第11話 戦闘開始
「隊長、10時方向の森の中に敵がいます。気配からして、数は約300程度。黒幕の登場でしょうか?」
双眼鏡で辺りを警戒していたエルザは、そうレオナルドに報告する。兵数の少なさを聞き、彼はほっと胸を撫で下ろす。
「‥‥しかし、やけに少ないな。よっぽど向こうはブレディエフ大佐との関係を上層部に知られたくないようだ。下手をすると2倍の兵力差になると考えていたから、まずは朗報だな」
突然、そう言われた運転席のアーンナは驚きを隠せない。敵兵は森の中にいるようだが、姿形も見えないからだ。
「えっ、何で分かるの? スタンコ軍曹って、いったい何者よ?」
「エシェンコ大尉、話は後だ。300なら少しは楽に対応出来そうだな。全車両へ連絡。鷹は森へ帰る、丸から線へ。スタンコ軍曹、準備しろ」
後部座席で指揮するレオナルドの号令で、車列が輪形陣から縦列陣へ変更される。その間に、エルザは後部座席のライフルケース2個を助手席へと持ち運ぶ。
「了解」
エルザはライフルケースの中から、新型スナイパーライフルを2丁取り出す。1丁はウィルバノフF60。5発のライフル弾を装填出来、連射が可能という優れ物だ。
もう1丁はジルブルト対戦車ライフル。こちらも5発のライフル弾を装填出来る上に、重戦車をも貫けると触れ込みの代物だ。優れた狙撃手でもあるエルザにとっては、鬼に金棒である。
「‥‥来たか。総員、衝撃に備えろ! 敵の砲撃を回避した後、各自応戦開始!! ヤルステイン少尉。白兵戦は頼んだぞ」
森の中から自走式の野戦砲が現れ、ドラーム軍砲兵が車列に向けて砲撃を開始する。そんな中でもボルフは動揺しない。どう猛な笑みを浮かべながら、無線でレオナルドと部下達に返答する。
「了解です。俺達の実力、ご覧にいれましょう。おい、お前ら! この程度の戦場で死ぬんじゃねえぞ。こんな砲撃、霧雨だと思え。総員出撃せよ!」
砲声と同時に、車列の先頭車両付近へ砲弾が降り注ぐ。慌てて、ロマルク軍の兵士達はトラックの荷台から降り、車両の影や地面に伏せて身を隠す。しかし、トラックの何台かに砲弾が命中。ガソリンに引火し爆発炎上にした事で、多くの味方兵士が吹き飛ばされてしまった。全身火だるまになり、喚く者。砲弾の直撃を受け、足しか残らなかった者。泣きながら必死に倒れた仲間に声をかけている者がいる中で、通信機より敵からの通信が入ってくる。
『こちらは、ドラーム帝国東方方面軍副司令モーゼス=フォン=ロッテハイム准将である。君達は完全に包囲された。大人しく降服したまえ』
「愚かな。砲撃によって、自分の位置を教えてくれるとはね。だが、このままだと味方の損害も大きくなるな‥‥。スタンコ軍曹、野戦砲を狙えるか? 可能なら砲兵を爆発に巻き込んで倒してくれ」
「問題ありません。野戦砲に砲弾を装填した瞬間を狙えば良いんですから。これより、大砲を無力化します」
エルザは対戦車ライフルで、野戦砲を次々と狙い打つ。ライフル弾が着弾後、装填された砲弾の火薬に引火したようで、大爆発が連続で起きた。爆風により砲兵もろとも木々が吹き飛び、炎が勢いよく森を焼いていく。
「ぎゃああ! 熱い、熱いい」
「た、助けてくれ。誰‥‥か」
森が火に包まれ、逃げ惑う敵兵達。彼らは火から逃れるべく、平地へと出てくる。だが、そこにはボルフ率いる戦闘部隊が待ち受けていた。燃え盛る炎の中で、部隊を整えたボルフは100名の部下達へ命令する。
「全員銃を構えろ。さっきの砲撃の返礼だ。手加減無用、撃ちまくれ!!」
彼らが持つ、カルートブ50も最新型の突撃銃だ。20発のライフル弾を連射出来る為、集団で弾幕を張れば歩兵を軽く殲滅出来る。抵抗も出来ずに銃弾の雨を受けたドラーム軍。200名近くいたはずの歩兵のうち、半分の100名程に減ってしまう。失った兵の多さにモーゼスは動揺を隠せない。
「砲兵が全滅、歩兵は半壊だと。ええい、全員落ち着け! 敵は少数だ、反撃を‥‥」
「准将、危ない!!」
モーゼスの副官である大佐が上官を押し退け、ライフル弾をその身に受けた。見事に頭を撃ち抜かれ、二度と動かない大佐を見てモーゼスは半狂乱に陥る。
「ひ、ひいい。死んだ、死んだのか? 私は、まだ死にたくない!!」
『運が良い司令官。次は‥‥。いや、こっちの方が問題ね。各隊員へ。6時方向より、敵来襲。砂煙の量から考えて、戦車部隊が来たようです』
『おい、マジかよ! 戦車隊なんて手持ちの武器だと戦えねえぞ』
「れ、レオ君。逃げ‥‥じゃない撤退しましょう! このままじゃ全滅しちゃうう!!」
『エシェンコ大尉殿、それは無理だ。歩兵を見捨てる事になる。この先、敵部隊がいる可能性もあるからな。護衛無しのトラックの車列など、彼らからしたらいい鴨だぞ』
すかさず対人用ライフルから、再度対戦車ライフルへと持ち変えるエルザ。戦場に敵の援軍が到着したのだ。その内訳は戦車10両、歩兵200名近く。突風オイゲンの重戦車隊である。
「おい! おい、おい! どうして、戦闘開始数分で部隊が半壊してんだよ。頼むぜ、ロッテハイム准将閣下」
味方の部隊が見せた失態に呆れるオイゲン。友軍とはいえ、情け無さすぎて泣きそうだ。一方、ベルント=シュルツ少尉は、戦況を見て既に逃げ腰である。
「イェーガー大佐~~。とても嫌な予感がするんです。さっさとここは撤退しましょう」
「ベルント君。君の嫌な予感って、よく当たるんだよね。だが、そういう訳にもいかんだろう。かなり嫌だが、かなり不本意ではあるが! あの馬鹿准将閣下を助けないとな。さあ、レオナルド=フォンターナのお手並み拝見だ。行くぞ、野郎共!!」
「「「「おう」」」」
ベルント君の予感は的中します。彼は強運の持ち主で、絶体絶命のピンチでもなんとかなります。〇ーラ〇ワー見たいな奴だと思ってくれれば。




