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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第1章 左遷からの復活
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第1話 左遷の原因

金髪碧眼で均整のとれた体格を有する男は、とある理由で営倉に収監されていた。ようやく営倉から出され、軍の出頭命令に従い、向かった先がとんでもない場所で‥‥。


「フォンターナ少尉、非常に残念だよ。君のような優秀な人材を兵站部隊に送らねばならないのだからな」


時は帝国暦1856年4月8日。エウロパ大陸東方の大国ロマルク帝国、帝都サンベルグ。皇帝が住むクレミアル宮殿近くにある軍務省に、レオナルド=フォンターナ少尉は呼び出されていた。2階奥の執務室の主たるブレディル=ゴルバ陸軍大将によって。


彼は今年57歳になるが、眼鏡の奥の青い瞳は鋭く未だ衰えていない事を物語っていた。体型も若い頃と変わっていないが、唯一の悩みが髪の薄さであろう。今回の出来事に心底不服なのか、光輝く頭に青筋が浮き出ている。


「ゴルバ大将閣下。小官が異動する理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「理由は2つだ。1つは、君の上司であるスダール少将の失策だな。ミハイル陛下もお怒りを露わにされている。さすがに、無策で兵を2万も失っては弁解の余地もなかろう」


1週間前、ロマルク帝国は南方の大国であるトルド帝国との戦争で敗北を喫した。指揮官であるスダール少将の作戦は、敵にあっさり見抜かれ、帝国軍は壊滅。トルド帝国軍部は、久々の大勝利に沸き立っているらしい。この惨敗劇に怒り心頭の皇帝は、作戦に参加した尉官以上の軍人を1階級降格させる勅令を発した。無論、スダール少将が最も重い処罰を受けたのは言うまでもない。


「恐れながら申しあげます。スダール少将閣下の作戦は、戦略の常道を逸したものでした。私は何度も再考を進言致しましたが、坑命罪で営倉行き。営倉から出た時には‥‥」


ブレディルは、レオナルドの言葉を手を挙げる事で遮る。その辺の事は、関係者からの聞き取りで分かっていたからだ。


「貴官の言い分は分かる。はっきり言おう、奴は能無しだ! 昔は実に優秀な若手将校であったのだがな。とはいえ、5年も前線を離れていれば劣化は避けられまい。しかも、最近は宮廷婦人との度重なる火遊びに現を抜かしていたと聞く。だが、そんな少将も既に罪を償った。一族もろとも粛清され、全財産は没収されている」


スダール少将は軍法会議にかけられ、死刑を言い渡された。本人は最後まで無罪だと抗弁し、責任転嫁の見本を多くの国民や軍関係者に聞かせる事になる。これが皇帝の更なる怒りを買い、一族にまで罪を広げてしまった。


「小官もその最期を聞き、かなり驚きました。スダール少将閣下は、自らの過ちで命を奪われたのですね」


「‥‥帝国軍人として、あるまじき死に方だ。栄光あるロマルク軍の威光に泥を塗りおって!」


少将の親族は女子供であろうが関係なく、公開銃殺刑に処せられた。中には6歳位の少年もおり、泣き叫ぶ彼を軍人達が捕まえて刑場に連れて行ったらしい。それを見て、涙を流す人々が大勢いたと聞いている。しかし、彼らには同情と哀れみをもった人々もスダール少将に対しては苛烈であった。


彼が刑場に出てくるや石や卵、レンガ等が雨のように投げこまれ、慌てて軍人達が盾になる事態に。そんな暴動寸前の混乱の最中、スダール少将は火に油を注いでしまう。群衆に対して、あろう事かこう言い放ったからだ。


「私は何も恥じる事はしていない。何故なら、悪いのは私の指示通りに動かなかった部下達だからだ。どうして、私が処刑されねばならん!」


怒号と罵声が飛び交い、軍人達も彼に殺気を隠さぬ程の怒りを覚える中、一人の少女が少将に近づく。混沌とした喧騒の中で、誰もその存在には気付かなかった。


「なんだ、小娘。私に何の用だ?」


「貴方に全てを奪われた者です。家族の敵、覚悟!!」


少女は拳銃を鞄から取り出すや、少将に向かって発砲。至近から放たれた6発の弾丸は全て命中し、彼に致命傷を与えた。身体中から血が吹き出し、倒れ込むスダール少将。


「ぐはっ! き、貴様。こ、この私を、おのれ‥‥」


そう言って立ち上がろうしたが、血を吐き力尽きた少将を見て少女は拳銃を捨てた。


「お父さん、お兄ちゃん。ようやく敵を討ったよ」


敵を討って満足げな少女を、慌てて取り押さえる軍人達。その後の調べで、少女の父と兄が少将によって殺された事が判明する。それぞれ、別々の戦場で少将に諫言したのが気に障ったのか、その場で銃殺されていたのだ。事件が起きたのは昨日の昼であり、軍務省は対応に追われていた。おかげでブレディルも徹夜明けで寝不足である。


「少女に対しては、修道院送りのみで決着した。罪に問えば、国民の更なる怒りを買うからな。さて、死んだ者の事はもう良い。君の処遇についてだ。2つ目の理由だが‥‥」


ブレディルは、レオナルドに兵站部隊への異動の理由を説明する。それを聞いたレオナルドは、ため息をつく。


「過去の論文が原因ですか‥‥」





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