第23話 アーンナ降格
今回は少し長めです。
「‥‥驚いたぜ、隊長に婚約者がいきなり出来るとはな。しかも、エルザを引っ張って行きやがった。目利きにも程がある」
エルザのレオナルドに対する想いを知っていたボルフ。相手は貴族の令嬢だ。エルザが、何か仕出かしそうで焦りを隠せない。どんな修羅場になるか、想像するだけでもぞっとする。
「ヤルステイン中尉、彼女もなのか? まあ、レオナルドは昔から女にモテたからな。ただ、本人が恋愛を拒否しているんで、泣いた女は数知れず。最も理由を聞けば、納得するがな」
レナニートは、かつてレオナルドに女性との付き合いを避ける理由を尋ねた事がある。その理由を知り、女性不信にもなると心の底から同情したものだ。
「隊長、あえて聞きます。スタンコ少尉をどう思われてます? 彼女はただの戦友なのか。それとも愛しく想う女性なのか。はっきりせねば、将来に禍根を残しますよ」
ゼリシュ大尉の忠告を聞き、レオナルドは決心する。心に秘めた思いを口にする事を。
「確かにスタンコ少尉‥‥。いや、エルザには正直言って心を動かされた。似ているんだ、死んだ恋人に。無口で無愛想な所もそっくりさ。彼女と話してると懐かしい気持ちになる。イダルデでの楽しかった事を思い出すよ」
イダルデ王国にいた頃の恋人は、共にいて楽しい女性だった。料理を作ったり、狩猟をしたりしてよく遊んだものだ。彼女と結婚するはずだったのだが、ある人物によって殺されてしまう。その事実が、レオナルドがイダルデ王国を捨てた真の理由である。知っているのは、レナニートともう1人の親友だけだ。
「珍しいですな。隊長がプライベートを語るのは。まあ、深い所はいずれ話してもらうとして。しかし、ルイシコフ技術中尉はエルザをどう思うかですな。オーブルチェフ少佐、その辺の所はどうなんですか?」
「サーラなら大丈夫だ。恐らく、スタンコ少尉を引き込むつもりだろう。腹ペコ死神を味方にすれば、有象無象の女性を排除出来るからな」
さすがの女性達も、腹ペコ死神の想い人を奪おうとはしない。エルザは強力な番犬となり得る。グレゴールはサーラの考えに感心する。
「計算高いですなあ。だが、彼女は優秀ですぞ。軍用トラックや兵員輸送車等の車両開発に定評があります。おかげで、兵站部隊が楽になりました。鉄道輸送の後が馬車では、どうしても遅くなりま‥‥」
「ちょっと、こんな所にいたの? 私、散々探し‥‥、レナニート、どうしてここにいるのよ!!」
話に割って入ってきたのは、アーンナだ。昇進した4人と違い、隊員達と一緒にいた彼女は彼らを引率し、基地まで軍用トラックで送り届けていた。レオナルド達を探して見つけたと思ったら、会いたくない男に出くわしたのだ。自然と声を荒げてしまう。
「これは、これは。我が親友を裏切った悪女ではありませんか。それと俺は少佐だ。口の聞き方に気をつけたまえ、エシェンコ少尉殿」
「な、何で二階級降格してるのよ?」
レナニートの言葉に、動揺を隠し切れないアーンナ。降格の理由が分からないからだ。レナニートは、そんなアーンナに冷酷に告げる。
「理由は3つ。まず、君の能力不足。前回の作戦。副官として配属されながら、戦闘指揮はヤルステイン中尉が中心に行っている。文書の真贋の見極めと精査はゼリシュ大尉だ。そして、部隊指揮はフォンターナ中佐。さて、貴官は何をしていた?」
「そ、それは」
「次は、素行の悪さ。貴官は、下士官や女性士官を召し使いと勘違いしてるのではないか? やれ、『化粧品を寄越せ』『洗顔クリームを買って来い』など強要されたと軍務省に苦情が来てるんだが?」
「‥‥」
「最後だ。俺の親友、パーヴェル=ルイシコフ中尉の件。パーヴェルは、作戦通りに囮役を買って出た。だが、君の元上官が自白したよ。ブレディエフ大佐の一族だったせいで、余罪を吐かす為に拷問を受けてね。『作戦と嘘をついて、ルイシコフ中尉が自分達の為に我が身を犠牲にしてくれる。だから、さっさと撤退しましょう』と貴官が笑いながら進言したとな。反論はあるか?」
自分の過去が次々と明かされるも、アーンナは必死に言葉を考える。黙れば、認めたのと同じだからだ。
「ち、違うの。本当に、彼は犠牲になるつもりだったのよ。だって、私は‥‥」
「聞き捨てなりませんね。その言葉」




