第37話 英雄たらんとする男
「と言うわけで、俺達と行動する事になった、アドルフ=ヒューレンフェルト大尉だ」
「しばらくの間ですが、よろしくお願いします。イェーガー大佐を始め、皆様の実力は見事と言うしかありません。共に戦える事を光栄に思います」
オイゲンは帝都郊外にある部隊詰所にて、クリストフ達にアドルフを紹介する。そして、作戦内容について語るのだった。クリストフやユルゲンは暗殺という手段をとる事に難色を示す。
「イェーガー大佐、今回の任務は気が進みません。アレサ女王陛下の暗殺が目的なのは‥‥」
「オルデンブルク少佐。立場をお考え下さい。そもそも、誰の家が原因で、このような非常手段を使わねばならないと‥‥」
「分かってるさ、ヒューレンフェルト大尉。しかし、心が割りきれんのだ。我が国の国益に叶うと知っていても、我輩もなあ」
国家元首の暗殺は、古今東西よくある話だ。しかし、外国の思惑が絡むと大きな反発を招きかねない。今回の作戦。ドラーム帝国が表だって動けば、ノルディン国民の怒りと憎悪を買ってしまう。故に、クリストフとユルゲンは躊躇している訳だ。
「ご安心を。イェーガー大佐の隊は、バロル大公の援軍扱いです。暗殺は私の隊が行います。決して、ドラーム帝国の仕業とは思わせません」
「ヒューレンフェルト大尉。君は良いのか? 汚名を被りかねないこの作戦に参加して」
仮に成功したとしても、軍内部では任務の事は知られる。結果、汚れ仕事専門の部隊として見られるのは間違い無い。しかし、そんな事はアドルフにとって些事のようだ。
「私は上を目指したいのです。そして、いつかは英雄になりたい。多くの者が称える英雄にね。その為には、多少の汚れ仕事は造作もありません」
オイゲンは、アドルフの考えに危険なものを感じる。自分自身の栄達のためなら、何でも行いそうだったからだ。やはり、初めて会った時の印象は間違いではなかった。
それに、ベルントがアドルフから距離を置きたがっているのを感じた。彼には、強運とは別に災いをもたらす人物を見極める才能がある。なので、そういった人物からは離れたがる傾向があった。オイゲンは少し早いが、アドルフとの顔合わせを終わらせる事にする。
「ヒューレンフェルト大尉、ご苦労だった。下がってくれて構わない。また、作戦会議の時に会おう」
「はっ。それでは、失礼致します。またお会いしましょう」
アドルフは詰所を出ると自ら乗ってきた車へと乗り込む。エンジンをかけ、街へと向かう車中でアドルフは考える。
「なかなか使えそうな部隊だな。いずれ、俺が上へと上り詰めた時に手足としてこき使うとしよう。まずは、今回の作戦だな。アレサ女王陛下。俺の英雄となる為の踏み台になってもらおうか」
一方、オイゲン達はアドルフについての論評を行っていた。まず、声を上げたのはベルントだった。体は震え、顔面は蒼白であった。
「イェーガー大佐。ヒューレンヒェルト大尉は、イザベッラ姫以上に危険な男です。自分の欲望の為なら、他の人々を使い捨てでも達成しようとするでしょう。気を付けるべき人物かと考えます」
「ギュンター少尉。奴を過大評価し過ぎだ。才はあろうが、英雄たる器ではない。自信過剰にして、尊大な態度。あのような小男に何が出来る」
クリストフは、自分の実家を批判された事でかなり怒っていた。故に、どうしても感情が先立ち視野が狭くなっている。そう考えたオイゲンは、黙っているユルゲンに尋ねた。
「ライペール少佐。君の意見は?」
「ふむ‥‥。彼は大成するかも知れませんな。もっとも、時流に乗れればですがね。とはいえ、ドラーム帝国が無くなれば彼の野望は水泡と化す。我輩としては、今ある危機を解決すべきと考えますが」
ユルゲンの意見にオイゲンはうなずく。アドルフの野望は警戒すべきものだが、今ある危機を解決しない事には始まらないからだ。
「確かにドラーム帝国存亡の時だ。個人の野望を成すには、国を守らねばならんか。まずは、ヒューレンヒェルト大尉のお手並みを拝見してから、対策を練る。それでいいかな?」
オイゲンの言葉にうなずく一同。後に敵対し、壮絶な戦いを演じるアドルフとオイゲンによる初めての。そして、最後の共同作戦がこれより始まった。
次回より、レオナルド達の視点に戻ります。




