第3話 部隊結成
部隊の人数を50人から120人に変更します。
翌日、レオナルドは部隊の隊員が集まる前で挨拶を始める。隊員は全員で120人。男性8割、女性2割の混成部隊であった。ただし、戦歴は3年以上の中堅とベテランで揃えている。レオナルドの経験不足をブレディル=ゴルバ大将が考慮したからだ。
「私が本日付で君達の上官となった、レオナルド=フォンターナ特務大尉だ。私はこの部隊だけでは無く、将来的には兵站全体の改革を行うつもりである。まだまだ未熟ではあるが、君達の力を貸して欲しい。よろしく頼む」
レオナルドの言葉を聞いた隊員達の表情は様々だ。興味無さげな者や本当に出来るのかと疑う者、お手並み拝見と構える者等だ。当の本人もいきなり信用されるとは思っていない。そこで、最初にロマルク軍最強の兵士と名高い人物に声をかける。
「エルザ=スタンコ軍曹は誰だ? いたら、前に出てきて欲しい」
隊員の列から細身の女性が出てくる。ショートヘアにした黒髪と青い瞳が印象的な少女だ。自身の想像していたタイプとは、まるで違う女性の登場にレオナルドは驚く。その戦歴から、姉御肌の女傑を勝手にイメージしていたからだ。
「‥‥君がスタンコ軍曹なのか?」
「私がそうです。フォンターナ特務大尉、何か御用でしょうか? 正直、貴方のような優男。私はあまり好きではありません」
無愛想で遠慮が無いエルザの言動に、戸惑うレオナルド。そこに救いの手が現れる。男が近づくや、思い切りエルザの頭へと拳骨を見舞ったからだ。そして、レオナルドに頭を下げる。
「フォンターナ特務大尉、申し訳ありません。こいつときたら、昔から礼儀知らずでして。おい、エルザ。隊長に謝れ!」
「相変わらず、ボルフの拳骨は痛い。すみません、フォンターナ特務大尉」
嫌々謝るエルザを見て、レオナルドはつい笑ってしまう。そして、彼女を叱った男を改めて観察する。強面の顔に加え、口の回りには濃い髭。全身古傷だらけで、その体に鍛え抜かれた筋肉をまとう大男。まさしく、歴戦の戦士と呼ぶにふさわしい人物だ。
「君が、ボルフ=ヤルステイン少尉だな。二等兵からの叩き上げで、歴戦の軍人と聞いている。しかも、皇帝陛下より直々の勲章を賜った程の武勲を挙げ、閃光ボルフの名を与えられた。戦闘だけでなく、部隊運用や新兵教育にも定評があると言う話は本当のようだな」
「へえ、俺の事を知っておられますか。まあ、フォンターナ特務大尉には負けますがね。あのスダール少将閣下に『気は確かですか』なんて言えたのは、貴方しかいませんからな」
ボルフの言葉に、隊員達は全員うなずく。何故ならスダール少将は帝国の名門出身であり、侯爵位を持つ貴族であった。命令に黙って従う者が多いのに、公然と馬鹿呼ばわりしたのだ。今、生きているだけでも奇跡である。
「私は感じた事を言ったまでだ。その後の事は‥‥、本当に運が良かっただけさ。つくづく私は人に恵まれたと思うよ。さて、スタンコ軍曹。早速だがこれを渡そう」
そう言って、レオナルドが渡したのはジャムの瓶だった。それを見たエルザは目を輝かせる。すぐに瓶の蓋を開け、匂いをかぐ。エルザは美味しい食べ物に目がないと聞いていたので、挨拶がわりに渡したのだが効果は抜群だったらしい。
「これは、リンゴジャム! しかも、美味しそう。フォンターナ特務大尉、パンは何処? もちろん、食べていいですよね!」
「パンならここに。って、うわ!」
レオナルドがトラックの荷台からパンを取り出すや、エルザはそれを奪い、ジャムを塗って食べ始める。笑顔で食べる様子から、どうやら彼女のお気に召したらしい。
「甘さもくどく無いし、酸味もよく効いてる。何より、パンに絶妙に合う。最高です、フォンターナ特務大尉!」
「フォンターナ特務大尉、あのリンゴジャムはどこの店のもので? エルザがあそこまで喜ぶのは珍しいんですが」
「私の手作りだ。ジャムを作るのは初めてで、なかなか難しかったが気に入ってくれて嬉しいよ。料理は趣味でね」
かつては、料理人を目指そうと考えた時期もあったレオナルド。その時の修行の成果が出て、内心ほっとしていた。これならエルザを食べ物で釣れそうである。
「ふーん。堅物の士官と思いきや、意外な趣味をお持ちですな。まあ、エルザの機嫌取りには最高の趣味ですが」
上官の意外な趣味に驚くボルフ達。その光景を見て今まで黙っていた男が、レオナルドに話しかけてきた。感心半分、驚き半分の様子で。
「‥‥腹ペコ死神を餌付けとは。フォンターナ特務大尉は、胆が座ってますな」