第22話 婚約者と恋敵
アーンナの悪事がばれ始めます。
「ルイシコフ技術中尉、どういう事ですか?」
「そのままの意味だよ。僕は、フォンターナ中佐の婚約者。陛下にも認められてるんだ。ねえ、スタンコ少尉。ちょっと話し合おうか?」
あっけに取られる男性陣をおいて、サーラはエルザを中庭まで連れてきた。周りでは、多くのカップルが思い思いに談笑している。そんな中で、サーラはエルザに問いかける。
「スタンコ少尉もレオナルド様の事、好きなんだよね?だったら、協力しない?レオナルド様に群がる羽虫を蹴散らすんだ。‥‥僕さ、認められる恋敵以外は潰す事にしてるからね」
サーラの瞳の光彩が消え失せ、黒い瞳の中に狂気が芽生えている。その狂気は歴戦のエルザですら震えさせるものだった。
だが、エルザも負ける訳にはいかない。レオナルドを諦めるつもりは無かったからだ。
「協力の見返りは? 私はレオが好き。ルイシコフ技術中尉相手でも負けません」
「サーラで良いよ。見返りは、スタンコ少尉と僕でレオナルド様を共有するの。子供も作っていいよ。スタンコ少尉、ううん。エルザとなら、上手くやっていけそう。お兄様も腹ペコ死神の事をよく話してくれてたから、親近感沸くし。でも、あの女は駄目。エシェンコ大尉殿は」
サーラは激しい敵意をアーンナに向ける。エルザは思い出す。かつて男性士官の1人がアーンナに恋をし、無謀な任務に挑んで亡くなった事を。レオナルドと同じ位、親切に接してくれたその人物の名は‥‥。
「パーヴェル=ルイシコフ中尉。サーラのお兄さん?2年前、ドラーム帝国軍に突撃して部隊ごと全滅した」
「うん。お兄様は優しくて純粋な性格だから、エシェンコ大尉の腹黒さに気付かなかった。あの時、お兄様はエシェンコ大尉に突撃を命じられたんだ。まず、突撃をかけて混乱した所を残りの部隊で強襲するって作戦」
だが、それは裏切られた。アーンナは、上官に撤退を進言。上官に進言を受け入れられた結果、パーヴェル率いる小隊は孤軍奮闘するも全滅する。パーヴェルは、自らを犠牲にして味方を助けた勇士として称えられた。
「でも、そんな名誉いらなかった!優しいお兄様が帰って来てくれれば良かった!だから、復讐するの。あの女が狙った男を横から奪い取る事で。あっ、だからって、レオナルド様の事は本気で好きだよ。好きじゃない人と結婚する趣味は無いからね~~」
意外と激しい気性を見せるサーラに、エルザは面白いと感じる。感情をおもむくままに出すのは、貴族の女性としては失格だろう。だが、人間としては当然の事だ。その当たり前の感情を大事に出来る女性となら上手く付き合えそうだ。
そして、亡くなった彼から聞かされていた彼女を実際に見て、好感を抱いたのも事実である。サーラと協力する事を決意したエルザだが、釘を刺すのを忘れない。
「‥‥分かった。提案は受ける。ただし、女としては負けない」
エルザは、サーラに向かって右手を差し出す。その手を握り返すサーラ。ここに、腹ペコ死神と後に天才発明家と言われる女性の契約は成立した。2人が亡くなるまで続く、この契約。後にもう1人加わるのだが、それはまだ先の話である。
「それでこそ、だね。受けて立つよ、エルザ」
「ところで、サーラ。どうして私の事を呼び捨て?」
エルザは気にしていた。年下にしか見えない女性に、名前を呼び捨てにされている事に。その事に、気付いたサーラは頭をかく。
「あーー。僕はこう見えて、20歳なんだよね。エルザより2歳年上」
「嘘、てっきり年下に見えた」
童顔で低身長であるサーラは、どうしても年齢を間違われる。酒を注文したら、酒場のマスターに怒られ、ジュースを渡された事もあった。
「むうう、どうして幼く見えるかな?出る所は出てるのに」
「‥‥サーラ、胸揉ませて!どんな感じか知りたい」
コンプレックスを刺激され、怒り心頭のエルザは軍服の上から、サーラの豊かなそれを揉みしだく。
「ち、ちょっと。エルザ止めて、謝るから~~」
ちなみに、周りの男達がその光景を見て鼻を伸ばしていた。そして、激怒した女性達に肘撃ちを喰らって、悶絶していたのはご愛嬌である。
エルザ、サーラの胸を堪能しながら。
(元隊長の恋人がエシェンコ大尉。運命の女神もいたずらをする。とりあえず、問いただして下らない言い訳するなら殴る)
サーラ「そ、そろそろやめない? 何かいけない事に目覚めそう」
エルザ「‥‥なかなかの膨らみ。あと、目覚めても大丈夫。私がかわいがってあげる」
サーラ「何で、こんなに手慣れてるの?エルザって一体何者?」




