幕間 これが、現実か‥‥
彼女達はエルザの部隊に所属しています。強さはボルフ達や影の騎士と互角です。
「はぁ~~い。ボルフちゃん、元気してた?相変わらず、良い筋肉ねえ。昔は小さかったのに、こんな立派になって。部下の子達も可愛いわああ」
「‥‥いや、その」
「どうしたの、黙っちゃって。こういう所は初めてなのかしら?お姉さんが色々と教えてあ・げ・る」
「ま、間に合ってます~~」
「オルバちゃんって言うのかあ。この子イケメンね。食べちゃいたいわ。ねえ、お部屋で良い事しましょうよう」
「ううっ、勘弁して下さい」
目の前にいるボルフ達の目は死んでいた。天国から地獄に突き落とされたのだから、無理もない。ここは娼館のはずだった。先程までは娼婦のお姉さん達が店にいたのだが、レオナルド達が入って来ると瞬く間に姿を消し、かわりに現れたのが彼女達だった。男でありながら乙女の心を持つ人々。レオナルドも見るのは初めてである。
「驚いたかい、フォンターナ中佐殿。こういう奴らも世の中にはいるのさ。覚えておいて損は無いぜ」
「ええ、驚き‥‥」
レオナルドは声のする方へ振り返ると固まってしまう。カウンターの中で、メイド服を着た初老の男が立っていたからだ。眼帯を左目にかけ、顔や腕、足等いたる所に古傷が残っている。鍛え上げられた体のせいで、今にもメイド服がはち切れそうだ。歴戦の兵士と見える男はレオナルドに頭を下げる。
「いらっしゃいませ、ご主人様。俺の名はロック。あそこで死にそうになっているボルフの元上官だよ。あの野郎。上官を利用して、うまい汁を吸おうって考えているようだが、そうはいかねえよな」
そのボルフは、体の筋肉がとても素晴らしい3人の女性?に囲まれ震えている。何でも彼女達も元上官や同僚だったらしい。
「ボルフちゃんたら、最初の戦闘で失禁しちゃったわよね。泣き虫で弱音ばかり吐いてたし。そんなボルフちゃんが、中尉まで出世するなんて思わなかったわ」
「素行に問題あったもんね。朝帰りは当たり前。賭け事でお金は使い込むし。何度、鉄拳制裁したかしら?」
「どうやら直ってないようね。性根を叩き直すから、今日は朝まで付き合ってもらうわよ」
「‥‥‥‥はい」
騎士の情けで聞かなかった事にしようとレオナルドは考え、カウンターにいるロックとを見る。昼間、帝都の大通りを歩いていれば確実に警察に捕まるであろう人物。慣れはしないが、勇気を持って話しかける。
「あーー、ロックさん。貴方、いったい何者です?」
「俺は、歓楽街の用心棒さ。この姿で行けば、喧嘩もピタリとやむんだよな。しかも、勝手に喧嘩してる奴らが逃げていきやがる。女装は俺の趣味でね。ここじゃ、誰も文句を言わねえから楽しくて仕方ねえ」
ロックのあんまりな言葉に、頭が痛くなるレオナルド。メイド服を着た強面の男が銃を片手に突っ込んで来たら、どんなチンピラでも逃げ出すだろう。
「女装する切っ掛けは何だったんです?何か理由があると思うのですが」
「俺は20年近く軍にいた。戦場でのストレスで精神的に参って自殺でもしようと考えた時に、出会ったのが彼女達さ。不思議なもので、彼女達の明るさと元気さに救われたよ」
最初は上官に付き合わされて、店に来るのは嫌々だったロック。しかし、通う内に楽しくなり、いつしか常連になってしまったようだ。結果、ストレスも発散されうつ病1歩手前だった精神も安定を取り戻していったらしい。
「付き合って楽しい連中だが、偏見や差別を受けていた。歓楽街でも、1番下に見られているからな。苦しんでる彼女達を守るべく、軍を除隊して用心棒になったのが始まりよ。これは彼女達に近付く為に着てるのさ。まあ、俺自身はノンケだけどよ」
「えっ!そうなんですか?てっきり‥‥」
「こう見えて、女房も子供もいるんだ。あくまでも仕事着感覚さ。さすがにこの格好で家から通勤はしねえよ。子供達や年寄りにトラウマを植え付ける訳にはいかんからな」
意外と常識があるロックの考えに、レオナルドは驚く。そんなロックに対して、レオナルドは気になっていた事を尋ねる。
「ところで、ロックさん。これって、エルザの仕込みですか?」
「ああ、そうさ。エルザの嬢ちゃんは、彼女達のスポンサー兼後ろ楯でな。嬢ちゃんのおかげで、随分待遇も良くなったよ。いじめる馬鹿も減ったしな。エルザ相手の喧嘩は誰もしたくないからよ。今回の件は、嬢ちゃんに『ボルフの奴らをこらしめて欲しい。最近、調子に乗ってる奴もいるから締めて』って頼まれてな。彼女達も‥‥。こりゃあ、まずいかな?」
ロックの言葉に、レオナルドが振り返る。見れば部下達が、お姉さん方の部屋へと引きずりこまれそうになっていた。必死に逃れようとする部下達。たが、彼女達は強い。次々と部屋へと放り込まれる。
「はーい。1名様、ご案内~~。うふ、優しくしてあげるわよ」
「じゃあ、私はこの子にするわ。本当はフォンターナ中佐が良いけどね。エルザちゃん怒らせたらまずいし、諦めるわ」
「早く、来なさいよ。‥‥おい、いい加減腹くくれや!隊長の七光りで甘い汁すすろうとする性根、叩き直してやるわ」
「「「「隊長~~、助けて下さい!!」」」」
抵抗虚しく部屋のドアが閉まり、静まり返る娼館。残されたのはレオナルドとボルフのみであった。ロックはレオナルドの肩を叩き、帰るように告げる。
「フォンターナ中佐殿、今日は帰って良いぞ。これから、ボルフと大事なお話があるからよ」
「た、隊長。頼む、助けてくれ。俺達が悪かった。だから‥‥」
ボルフの救援要請をロックが顔を殴る事で黙らせる。その迫力にレオナルドも何も言えない。
「ボルフ、諦めろや。往生際が悪いぞ。そうそう、フォンターナ中佐殿。部下の連中は心配するな。あいつらも嫌がる奴らを手込めにはしねえから。精々、脅かす位さ」
「‥‥分かった。後はあなた方にお任せしましょう。ヤルステイン中尉、幸運を祈る」
断腸の思いでレオナルドは敬礼し、踵を返してドアを開ける。これから起こる真の地獄から逃れる為に。
「ち、ちょっ!隊長、そりゃあ‥‥」
「さて、ボルフ。久々に相手してやるぜ!体は鈍ってねえだろうな?」
ロックは、そう言ってレオナルドとボルフの間に割って入る。すかさず、3人の女性?がボルフを囲んだ。
「あーーん、ロックずるい。私が1番よ」
「ちょっと私よ、私。必殺技のラリアットをぶちかましたいわ」
「あんた、それで何人あの世行きにしたと思ってんの。まっ、ボルフちゃんなら耐えられるわよね?」
レオナルドが娼館を出るとドスの聞いた声が辺りに響く。説教タイムの始まりらしい。この惨状を見て、レオナルドは誓う。絶対にエルザを怒らせてはいけないと。
翌日のボルフ達。
「死ぬかと思った。エルザの奴、容赦がねえよ」
「2度としません。隊長、スタンコ少尉。ごめんなさい」
「敵と戦った方がましです。本気で死を覚悟しました」
翌日のロック達。
「エルザの嬢ちゃんの為だ。お前ら、ノルディンに行くぜ」
「あーーん、楽しみ。ノルディンってバイキングの国よね。良い男たくさんいそうだわ」
「ドラーム帝国も来てるのね。あっちの男達も気になる~~」




