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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
間章 休暇中の出来事
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第38話 慰労会

「今日は集まってくれて、感謝する。部隊としての初陣が激戦となり、多くの将兵が傷つき倒れた。まずは今回の作戦で亡くなった者達に対し、黙祷を捧げよう。黙祷!」


アーンナの査問会から3日後の帝国暦1856年4月22日。レオナルドは、部隊の隊員達を集めて慰労会を開催した。出来てまだ2週間しか経っていない部隊の親睦と引き締めを兼ねての会である。もう少ししたら、400名近くの兵が部隊に合流する。ここにいる50名は幹部になる者が多いので、人としても隊としても必要な事だ。


「黙祷終了。では、諸君。今日は食べて、飲んでくれ。皆よく戦い、よくぞ生き残った。今日は無礼講だ、次の任務に向けて大いに英気を養って欲しい。これを機会に、店を利用してくれると助かるがな」


「隊長、商売上手だな。だが、ここだったら利用出来そうだ。隣は、俺達じゃ高嶺の花だからな」


「確かに。私も年に2回程しか利用出来ませんからね。しかし、隊長がマルコ=フォンターナの息子とは驚きましたよ。料理上手なのも頷けます」


レオナルドの実家ミヴラの広大な店舗は、3つの区画に分かれていた。まずは、今回の慰労会の会場たる区画。昼はランチ、夜は酒場になっており、平民階級の利用が多い。と言っても、今までは貧民街出身のボルフ達にとって、敷居は高かった。しかし、今回入ってみて、居心地も悪くない。ボルフ達は、これからも利用する気満々である。


「隣は貴族や富裕層の平民が来るからな。俺はどっちも好きだが」


「僕は、こっちかな?隣はマナーとか気にして食べるから、食べた気にならないんだよね」


レナニートとサーラも庶民的な料理と酒に舌鼓を打つ。彼らが言う隣とは、2日前に会合が行われた高級料理店の事である。店構えや調度品等は一流の物で揃っており、料理もコース料理がメインだ。貴族御用達の店として知られている


「旨い、最高。デザートのアップルパイも食べる」


ジャンボピザやスパゲッティ等を食べるのに夢中なエルザだが、デザートの事も考えている。喫茶室は以前、アレサが働いていた場所だ。女性客の利用が多いこの店は、デザートが豊富に取り揃えられている。女性隊員の多くは、それを食べるのに必死で男達は少し引きぎみだ。


「レオナルド、今回の作戦を聞いたな。ノルディン連合王国で同盟締結の為の要人護衛とアレサの支援だ。アレサとは2年ぶりに会うよな?」


ワインを片手に持って、やって来たレナニートはレオナルドにそう問いかける。士官学校卒業と共にアレサは帰国した。それっきり、レオナルドとレナニートはアレサに会っていない。だが、彼女の行動は新聞やウラディミルの諜報活動で知っている。相変わらずの台風娘だと互いに笑ったものだ。


「ええ、そうですね。彼女の行動力は凄まじい。エウロパ大陸の情勢を覆そうとしているのだから。私には、そんな力が無いのが悔しいですね」


「大したものさ。だが、代償として命を狙われる羽目になっている。ドラーム帝国とバロル大公にな。ロマルク帝国としても、同盟相手が暗殺されるのは避けたい。故に俺達にも声がかかったのかもな。エルザを護衛に付かせる事も考えてるだろうし」


アレサの置かれた状況はかなり危うい。だが、自分達は何も出来ずにいるのはもどかしかった。今回の任務は2人にとって、渡りに船と言える。


「ちょっと、そこの中佐少佐コンビ。早くしないと料理が無くなるよ。難しい話は明日でもいいじゃない」


サーラの言葉に2人は慌てる。料理をまだ何も食べていなかったからだ。


「よし、レオナルド。美味い物をたくさん食べて、次の作戦の活力にするぞ」


「分かってますよ、先輩。しかし、新兵を含めた部隊でこの作戦に対応出来るのか?」


レオナルドが考え事をしているとサーラが目の前に立っていた。どうやら、考えがまとまるまで待っていたらしい。


「レオナルド様って、真面目だね。もう少し肩の力を抜いた方が良いよ。僕も仕事中は仕事の事しか考えないけど、休みは思いっきり楽しむ主義なの。さあ、2人で楽しもう。エルザは気にしなくて良いよ。食べるのに夢中だから」


「そうだな。上が楽しまないと興醒めになるか。サーラ、ありがとう。テーブルから、君が好きな物を持って来ようか? 何が良い?」


「レオナルド様、一緒に行こうよ。その後は、2人きりで食べながら話をしたい。貴方について、知りたい事がたくさんあるからね」


こうして、レオナルドはサーラと2人での時間を楽しむ事になった。会話は弾み、幼い頃の思い出話やお互いの仕事の事等を語り合う。楽しい時間はあっという間に過ぎ、慰労会は終わる。皆が帰る中で、レオナルドとサーラは中庭の木の影で唇を交わす。顔を赤らめながらも、嬉しそうに笑いながらサーラは帰っていく。


レオナルドもサーラの姿が見えなくなるまで見送り、家の中へと入っていった。そんな2人を見ている女性がいた事を気付かずに。







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