスパーとユリアは帝都にいる。もう1人は、リノア=ローゼンハイム。ドラーム帝国の外交官として有名でしょ。おそらく、叔父であるローゼンハイム侯爵が助けたんだと思う」
エルザと逃げた2人は、裏社会でかなりの実力者として認知されているらしい。その類いまれな身体能力と頭脳で、出世街道を成り上がっているようだ。リノア=ローゼンハイムは卓越した交渉術と美貌も相まって、名外交官として名高い。その能力は、元宰相オットー=フォン=ビルメイスに匹敵すると噂される人物だ。
「計画の名前は神兵計画。文字通り、戦争において神に匹敵する兵を作り出す事が目的。私は数少ない成功例。副産物として、政治家や芸術家なんかも出てきたけれど。ねえ、レオ。私の事、怖くはない?」
エルザと共に生き残った仲間は全員登場します。




