第17話 皇帝との謁見
「レオナルド=フォンターナ特務大尉、グレゴール=ゼリシュ中尉、ボルフ=ヤルステイン少尉、エルザ=スタンコ軍曹。以下の者は、前へ出よ! 皇帝陛下より勲章を授与される」
「「「ははっ!!」
凱旋パレードの後、ロマルク帝国皇帝との謁見が行われた。謁見の間には皇帝に近い側から、王候貴族や高級将官、富裕層の平民が直立不動で立っている。
レオナルド以下4名は、貴族よりも最前列にいたが、ウラディミル=レノスキー少将に呼ばれ跪く。しかし、士官の1人であるアーンナ=エシェンコ大尉の姿が無い。謁見の間に向かう途中で、ウラディミルに通告されていたからだ。
「エシェンコ大尉の功績は無いからな。部下に調べさせたが、君は書類を運ぶか、フォンターナ特務大尉の命令を指示するだけだったと聞く。反論はあるかね?」
「‥‥あ、ありません」
ウラディミルの質問に、怒りで顔を赤くしながらも異論はないと答えるアーンナ。不満を抱える彼女だが、隊員達と共に大人しく後方で控えている。
「‥‥ふう、今回の凱旋パレードは茶番であるがな。負けた戦を隠す為に、君達を英雄と称えているのだから。しかし、君達4人は勲章を得るに値する功績を残した。故に余は賞する事としよう」
そう言って玉座から立ち上がった男こそ、ロマルク帝国第20代皇帝ミハイル=グスタフ=ロマルクである。軍事においては第1次エウロパ大戦で皇太子として軍を率い、数多くの武勲を挙げた名将。政治では、内憂外患のロマルク帝国をあの手この手で守り続けた名君として知られている人物だ。
「まずは、エルザ=スタンコ軍曹からだな。顔を上げよ。また会ったな、腹ペコ死神よ」
「陛下こそ、お元気ですか? 最近、また子供が生まれたと聞きましたが」
エルザの言葉にざわつく人々。特に、貴族達は不敬であると怒りをあらわにしている。軍人達は青ざめ、平民達も怯えていた。だが不敬罪で投獄されてもおかしくない言葉に、ミハイルは哄笑で答える。
「はっはっは!! 変わらぬな、君は。生まれたのは娘だが、可愛らしいぞ。ふむ、君の名前を取るかな?」
「姫様が私みたいになったら大変です。止めた方がいいかと」
「確かになあ。腹ペコ死神並の強さを持つ皇姫、どの国も縁談を断るか。ならば止めておこう。‥‥ごほん、それでは改めて勲章を授与する。加えて騎士爵位を与えよう。階級も少尉とするので、君の並外れた飲食代もこれなら賄えよう?」
ミハイルの言葉にどよめく人々。平民の娘が一代限りとはいえ、爵位持ちになったのだ。長きに渡るロマルク帝国史の中でも異例の出来事である。さすがに皇帝の言葉を諌める者が現れた。
「へ、陛下。恐れながら、それは‥‥」
「宰相、言いたい事は分かっておる。『前例が無い』であろう? だが、エルザ=スタンコ少尉は囲い込むに足る人材だ。それとも、彼女に匹敵する軍人を紹介出来るのかね?」
皇帝の問いに沈黙する宰相。答えに窮し、総身冷や汗をかく宰相を見て、謁見の間にいる人々全員が思った。
(((((絶対にいないよね。レノスキー少将以外))))))
誰からも反論が出ない事に皇帝は満足する。これはウラディミルとの話し合いによって、決定した事項である。覆す気など毛頭なかった。
「‥‥し、臣といえどもスタンコ少尉程の人材を見いだす事は出来ませぬ。陛下の御心のままに」
宰相もまた白旗をあげた事で、この件は確定する。気分良くミサイルはエルザに勲章を渡す。
「ならば良いな? スタンコ少尉、そう言う訳だ。気にする事無く受け取るが良い」
「陛下、爵位ありがとうございます。今後も一層の忠節を尽くします」
エルザが礼を言ってひざまずくとミハイルは満足げにうなずく。
(反対するなら対案を示すは当然。奴等に対案など無いのは分かっていたからな。エルザよ、これからもロマルク帝国に従ってくれよ)
そう願いながら、ミハイルは次に勲章を渡す者達の下へと向かう。ボルフとグレゴールの平民出身コンビ。彼らの不満を知るミハイルは、今回の件を機に改革を行う事を考えていた。
(貴族どもの既得権益を徹頭徹尾排除する。そうしなければ、他の列強国に太刀打ち出来なくなるからな。ここは利用させてもらうぞ、2人とも)
ミハイルはエルザの事を気に入っています。
「余にあれ程の言葉を吐けるのは、ウラディミルしかおらんからな。なかなか面白い娘よ。それに下手な貴族よりも戦力を持っている。敵に回すは愚の骨頂だからな」




