幕間 ボルフによる男修行2
シャイアは、この後も登場する予定です。彼女は、もうひとつの顔を持っており、レオナルド達に深く関わってきます。
「いらっしゃいませ、レオナルド=フォンターナ中佐。英雄と名高い貴方が当カジノに来店されるとは。このルーブル、光栄に思いますぞ」
約束の6時に、軍服姿のレオナルドはカジノラマルートへと入った。出迎えたのは、元軍人でオーナーのルーブルだ。ラメ入りタキシードと金縁眼鏡という胡散臭い格好。ロマルク帝国の通貨の単位から取ったと思われる偽名。一見すると怪しさ満点の人物である。しかし退役したとはいえ、その体は引き締まっている。外側だけで判断すると痛い目にあうだろう。
「今日は遊ばせてもらう。ところで、私の部下が先に来ていると思う。何処にいるか分かるかな?」
「彼らなら、既にルーレットで遊んでおりますよ。何でも次の店の軍資金を作るとか言ってましたな。かなりの額を稼ごうと必死に頑張っておりますよ。ふふっ、お手並み拝見といきましょう」
その笑みは憐れみの成分を多分に含んでいた。賭け事は基本的に胴元が有利だ。そして賢い遊び方は、小遣い程度の金を賭けるのと負けを取り返そうと熱くなって、大金を賭ける事をしない事である。
ボルフ達の賭け方は、カジノ側にしてみれば絶好のカモである。ある程度勝たせて、最後に全てを奪えばいいのだから。
「‥‥大丈夫かな?まあ、いい。私はブラックジャックで遊ぶ。確か賭け金は1チップ、100ルーブルからだったか?」
「ええ、そうですよ。どうぞ、こちらへ。ご案内致します」
案内された先では軍人や富豪、貴族達が数字の多寡に一喜一憂していた。ブラックジャックはトランプを3枚引き、21に近づけた方が勝ちである。ただし、21以上の数字を引けば、即負けてしまう。21を越えないように、カードを引くか引かないかの駆け引きが重要となる。
「よろしく頼む。まずは100ルーブルから始めよう」
「では、カードを配ります」
レオナルドは席に座り、ゲームを始める。ディーラーは、カードを2枚ずつ客に配っていく。レオナルドの数字は10と10。最初のカードの合計は20。
「勝負だ」
ディーラーが出したカードは、合計19だった。まずは順当に勝つレオナルド。
「次は300ルーブルだ、始めようか」
レオナルドはディーラーとの駆け引きを重ね、勝ちを増やしていく。気付けば稼ぎは10000ルーブルを越えていた。周りの客はその勝ちっぷりに驚き、ディーラーの顔が青くなっていた。さすがに、カジノのオーナーたるルーブルも看過出来なかったようだ。
「ふむ、ディーラー交代です。君には後で話がある。シャイア!出番だぞ」
ルーブルが呼び出したのは、長い栗毛の髪を持つ女性ディーラーだった。タキシードを着ているものの、服越しにでも分かる豊かな胸が女を強く主張していた。その妖艶たる色香で客の集中力を落とすタイプとレオナルドは推測する。
「あら、なかなか強そうな坊やね。今夜は楽しみましょう。申し訳ないけれど、1対1で勝負したいから他のお客様はご遠慮下さる?」
シャイアの言葉に、他の客はすぐにテーブルを離れてしまう。慌てて逃げた所を見れば、かなりの手練れのようだ。そこへ、ボルフ達がやって来た。顔色は青くなっており、総じて暗い表情。その様子から、レオナルドは察してしまう。予想通り過ぎて、大きくため息をついた。
「‥‥ヤルステイン中尉、どの位負けた?」
「はあ~~、全員で5000ルーブル負けましてね。隊長、金を貸して下さい。負けた分払えないんで。‥‥あれ?隊長、シャイアと勝負するんですかい!!身ぐるみ剥がされますぜ」
恐怖に怯えるボルフは、シャイア=コースキーについて語り出す。カードゲームに置いて無類の強さを誇る彼女は、数多くのギャンブラーを葬ってきた。稼いだ金は億単位と言われる最強のディーラーである。その実力からか、カードの魔術師との異名を持っており、一流のギャンブラーも達が勝負を避ける程だ。
「かなりの有名人なんだな。だが、勝負は降りられそうにないようだ。君らの負け分も稼がねばならん。勝たねばならない理由が出来たようだ。シャイア嬢、始めようか?」
「私を相手に勝とうなんて面白いわ。さあ、可愛がってあげるわよ。坊や」
通貨に関して
1ルーブル=100円
10ルーブル=1000円
100ルーブル=10000円
1000ルーブル=100000円




