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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第2章 オイゲンの受難
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第32話 アレサ=デュレールの決断

登場人物が増えて来ます。アレサはノルディン連合王国の女王様で、後書きで嘆き節を連発していた人物です。

帝国暦1856年4月21日。ドラーム帝国の中枢たるノイエ=ドラオム宮において、同盟会議が開かれた。イザベッラにとっては初めての国際会議だ。ようやく、この場に立てた彼女は喜び、満面の笑みを浮かべながら挨拶を始める。


「皆様、新しく同盟に加わります。イダルデ解放軍代表、イザベッラ=エマヌエールですわ。これから、よろしくお願い致します」


イザベッラの挨拶に、まず盟主たるドラーム皇帝が立ち上がった。カイゼル髭が印象的な威厳ある佇まいを感じさせる男である。だが、諸国からは戦馬鹿や巨大兵器マニア。果ては軍事以外は無能と称される人物だった。名政治家として名高い前宰相、オットー=フォン=ビルメイスは彼をこう酷評した。


『ドラーム帝国の帝冠を渡すには不適格。先帝陛下にフリードリッヒ殿下しか後継ぎがいなかったのは、最大の過ちであった』


フリードリッヒが皇帝になって、最初に行ったのはビルメイスの更迭であった。ビルメイスは、その仕打ちに呆れ果てて職を辞し、自身の領地で隠居生活を送っている。また、軍事面でも自分の戦略に反対する名参謀ヴィルヘルム=フォン=モルト大将を退けた。先帝を支えた偉大な2人を引退させ、皇帝親政を行う彼に不安を覚える者も多い。


「ドラーム帝国皇帝フリードリッヒ=ボルフェルンだ。よく参られたイザベッラ殿。イダルデ解放軍が我が同盟に加わる事、嬉しく思うぞ。では、他の方々の紹介をしよう。こちらが、ノルディン連合王国女王でいらっしゃるアレサ=デュレール殿だ。先王の急死で苦労しているが、なかなか優秀な政治家である」


紹介されたアレサは立ち上がり、イザベッラに一礼する。白銀の髪を靡かせ、女性として見事な容姿を持つ彼女。その美貌は国内外問わず、多くの男達を虜にしている。だが、今の彼女は不機嫌さを少しも隠してはいない。イザベッラを見る赤い瞳は、とても冷ややかなものだ。それに気付いたイザベッラは、慇懃無礼な挨拶を行う。


「初めまして、アレサ様。私と同じ立場のようですわね。少しでも仲良く出来ると良いのですけれど」


「ふん、亡国の姫よ。比べるのもおこがましいわ! アレサ殿は国を治め、立派に為政者として君臨している。しかるにイザベッラ殿、貴女は何を為した? 俺が聞く限り、昔の恋人の愛しき女性を惨殺したと聞くだけだがな」


強烈な毒舌に場が凍りつく。毒舌の主は、トルド帝国皇太子イブラヒム=アグデウルだ。黒髪に精悍な顔つきに、筋肉質な見事な体躯は見る者を圧倒させる。そんな男が、イザベッラに辛辣な台詞を吐いたのだ。当然、彼女も黙っている訳もない。


「あら、東の蛮族は礼儀も知らないのかしら? それに私は今から活躍して見せますわ。イダルデ全土を取り戻し、ロマルク帝国を倒す。それが、私達イダルデ解放軍の悲願ですから!」


「言うだけなら誰でも出来ます。しかし、貴女はただの飾りに過ぎない。政治と軍事について語れますか? 優秀な人材を登用してますか? 何もしない為政者など必要ありませんわね」


「まことアレサ殿の言われる通りよ。貴女の妹のせいでギレブー王国も混乱していると聞く。姉妹そろって、疫病神よな」


アレサとイブラヒムの辛辣な言葉を聞き、顔を真っ赤にして憤るイザベッラ。2人も負けじとにらみ返す。会議場が一触即発となる中で、イブラヒムはフリードリッヒを問い詰める。


「ドラーム皇帝よ。本気でイダルデ解放軍を同盟に加える気か? 前大戦のイダルデの愚行、忘れた訳ではあるまい?」


マルコ=フォンターナを更迭し、包囲網を崩壊させたイダルデ王国の愚行は大陸諸国に広まっている。前回の二の舞は避けたいと考えるイブラヒムの問いかけに、フリードリッヒは胸を張る。


「指摘はもっともな事だ。しかし、イダルデ解放軍が対ロマルク同盟に加われば、4方面での作戦をロマルク帝国に強いる事になる。それにイダルデ解放軍を加える事で、ギレブー王国も参戦してくれた。ギレブー王の妻はイザベッラ姫の妹だ。姉の説得に応じ、快く同盟に参戦してくれたよ。これで5方面での作戦が展開出来る。悪い話ではない」


ドラーム皇帝は、親ロマルクの一角であるギレブー王国を同盟に加えたイザベッラの功績は大きいと主張する。しかし、アレサとイブラヒムは呆れ果てた。新しいギレブー王は凡庸で、妻の言いなりだ。説得など必要ない。更にイブラヒムの指摘の通り、王族と貴族、国民が対立している。とても戦争が出来る状況ではない。


更にトルド帝国にとって、ギレブー王国はバルケニア半島の覇権を争う宿敵である。それを味方として扱うなど、トルド帝国の人々が許すはずもない。


「‥‥ドラーム皇帝よ。我らトルド帝国はギレブー王国やイダルデ解放軍とは共に戦えん。同盟離脱も検討するが、よろしいのか?」


「待たれよ、イブラヒム殿下! この同盟の意義は‥‥」


重要な事を何も聞かされず、苦虫を噛み潰す顔のイブラヒム。とはいえ、同盟離脱はブラフである。トルド帝国としては、ロマルク帝国の脅威を無視できない。より良い条件をドラーム帝国から引き出す演技であった。それとは知らず、焦るフリードリッヒ。しかし、この茶番を見たアレサは決然と立ち上がるや宣言する。


「最早、これまでですわね。ドラーム皇帝陛下並びにトルド帝国皇太子殿下。長らくお世話になりました。ノルディン連合王国は本日を持って、反ロマルク同盟を離脱します。幸い、エゲレース王国とフラメア共和国と対等な同盟も結べましたし。これ以上、大国の走狗として働くのはごめん被りますから」


「なっ、アレサ殿待たれよ! ドラームを裏切るおつもりか?」


「はい。土壇場で頼りにならない同盟国など必要ありませんので。イブラヒム様も同盟の離脱を検討した方がよろしいですわよ。ドラーム帝国は、ギレブー王国に対し、バルカニア半島の大幅な支配を認めてるようですし。それでは皆様、ご機嫌よう。北の大地より、見守っていますわ」


悠然と立ち去るアレサに、フリードリッヒもイブラヒムも呆然と見送る他は無かった。イザベッラは邪魔者がいなくなったとほくそ笑むだけだ。その場にいた官僚や軍人の中には、失神する者や頭を抱える者、絶望のあまり泣き出す者等が続出した。こうして、同盟会議はイダルデとギレブー2国の参加とノルディンの離脱という最悪の形で幕を下ろしたのである。







アレサの行動はエウロパ大陸に衝撃をもたらします。


アレサ「これ以上は国力が持たない。ちょうど良い機会だから、利用させてもらうわ。イダルデとギレブーが我が国の代わりになるでしょうしね」

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