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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第2章 オイゲンの受難
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第30話 宮仕えはつらいよ!

2章は、オイゲン達の話。色々な人物に振り回されます。

ドラーム帝国帝都ベルゲン。質実剛健を国是とするドラーム帝国の帝都は、華美な装飾を排し、重厚な佇まいを感じる建築物が多く見られた。その中でも目立つのが、帝都の一等地にそびえる最高級ホテルベルガーだ。ホテルの最上階にあるスイートルーム。政財界の要人の多くが愛用するこの場所で、4人の男達は己の心に宿る殺意との戦いに身を投じていた。


殺意の原因は、目の前にいる金髪巻き毛の女性だ。イザベッラ=エマヌエール。イダルデ王家直系の最後の生き残りにして、イダルデ解放軍の代表である。


「‥‥ベルント君、彼女殴っていいかな? 女に優しい俺も我慢の限界のようだ。ここは必殺の右アッパーの出番が‥‥」


「落ち着いて下さい、イェーガー大佐! 僕もゼリシュ大尉のように、あの鼻めがけ唐辛子をぶちこみたいのを我慢しているんです。耐えて下さい!」


レオナルドが心配していたイェーガー大佐達は、彼の予想通り彼女の呼び出しを受けた。レオナルドの近況を聞く為だけにだ。しかし、オイゲン達の忍耐力も限界に近い。彼女に聞こえない程度の声で物騒な話をする2人。そんな彼らを尻目に、イザベッラは高笑いする。


「おーほっほっほ。さすがはレオナルドだわ。突風オイゲンを軽くひねるなんて。イダルデ解放軍に是非とも迎えたいわね。それにしても、ドラーム帝国も弱くなりましたね。まっ、そんなドラーム帝国ですけど、私達が力を貸せばロマルク帝国を何て軽く倒せますわ!」


((((それはねえよ! ていうか、泣き付いてきたのは、お前らだろうがああああ!!))))


オイゲン達の心の叫びは、くしくも一致した。何故、イダルデ解放軍が反ロマルク同盟に参加しようとしたのか? 答えは国民の不満を外に逸らす為だ。


イダルデ解放軍は度重なる失政に加え、派閥による内部抗争も激しい。このままでは組織を維持できないと判断した上層部は、反ロマルク同盟に参加を決断。結果、ロマルク帝国という共通の敵が出来た解放軍は、再びまとまりを取り戻しつつある。


「イザベッラ王女様、彼らはドラーム帝国の軍人です。同盟を組む以上、礼節をお守り下さい。それと我々の方が小国であり、立場は弱いのは明らか。今少しの自重をお願い致します」


イザベッラの近くに控えていた老人が、すかさず諫言をする。彼の名は、マリオ=ベルリーニ。かつては、エマヌエール王家に仕える侍従長であった。イダルデ王国滅亡後も王家に仕えており、数少ない忠臣の1人である。高慢なイザベッラもさすがに頭が上がらない人物だ。


彼は理解していた。イダルデ解放軍の実力は、イダルデ半島の中央のみを支配する弱小勢力である。そして、立ち位置に関してはそこらの軽石並みに軽い。今回の同盟参加が認められたのは、ドラーム帝国の戦略だからにすぎない。全てはロマルク帝国軍を分散させ、各個撃破する囮に使われるだけだ。そんな自分達が、ドラーム帝国の軍人たる彼らを侮辱するなど、もっての他である。


「‥‥爺、分かってますわよ。ところで、イェーガー大佐。レオナルドの側に女はいなかったかしら? 私のレオナルドに、悪い虫がついたら大変ですわ」


「‥‥そうですなあ」


不機嫌になったイザベッラは、オイゲンに問い質す。イザベッラにとって、レオナルドは今でも夫になる男だと考えていた。今までのやり取りにうんざりしていたオイゲンは、イザベッラにささやかな反撃を行う。


「そういえば、いましたな。腹ペコ死神と呼ばれる女兵士がね。端から見てもかなり親しかったですね。どうかなさいましたかな?」


本当に付き合っているかは、オイゲンにも分からない。だが、エルザをイザベッラの的にする。上手くいけばエルザを倒せるし、悪くても怪我を負わせる可能性が出てくるはず。そう計算したオイゲンもイザベッラを見て、目を見張る。憤怒の表情を顔に浮かべたイザベッラが、持っていた扇子を力任せにへし折ったからだ。


「‥‥またなの。レオナルドったら、下賤な娘ばかり好きになるんだから。うふふっ、その女もワンちゃんと戯れさせないと駄目かしら?」


猟犬と戯れさせる。かつてイザベッラが行った悪行を思い出し、恐怖するオイゲン達。そんな彼らに気づき、マリオは慌ててイザベッラを侍女達に命じて下がらせた。イザベッラは、侍女達によって別室へと強引に連れていかれてしまう。


「お待ちなさい! まだ聞きたいことがあるの。名前は? 年格好は? ちょっ‥‥」


侍女達の努力は実を結び、イザベッラは部屋から強制退場させられた。扉が閉まり、辺りは静寂に包まれる。あっけに取られたオイゲン達に、マリオは深々と頭を下げた。


「皆様、お話ありがとうございました。どうぞ、お引き取りを。それとここでの話は、他言無用でお願い致します。些少ではありますが、こちらをどうぞ」


「‥‥貴方も大変だな。どうして未だに忠誠を尽くすので? あのような馬鹿は捨てれば良い」


「イェーガー大佐もなかなか言われますな。簡単ですよ。馬鹿を放置すれば、更なる厄災を招くは必定です。私はイダルデ王家に長年仕えて参りました。なれば最期まで付き従い、最小限に被害を抑えるのが使命と考えておりますので。それでは皆様、御機嫌よう」


オイゲンに金塊が入った鞄を渡し、マリオは毅然と扉の奥へと向かう。金切り声と激しい物音がする部屋に物怖じせず、入っていくマリオ。そんな姿を見たオイゲン達は敬礼で見送る。


((((真の強者がいる! しかし、宮仕えは辛いな))))








イザベッラをエルザにぶつけるこの策。オイゲンは、後に死ぬほど後悔します。

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