第26話 アーンナ排除の理由
アーンナが降格、左遷された裏事情です。
「レノスキー少将閣下。今回のエシェンコ少尉の件、厳しすぎると思いますが、何か事情があるのでしょうか?」
査問会の翌日、レオナルドの実家たる高級料理店ミヴラにて秘密の会合が開かれた。参加者は、ブレディル=ゴルバ大将を筆頭に、ウラディミル=レノスキー、アレクサンドル=レーム両少将。レオナルドとレナニートを加えた5人である。
場所は店舗に囲まれた中庭中央にあるテーブル。誰かが来てもすぐに分かるような作りになっており、密談には最適の場所である。今後の兵站に対する方針を議論する予定だったが、レオナルドが開口一番疑問を呈した。何故、アーンナを吊し上げたのかだ。
「失礼ながら、金銭での買収等は貴族将校のお家芸。パーヴェル先輩の件では、エシェンコ少尉に怒りを覚えましたが、他の件は貴族達と変わらぬはず」
「フォンターナ中佐、疑問はもっともだ。理由は簡単な事でな。帝国上層部は女性佐官を作りたくないからだ。私としては無能でなければ、エシェンコ少尉を潰す気は無かったがね」
「そんな事を言っとる場合か! こうしてる間も永久氷河は国土を飲み込んでおる。男女皆兵の理念に基づき、第一次エウロパ大戦と今大戦を戦っているのじゃ。有能なら、男女関係無く登用せい!」
アレクサンドルの言う永久氷河は、100年前よりロマルク帝国の国土を氷の世界に閉じ込めてきた。現在、第一次エウロパ大戦時のロマルク帝国国土の7割が氷河に覆われている。今後も氷河が広がりを見せるとなれば、帝国存亡の時である。
「レーム少将はともかく、他のお偉方がうるさいのですよ。『女性士官は頭脳になれない。手足で十分だ』と言う輩が多い。皇子達も同意見ですので、これからも難しいでしょうな」
「男女皆兵になった理由は、より多くの国土を奪う為と戦う兵士を増やす事にある。今の状況では出世も期待出来ず、女性士官達の士気が落ちてしまう。だからこそ、エシェンコ少尉には期待していたのだがな」
ブレディルはため息をついて、肩を落とす。あと少しで少佐になれそうだったアーンナ。とはいえ、あまりに脇が甘すぎた。付け入る隙が多すぎて、見事降格の憂き目にあってしまう。
「あの女の事はどうでも良ろしい。しかし、女性士官の登用はすべきです。数ある職業の中から、軍人を選んでくれた女性達を失望させてはいけないと思います」
レナニートは、軍に入る女性が減る事を危惧する。女性達の戦いぶりは目覚ましく、男性兵士にも負けるとも劣らない強さを見せてくれる場合もあるからだ。それに男は女性の前では頑張るもの。多少空回りする事も折り込んでの女性登用でもある。
「つまり、帝国の旧態依然たる状況とエシェンコ少尉の素行の悪さが重なり、今回の処分になったと?」
「情けない話だがな。陛下は登用を望んでおられるが、上手くいっておらん。突破口があれば良いが」
5人が考え込んでいると1人の男が中庭に入ってきた。白髪と切り揃えられた髭が印象的なこの人物こそ、レオナルドの父マルコ=フォンターナである。
「何だ、何だ?辛気くさいな。男5人で暗くなっているんじゃねえよ!ほら、これでも喰いやがれ。腹ペコ死神も認めたジャンボピザだ。うめえぞ」
レオナルドの父、マルコ=フォンターナ登場。ただ者ではありません。




