第31話 喫茶室にて
オイゲンの副官達の登場です。苦労人オイゲンを影から支える有能な二人です。
オイゲン達はホテルの喫茶室へと向かい、個室を借りる。注文した飲食物を店員が持ってきた後、彼らは先程会談したイザベッラについて語りだした。解放軍代表イザベッラ=エマヌエールと会ったドラーム人は少ない。オイゲン達は、軍上層部より『どのような人物なのか詳細に報告せよ』との命令を受けている。故の話し合いだった訳だが‥‥。
「くそだな。性格は悪いわ、ヒステリー起こすわで散々だ。為政者としても話にならん。誰だ、あんな奴を味方に引き込んだのは!? 今日は厄日にも程があるわ!」
「僕も会いたくないですね。近づいただけで、確実に運気は下がりますし。あれは人を不幸にするだけの疫病神です」
「おお、何と恐ろしき地獄の女神。醜悪なる心を体現する邪悪な笑みに、我らはただ凍りつくのみであった」
「諸君、真面目にしてくれませんか? 確かに人柄は酷すぎますがね。陛下もどう接して良いか、悩まれてるようですし。しかし、あれ程酷いとは‥‥。父上も何を考えて、陛下に彼女を味方に加えるよう進言したのか分からないな」
「「「貴方(お前)の父上が原因かい!! どうするんだよ、あれは?」」」
オイゲンとベルントは、金輪際会いたくないと主張。1人に至っては詩を吟じ始める始末だ。オイゲンの副官たるクリストフ=フォン=オルデンブルク少佐は頭を抱える。茶髪に青の瞳。軍服姿も完璧であり、真面目が板に付く男振りであった。たが、その顔つきは疲れで精彩を欠いている。
「そ、その事については申し訳なく思います。ですが、今は対策を考えねば」
「我輩は至極真面目だぞ、クリストフ。とはいえ、だな。あのような女性と出会って、我輩の繊細な心は傷ついている。故に詩を‥‥」
知性溢れるが小太りな男がそう嘆くも、クリストフは気にも止めない。いつもの事だと受け流す。彼の嘆きに付き合っては時間がいくらあっても足りない。
「分かった、ユルゲン=フォン=ライペール少佐。少し黙っててくれ。イェーガー大佐、彼女の人柄はこの際です。置いておきましょう。重要な事はドラーム帝国に役立つかです」
対照的な2人の副官、クリストフとユルゲンは先の戦闘に関わっていない。部隊と共に、オイゲン達の帰りを待っていたのだ。そしたら、彼らは戦車無しで歩いて帰ってきた。話を聞けば、腹ペコ死神、閃光ボルフに魔王ウラディミルと戦ったと言う。命があるだけでも奇跡と言って良い。
平民出身とはいえ、オイゲンは優れた指揮官である。クリストフとユルゲンは軍上層部に働きかけ、オイゲンの失態を問わないよう願い出た。オルデンブルク家は建国以来の武門の名門で、侯爵家だ。ライペール家は名だたる文官を輩出した伯爵家である。さすがに、軍上層部も2人の嘆願を考慮しない訳にはいかない。
また、腹ペコ死神等と少数で戦って勝てと言うのは無理難題との声もあった。軍関係者のオイゲンに対する同情論も強く、軍法会議にて不問とされたのは記憶に新しい。
「クリストフ。あれを見て、まだ君はイザベッラ姫が役に立つと思うのかね? 彼女は言うなれば、大人になりきれぬ餓鬼に過ぎぬ。解放軍の旗頭があれでは、とてもとても頼りにならんよ」
「ユルゲンの言う通りだな。百害あって一利無しと言う言葉もある。現に、ノルディン連合王国とトルド帝国は難色を示しているのだろう? 下手をすると同盟が崩壊しかねんな」
「簡単に想像出来ますね。『レオナルドは私の物よ』とか言って、軍を率いて突撃する様が。フォンターナ中佐を餌にしたら、どんな罠にでも食いつくでしょう」
散々な言われようであるが、正論すぎて何も反論出来ないクリストフ。イダルデ解放軍との連携は、オルデンブルク家が主導で動いていた。イダルデ戦線を構築し、敵の更なる戦力分散を図る。戦略上は、当たり前のこの判断。ところが現実は厳しいものである。イザベッラが馬鹿すぎて、イダルデ解放軍を制御出来るかが難しいのだ。
「クリストフ、親父さんに伝えとけ。あの女は駄目だ。使えば使う程に、ドラーム帝国や同盟に致命傷が増える。明日の同盟会議、荒れなきゃ良いけどな」
「イェーガー大佐、確実に荒れますよ。会議でも『私が主役よ』って言いそうですもん」
「我輩もベルントに1票だ。父上達の働きに期待するしかあるまいな」
「ううっ、胃が痛い。何か有れば、我が家の責任になりかねん。どうして、父上はイダルデ解放軍を同盟に加えようとしたんだ!」
オイゲン達の予想通り、同盟会議は荒れに荒れた。しかし、今回の会議が大戦終結への始まりになる。そうなる事をこの時はまだ誰も知らなかった。
同盟会議でもイザベッラはやらかします。




