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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第1章 左遷からの復活
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第12話 エルザ無双

「隊長、まずいぞ。俺達の装備で重戦車相手は無理だ。撤退するしかない」


ボルフが慌てて、レオナルドの下へ駆け寄る。歩兵では戦車相手だと軽く蹴散らされてしまうからだ。いくら、最新鋭の突撃銃とはいえ戦車の装甲は貫けない。戦車か対戦車砲が必要な局面である。だが、レオナルドの頭はいつもの冷静さを保っていた。


「いや、今から逃げても無駄だ。戦車に追いつかれ、部隊ごと蹂躙(じゅうりん)される可能性が高い。むしろ敵と乱戦に持ち込み、戦車の主砲を撃てなくする方が被害は少ないだろう。戦車の撃破に関しては、援軍の早期到着と彼女の頑張りに期待するしかないな」


レオナルドはそう言って、エルザの方を見る。既に彼女は戦車隊に向け、対戦車ライフルの照準を合わせていた。


「‥‥狙撃の名手たるエルザに戦車を殺らせるか。隊長、1つ聞きますがスタンコ軍曹をどう見てます? ただの道具なのか? それとも‥‥」


「スタンコ軍曹はロマルク帝国最強の女性兵士だと私も思う。だが、その前に一人の人間でもある。だから道具等とは考えていないさ。それにタダ働きじゃないからな、スタンコ軍曹は」


そんなレオナルドの言葉に、指揮車の屋根に登ったエルザが笑いながら答える。


「隊長が、私に1ヶ月ご飯を食べさせてくれる約束をしてくれました。それが交換条件。とても楽しみ」


エルザの返答を聞いて、ボルフは豪快に笑った。そして、レオナルドに同情の眼差しを向ける。エルザの食べる量が半端ないからだ。


一回の食事でコッペパンを6つも食べる。これに加え、スープ3杯と牛乳2瓶を飲み干すのだ。そこらの軍人も真っ青の食べっぷりである。


「隊長、大丈夫なんですかい? 下手したら給料が無くなりますぜ?」


「私もそれなりに考えてるさ。スタンコ軍曹、用意はいいか?」


「問題ない、撃ち抜きます」


エルザは恋した男の命令に奮起し、対戦車ライフルを連射。その弾丸は寸分違わず、重戦車に見事に命中する。だが、戦車の動きは止まらない。狙撃に気付いたのか、こちらに向けて戦車の重機関銃が火を吹いた。その銃弾が近くに弾着し、慌てて避けるグレゴールとアーンナ。


「わっ、わっ。き、効いてるんですか? 戦車の速度が全く落ちてませんよ!」


「ち、ちょっと。対戦車ライフルなんでしょ! 戦車を倒せないなら、意味無いじゃないのよ」


グレゴールとアーンナは不安がるが、エルザは構わずライフルを撃ち続ける。すると突然、戦車5両が前方に猛然と突入し、敵味方関係なく兵士をひき殺していく。どうやら、操縦手を撃ち抜かれた事で戦車の制御が効かなくなったなったようだ。しかし、彼らは最期まで攻撃を止めようとしなかった。


「くそっ、操縦手がやられた! 操縦室も破壊され、制御が聞かない。戦車より脱出も不可能。これより敵に突っ込み、玉砕します。イェーガー大佐ご武運を!」


「くそ、破片が体に刺さって血が止まらねえ。もう‥‥駄‥‥目だ」


「このまま敵に突貫してやる。ドラーム帝国、万歳!!」


部下達の断末魔の叫びを聞き、オイゲンは戦車の装甲を手で思い切り叩いた。何も出来ぬまま、育て上げた精鋭を失っていく。戦車はロマルク軍の中に突っ込んだ後、爆発。周りの味方と敵が爆発に巻き込まれるか、その爆風で吹き飛ばされていた。


「お前ら、応答しろ! ‥‥ちっ、仕方ねえ。残った連中はここから撃て、味方も巻き込んで構わん。戦車主砲で牽制しつつ、敵陣に突入するぞ! 歩兵は、敵狙撃手のいる地点を重点的に攻撃しろ。あのライフルをこれ以上撃たせるな! それしか活路は無いぞ」


「イェーガー大佐、味方に弾当たりますけど!! えーーい、ままよ。撃て、撃てええ!」


『や、やめろおお!! 私がいるんだぞ、砲撃を中止せんか。聞こえているかああ、イェーガー大佐!!!』


『おやあ? 無線の調子がおかしいな。構わん、撃ち込め!』


『ふ、ふざけるなあ‥‥』


ロッテハイム准将の絶叫を無視し、オイゲンの号令の下、戦車の主砲が火を吹いた。砲弾が着弾し、多くの兵が吹き飛ばされ死んでいく。敵味方双方を巻き込んでの無慈悲な砲撃を受け、レオナルドも驚いた。


「敵指揮官はかなり頭がキレる人物だな。そして、味方を犠牲にしてでもがむしゃらに勝利を取りにいける。それに比べ、私は甘いか」


「隊長、心配ご無用です。私が全て仕留めますから」


敵の銃弾が雨のように降り注ぐなか、エルザはライフルの限界を越えるまで撃ち続ける。結果、戦車3両の履帯に被弾し、停止。残す所は、オイゲンとベルントの戦車のみだ。


「何なんだ、俺達をここまで追い込む奴は!? おい、ベルント君。あの狙撃手は倒せたのか?」


オイゲンが焦りを感じる中で、ベルントは双眼鏡である人物を見つけて絶叫する。彼女こそ、ロマルク帝国との戦場で最も会いたくない敵だった。


「あ、あああ。腹ペコ死神だ、腹ペコ死神がいたぞおお! イェーガー大佐。お、俺も死んじゃう!!」


「おい、ベルント君! 駄目だ、こりゃ使い物にならんな。腹ペコ死神‥‥エルザ=スタンコ軍曹か! 厄日にも程があるぜ」


エルザを見つけたベルントは恐怖で錯乱していた。エルザの異名を通信機越しに聞いたドラーム帝国の兵士達も、目に見えて怯え始めている。大幅な士気の低下を察知したオイゲンは決断せざるをえなくなった。


『兵の士気も落ち、戦車もかなり失った。‥‥限界か、仕方ない。俺はドラーム帝国所属オイゲン=イェーガー大佐だ。レオナルド=フォンターナ特務大尉、聞こえるか! 戦闘を中止しろ。取引といこうじゃないか』








エルザに対する隣国の反応


ドラーム帝国

「嫌だああ! 来ないでくれ。どんだけ優秀な指揮官を殺す気だ。それと戦った兵士が、恐怖のあまり使い物にならなくなるんですけどおお!!」


トルド帝国

「聖戦に恐れは無い。神の信仰の為なら命も惜しまん。そう、例え腹ペコ死神でもな。‥‥いや、嘘だから。来ないでね、来るんじゃねえよ!? そこらのアサシンより怖いから、君」


イダルデ解放軍

「戦の女神降臨か。えっ? 女性なのに口説かないかって? 夫婦喧嘩したら、確実に死ぬよね。公私共に無理です!!」


ノルディン連合王国

「うちさ。マルクという凄腕のスナイパーがいるのよ。そのマルクが言うの。『女王陛下、腹ペコ死神と対峙しました。私より上の存在である事に間違いありません』って。どうしよ、暗殺されそうで怖い」


スヴェース連邦


「俺達は、若い連中に常に言ってるんだ。『腹ペコ死神が出たら、逃げるか隠れろ』ってな。傭兵とはいえ、戦ったら確実に死ぬから避けろって言うわな」


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