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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第1章 左遷からの復活
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第10話 撤退を見る者

「全員乗り込んだな。それでは出発する。ヤルステイン少尉は最後方から援護を頼む。他の者は、ブレディエフ大佐と書類を積んでいる護送車を輪形陣で囲んで進軍する。頼んだぞ」


「「「「了解!!」」」」


帝国歴1856年4月13日12時頃、ロマルク帝国軍はリブニクより撤退する。レオナルドの号令と共に出発する部隊の面々。その後ろでは、リブニク基地が爆発炎上している。アレクサンドルの命令で爆破されたそれは、ドラーム帝国軍にも見えているはずだ。リブニク基地を奪還するのを考えていた彼らにとって、大きな痛手になる事だろう。


『聞こえるか、フォンターナ特務大尉。君達の働きには感謝する。おかげで多くの兵の命を救えた。わしらはデュルク山脈方面に撤退するが、君達は本当にその道を行く気か?』


アレクサンドルが通信機で礼を言いつつも、レオナルド達を心配してくれている。彼らが進む進軍路は、山脈を越えずに平地を進む。故に敵から見つかり易いからだ。だが、今回の作戦の為には通る必要がある道である。レオナルドは、心配するアレクサンデルに礼を告げた。


『少将閣下、お気遣い感謝します。しかし、帝都へはこの道が最短ですので。それに‥‥』


『全て言わんでも分かっとる。幸運を祈ってるぞ!! 帝都でまた会おう』


炎上する基地から2方向に別れて撤退するロマルク帝国軍。その様子を1キラル離れた丘から、双眼鏡で見ている男がいた。オイゲン=イェーガー大佐。柄は悪いが、明るく豪放磊落な性格からか部下の信頼も厚い。30歳の若さでドラーム帝国軍重戦車隊第2隊長となり、その部隊運用の早さと巧みさから、突風オイゲンと呼ばれている。


「大したものだな。さすがはレーム少将だ。不利とみれば面子も考えず、即時撤退。味方にも見習って欲しいものだよ」


赤みがかった茶髪に青い瞳を持つ長身の男は、朗らかに笑いながらも目は笑っていなかった。味方の不甲斐なさに怒りを覚えていたからだ。敵兵を殲滅出来ず、あまつさえ戦略目標を失ったのだから当然の感情ではあるが。


「イェーガー大佐、どうなさいますか? ロッテハイム准将閣下は『ブレディエフ大佐を確保するか、確保が無理であるなら殺害せよ』とお命じになりましたが」


オイゲンに対し、そう尋ねたのは戦車長の1人であるベルント=フォルツ少尉であった。彼は背は低く、体格も優れている訳ではないし、軍人としての才覚は普通だ。しかし、愛嬌はあるので部隊のマスコットのような存在になっている。本人は、そんな扱いをかなり嫌がっているが。


「‥‥パス。ベルント君、何で俺が陰険策士の尻拭いをしないといかんの? 『敵は飢え苦しみ、後は蹂躙するだけ。君達には簡単な任務だよ。はっはっは』とか言ってなかったかな、准将閣下は?」


「‥‥言ってましたねえ。結果がこんなんじゃ、ただただ笑うしかありませんよ」


ブレディエフ大佐の取引相手の1人にして、今回の首謀者であるモーゼス=フォン=ロッテハイム准将。准将の指揮の下で、半ばまで順調に進んでいた作戦も、今や大失敗に成り果てた。


奪うべき基地の喪失とレーム少将を取り逃がした事で。加えてブレディエフ大佐が尋問を受け、自分の名前が出れば身の破滅は間違いない。敵国の指揮官と不正取引をしていたのだ。額の大きさから見て、下手をすれば銃殺もあり得る。


「まあ、准将閣下からしたらブレディエフ大佐が捕まったのが予想外だったんだろう。とはいえ、だ。奴の実家は取り潰されたし、予測は出来たはずなんだがな」


「ですよね。しかし、ブレディエフ大佐を糾弾して捕らえる人物が現れるとは思いませんでしたが」


ドラーム帝国でもレオナルド=フォンターナ特務大尉の名は有名であった。上官の貴族だろうが、馬鹿と直言出来る蛮勇の士官として。平民出身の将兵の中では、彼を英雄だと尊敬する者が多い。普通であれば、貴族の将校に対して絶対に言える言葉ではないからだ。


「目先の利益を欲張ったツケさ。さっさと攻めれば良かったのにな。汚れた金に目がくらんだ結果だ。さて、ベルント君。我らは准将閣下の実力を見に行こうか。あのレオナルド=フォンターナ相手に何処までやれるかな? さぞ、華麗な戦術を披露してくれるだろうさ」


上官を上官とも思わない直属の上官の発言に、頭を抱えるベルント。だが、ある事に気付いてオイゲンに尋ねる。


「‥‥あのう。ロッテハイム准将閣下って、軍内部で策略しか能がないとか言われてませんでしたか? あーー、失敗する所を見に行くんですね。イェーガー大佐、趣味が悪いですよ」


ベルントが導きだした答えに、人の悪い笑みでを浮かべるオイゲン。彼の指摘通り、高みの見物をしようとは考えていた。


だが、それだけではない。ロッテハイム准将の失策を利用し、自分の功績を高めようと狙っているからだ。ブレディエフ大佐を自分達で捕らえれば、将官の地位も望める。故にオイゲンは、いつも以上にやる気が満ち溢れていた。


「まずはお膳立てといこう。ベルント君、准将閣下に連絡。内容は『宝は地を行く蛇の腹にあり』とね。慌てて軍を向かわせるだろうよ」


「‥‥もしかして、ロッテハイム准将閣下をおとりにするつもりでは?」


「そうさ。これくらいは、准将閣下にもしてもらわねばな。では、ベルント君。我々も出発するぞ。全員続け! ロッテハイム准将が失敗した場合は、俺達が手柄を物にする。そして、俺達の働きを軍上層部に見せつけてやれ!」


オイゲンの号令下、重戦車隊が行動を開始する。レオナルド達にとって、彼らは最悪のタイミングで動き出していた。



長さ単位


1キラル=1キロメートル


1セラル=1センチメートル


1ミラル=1ミリメートル

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