第27話 マルコ=フォンターナ
レオナルドの素性が明らかになります。
ジャンボピザを見た5人は絶句する。でかい、でかすぎる。普通のピザが4枚位重なったボリュームだからだ。
「高級料理店じゃ出せねえが、隣の酒場なら出せるメニューの試作品さ。普通のピザ窯じゃ焼けねえからな。オーブンで焼いてみた。さあ、熱いうちに食え」
マルコはそう言って、ナイフで切り分けた。5等分に切り分けられた威圧感溢れるピザを見て、ブレディルが白旗を挙げる。
「マルコよ、私は60手前だぞ。若い頃ならいざ知らず、今は無理だ。食べられる訳があるまい」
「なんじゃ、ブレディル。情けないのう。わしは食えるぞ。若い衆3人はどうじゃ?」
アレクサンドルはそう言って、豪快にピザを食べ始める。その見事な食いっぷりを見たウラディミルとレナニートは、逆に食欲が著しく失せた。食べる様を見てるだけで、胸焼けを起こしそうだ。
「‥‥半分くらいなら何とか」
「同じく」
「覇気がねえな! それでも天下に名高い魔王と秀才様かよ。レオナルドはどうだ?」
「何とかいけますよ。昔の味見地獄に比べたら、まだまだ天国ですし」
レオナルドは士官学校に入るまでは、料理店の修行を学校の合間に行っていた。皿洗い等の雑用や料理を覚えるのも大変だが、一番の苦しみは味見だ。
料理人において、店の味を覚えるのは至上命題。皿洗いの際に残った料理やソースを味見し、自分の脳や舌に味を覚えさせる。あるいは、休みの時に料理を作って味を確認するなど、とにかく量を食べなくてはやってられない。
「すぐに太りますから、運動は重要です。毎日、朝晩の走り込みや腹筋背筋スクワットを100回ずつこなしてました。夏期や冬季の休暇は、軍事教練課程を率先して受けてましたよ」
「‥‥レオナルド、随分過酷な生き方してたんだな。料理人と軍人の修行を学生時代に平行してやるなんて。俺にはとても無理そうだ」
レナニートは、同情と尊敬の眼差しをレオナルドに向ける。その様子を見たマルコはため息をつく。料理人にするはずの息子が、軍人になったのは計算外だったからだ。
「結果、軍人になっちまいやがって。英雄つっても、敗北を隠す為の飾りにすぎんのにな。で? 何を悩んでんだ。俺が悩みを聞いてやるぞ。イダルデ王国元陸軍大将マルコ=フォンターナ様がな」
「相変わらず、歯に衣着せない物言いじゃな。それでイダルデ王国軍部内で、敵ばかり作ったのを忘れおったか? マルコよ」
「はん。集団でなきゃ、何も言えない連中等恐れるに足りん! 戦後、奴等の仲間が何人生き残った? ほとんどがロマルク帝国軍の前に屍をさらしたろうが」
マルコの指摘通り、イダルデ王国軍は壊滅的打撃を受け、多くの将官や上級士官は戦死もしくは処断されている。イダルデ解放軍が結成された際、旧イダルデ王国軍の将兵を集めたが下士官と兵士しか残っておらず、上層部は頭を抱えたようだ。下士官達を幹部に据え、解放軍は急ごしらえの軍隊を作り上げた。しかし、突然将官や上級士官にされた下士官達が、すぐに力を発揮出来る訳がない。結果、軍隊組織の弱体化を招き、イダルデ各地で騒乱や反乱が頻発的に起こっている。
「イダルデよりもロマルクの事を考える。それが今の俺の立場さ。息子も軍隊で世話になっているしな。ほれ、ウラディミル。とっと話しやがれ!」
「‥‥一応、軍事機密情報なんですがね。まあ、貴方なら信頼出来ますから話しましょう。何せ、イダルデ王族の子を養子に迎え入れて10年。見事な位に何もしてないんですから」
ウラディミルの突然の暴露に、ブレディルとアレクサンドルは驚いた。一方で、レナニートは落ち着いている。レオナルド本人から、士官学校時代に秘密を教えてもらっていたからだ。もう1人の親友と共に。
「待て、ウラディミルよ。つまり、フォンターナ中佐は‥‥」
「お察しの通りです。ゴルバ大将閣下、レーム少将。他言無用に願いますよ。他に知っているのは、皇帝陛下だけですから」
「ウラディミルよ。わしらに教えたのは、フォンターナ中佐を守れと言う事か? わしは構わんぞ。この若いのは、見ていて面白いからな」
そう言って、アレクサンドルは隣のレオナルドを思いきり左手で抱き寄せた。その剛力のせいか、痛みで顔をしかめるレオナルドを見て全員同情する。
((((あれは痛いわな。))))
マルコ=フォンターナ、近隣諸国の評価
ドラーム帝国「軟弱なイダルデ王国軍にあって、最高の名将である事は間違いなかった。なのにロマルク帝国で料理人になりおって~~。しかし、奴の料理上手そうだな。食べたい」
イダルデ解放軍「おのれーー、裏切り者め。ロマルク帝国で働くとは、イダルデ王国人のプライド無いのかああ。‥‥あれ、殴ったね?マンマにも殴られた事無いのに。や、止めてください、散々足を引っ張ったの謝りますから!!」
トルド帝国「イダルデ王国軍の英雄だ。つーか、他の奴らひどすぎだもの。物資届けに荒野の陣地まで行ったら、連中スパゲッティを盛大に茹でてやがった!その水は俺らが持ってきたんだよ、馬鹿野郎!」
ノルディン連合王国「あーー、食べたいなあ。ミヴラの料理、どれも美味しいし。何とか密入国出来ないかしら?」
スヴェース連邦「俺らの戦友だ。イダルデ王国軍は弱かったからな。よく旦那には雇ってもらったもんさ。しかし、料理人になるとはねえ。昔から料理はプロ級だったから、なってもおかしくはないがな」




